児童労働1億3,800万人 SDGs「撤廃目標」目前も遠い現実

世界中で今なお1億3,800万人の子どもたちが、過酷な労働を強いられている。「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」という国際目標(SDGs目標8.7)の期限が目前に迫るなか、その実現には程遠い現実が浮き彫りになっている。
6月11日に国際労働機関(ILO)とユニセフが共同で発表した報告書によれば、世界の児童労働者数は推計1億3,800万人にのぼり、目標実現には現在の11倍の削減スピードが求められるという。
この危機的状況を受けて翌12日、認定NPO法人ACEが事務局を務める「児童労働ネットワーク(CL-Net)」は東京・永田町の第一衆議院議員会館で院内集会を開催。法務大臣、外務・厚労の副大臣をはじめ、JICA、企業、NGO関係者ら77名が参加し、児童労働撤廃に向けた決意を新たにした。
減少傾向も「農業・アフリカに集中」 日本にも存在示される
今回の報告書では、2020年の推計から2,200万人減少したものの、農業分野に従事する児童労働者は依然全体の約6割を占め、地域別ではサブサハラ以南のアフリカに集中していることが明らかとなった。日本を含む高所得国にも児童労働は存在しており、グローバルな問題としての様相を呈している。

児童労働の削減要因について、ILO駐日事務所の髙﨑真一代表は「教育の普及、法的・社会的保護、企業の責任ある調達」が鍵であると分析した。一方で、減少ペースがこのままでは到底目標に届かないことも強調。「今後5年で撤廃を目指すならば、11倍のスピードで取り組まなければならない」と警鐘を鳴らした。
「政治の意思が不可欠」 各界から危機感と連携の声
院内集会では、政府や企業、NGOが次々と登壇し、取り組みの現状と今後の方向性を共有した。

法務大臣の鈴木馨祐氏は「ビジネスと人権の観点から、企業のサプライチェーン内の児童労働排除に向け、関係省庁と連携して対応する」と述べ、仁木博文厚労副大臣は「ILO182号条約が全加盟国に批准された意義を踏まえ、行動を重ねることが必要だ」と語った。
外務副大臣の宮路拓馬氏は、日本がガーナ共和国で進める「児童労働フリーゾーン(CLFZ)」プロジェクトへの2億円拠出を紹介し、「教育と地域開発の両輪で児童労働に取り組む」と強調。駐日ガーナ大使のジェネヴィーヴ・アパルゥ氏は「持続可能な農業と子どもに優しいコミュニティ構築には日本との連携が重要」と呼びかけた。
パネルディスカッションでは、ロッテ、JICA、ACEの各代表が登壇。自社の責任、現場での課題、資源の適正配分の重要性などが議論された。ACEの白木朋子氏は「リソースがあれば変えられる現場は多い。子どもの声に耳を傾ける姿勢が欠かせない」と述べた。
ACEが政策提言 「データなし」の日本、体制強化求める
ACEは今回の集会にあわせて、政策提言書を発表。政府に対しては、途上国への国際協力の継続と強化、日本国内での実態把握、法整備を含む対応強化を求めている。特に、国際枠組み「Alliance 8.7」におけるパスファインダー国としての役割を果たすこと、児童労働の法的定義付けと実態データの整備は喫緊の課題とされる。
ACEによれば、日本はSDGs8.7の共通指標である「児童労働者数」に関して、いまだ「データなし」の状態が続いており、現場の実態が可視化されていない。これを受け、厚労省・こども家庭庁・警察庁など省庁横断の連絡会議の設置と、国家行動計画の策定が必要だと提言する。
2025年7月には国連ハイレベル政治フォーラムで児童労働に関するサイドイベントを開催する予定で、国際的な世論喚起と各国政府への働きかけを強めていく方針だ。
ACE代表の岩附由香氏は、「児童労働がなくならないのは貧困のせいではなく、政治的意思の欠如にある」と述べ、各界の継続的な関与と決意ある行動の必要性を訴えた。