
4月4日は「養子の日」です。特別養子縁組は、さまざまな事情で生みの親のもとでは暮らせない子どもを、自分の子どもとして迎え入れる制度です。
子どもの福祉の増進を図ろうと、国は年間1000件の成立目標を掲げますが、2024年の実績は563件と、欧米に比べ広がりは鈍いのが現状です。意外と知らない特別養子縁組について、支援に取り組む公益財団法人ミダス財団・事業統括の玉川絵里さんに聞きました。
特別養子縁組は、子どもの福祉の増進を図るための制度
ー特別養子縁組とはどのようなものでしょうか。養子縁組との違いはどんな点ですか。
養子となる子どもの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度です。
養親は原則25歳以上(夫婦の一方が25歳以上であれば一方は20歳以上で可)で配偶者がいること、養子は原則15歳未満であること、縁組が成立する前に養親が子どもと同居し、養育する6カ月以上の期間を考慮するといった要件があります。
普通養子縁組との大きな違いは、戸籍の表記です。普通養子縁組では、養子の続柄は「養子(養女)」と記載されます。一方、特別養子縁組は養子の続柄は「長男(長女)」などと記載されます。

ーミダス財団は、NPO法人ミダス&ストークサポートとパートナーシップを結び、予期せぬ妊娠をした女性(生みの親)の相談と、特別養子縁組あっせん事業、縁組後の家庭を支援しています。養親を希望するのはどんな方ですか。子どもを迎え入れるまで、どのようなステップを踏みますか。
不妊治療に取り組んできたけれども、子どもを授からなかった方、「家庭を必要とする子どもがいるならば、自分たちが育てたい」と希望する方など養親を志す理由はさまざまです。
特別養子縁組で養子を迎え入れるためには、家庭裁判所への申し立てが必要です。児童相談所や民間のあっせん機関を通じて手続きが進められるケースが一般的です。
民間のあっせん機関、児童相談所では、養親になるための研修や審査があります。審査は書類や対面、家庭訪問など複数の段階があり、一般的に1年前後かかります。その後、6カ月以上の試験養育期間を経て、家庭裁判所が審判を確定させます。

ーこれまで、どれくらいの特別養子縁組が成立しましたか。
2024年4月から2026年1月の2年弱で、ミダス&ストークサポートの特別養子縁組を通じて家族になった子どもと養親の数は計165人です。全国には民間の養子縁組あっせん機関が22団体ありますが、その中でもトップクラスの数です。また、私たちは生みの親からの相談支援も重視しています。2026年1月までで、593件の相談を受け、内55件は特別養子縁組の制度を利用しています。制度を利用しなかった生みの親には自己養育できるよう関係機関等の支援につないでいます。
養親が赤ちゃんを迎え入れる日
ー玉川さんは、生みの親と養親が会い、養親がお子さんを迎え入れる現場にも立ち会ってきました。特別養子縁組の象徴的な場面かと思います。どのような様子なのでしょうか。
ケースによって異なりますが、妊娠中から支援してきたケースの場合、生みの親さんが無事に出産されたら退院の日に病院に伺うことが多いです。生みの親さんのパートナーや親御さんが一緒のこともありますが、生みの親さんがおひとりで退院される場合も少なくありません。
その後、病院や近くの面会場所まで行き、生みの親さんとお話しします。生みの親さんの気持ちが落ち着いたら「じゃあ今から養親さんが来ますね」と言って、近くで待機していた養親さんと赤ちゃんと初めて対面します。
生みの親さんの中には、養親さんと会いたくないという方もいらっしゃるので、全員が対面するわけではありません。
この時点では、養親さんにとって赤ちゃんはまだ法律上の実子ではありません。ですが、自分たちの子となる赤ちゃんを初めて抱っこする日です。赤ちゃんの温かさや匂い、小さいけれどもずしりとした重みは本当に特別ですね。不妊治療などを経験されてこられたご夫婦も多く、胸がいっぱいになる瞬間です。

でも、生みの親さんには赤ちゃんを養親さんに託すことで安心する気持ちだけでなく、やはり悲しく寂しい気持ちもあると思います。生みの親さんのそうした気持ちに共感し、涙ぐむ養親さんもいらっしゃいました。「この子が幸せであるよう、一生懸命育てます」「写真を送りますね」など、養親さんから生みの親さんにお話されたりします。
私たちは、生みの親さんと養親さんと赤ちゃんとで記念写真を撮ることも推奨しています。「赤ちゃんに『産んでくれたお母さんからこうやってあなたを託されたんだよ』と見せてあげてくださいね」と伝えます。
その後、生みの親さんはお帰りになり、私たちと養親さんとで、赤ちゃんのおむつ替えやミルクの練習をします。養親さんは事前に人形での研修は受けていますが、実際の赤ちゃんのお世話は初めての方も多く、少し緊張した様子も見られます。
ーー赤ちゃんの引き渡しで、印象に残っているエピソードはありますか。
引き渡しの日に、生みの親さんが、小さなぬいぐるみを養親さんに手渡してくれたことがありました。ある生き物の形をしたぬいぐるみだったのですが、生みの親さんのお名前に関連する生き物だったので、彼女なりに色々考えて買ってこられたのかな、と感じました。

養親さんたちはそのぬいぐるみを大事そうに受け取ってくれたんですが、その後、月に一度赤ちゃんの写真を撮るときに、必ずぬいぐるみを隣に並べてくれました。私たちは赤ちゃんの引き渡しから1年間、毎月一度は養親さんから育児報告を頂いて、赤ちゃんの写真を生みの親さんにお送りしています。
生みの親さんは、ご自分がプレゼントしたぬいぐるみといつも並んで写っている赤ちゃんを見て、とても嬉しかったと思います。赤ちゃんがすくすく大きくなっていることも、養親さんたちがこのぬいぐるみを通じて生みの親さんのことを大切に赤ちゃんの隣に存在させていることも、これらの写真から伝わってきました。
昔は養子であることを伝えずに育てることもあったようですが、現代では、養子であることを迎え入れた時から自然に伝えることが推奨されています。この赤ちゃんが成長するときにいつもこのぬいぐるみが側にあることは、きっと赤ちゃん本人にとっても生みの親さんのことを日常のなかで身近に感じる要素になるだろうと思っています。
予期せぬ妊娠をした女性を相談支援につなげる
ー予期せぬ妊娠をした女性が、特別養子縁組を決めるまではどのような段階を踏むのでしょうか。
女性たちの中には、「怒られるのではないか」と不安を抱えながら相談に来る人もいます。予期せぬ妊娠をして、罪悪感や不安といったさまざまな気持ちを抱えています。
私たちは、「勇気を出して相談に来てくれて良かった」と思っています。妊娠週数や病院を受診できているか、いま安全な環境にいるのかなどを確認しつつ、生みの親さんと一緒に最善と思う方法を探していきます。ご本人が特別養子縁組を希望されている場合は制度について説明しますが、特別養子縁組以外の選択肢も提示して丁寧にアセスメントを行います。
ー特別養子縁組ではない選択をする方もいるのですか。
はい。例えば人工妊娠中絶に間に合う妊娠週数の女性で、出産を希望しない方なら、妊娠を継続しないという選択肢があります。産まない選択をする決定権は自分自身にあります。
また、「本当は自分で育てたいけれど難しい」と話す方もいます。その場合、育児が難しい理由や家族や親戚で協力してくれそうな方はいないかをヒアリングしていきます。「親には妊娠したことを言えない」という方でも、実際に親に相談すると、育児に協力してくれるケースもあります。ただし、親から虐待を受けているなどのケースもあるので、親に伝えるかどうかはケース次第です。
妊娠中にメール相談を受け、日程調整して対面の面談を行い、数時間かけてこうした制度の説明やアセスメントを行います。対面の面談に来られるときは緊張して不安げな表情だった生みの親さんが、相談支援を経て今後の見通しが立ち、少しだけ安心した表情でお帰りになるのは相談員にとってはやりがいを感じる瞬間だと思います。
ー生みの親にとって、特別養子縁組に同意することは非常に重い決断です。
特別養子縁組を希望するかどうかは、慎重に意思確認しなければなりません。それでも過去に、生みの親が養親に赤ちゃんを引き渡した後に、心変わりすることはありました。2020年の法改正で、実父母の同意から2週間が経過した後の撤回はできなくなりましたが、以前は裁判所の審判までは生みの親が翻意することができました。
生みの親の翻意は、既に赤ちゃんとの生活が始まっている養親ご夫婦にとってはものすごく辛いものです。頻繁に養育環境が変わるのは赤ちゃんにとっても望ましくありません。こうした辛い状況にならないように、相談に来る生みの親さんには、特別養子縁組制度がどういうものなのか、養子縁組以外の方法についても考えて頂くよう、丁寧に説明します。
2026年から生みの親の産後支援をスタート
ーミダス財団は2026年から、生みの親への支援も始めました。支援の中身について教えてください。
出産は非常に体に負担がかかります。産褥期は安静にしなければならないのに、支援を得られず、一人で生活しなければならない実親さんは少なくありません。出産後も継続して支援したいのですが、マンパワーが足りません。そこで、若年層の支援をする認定NPO法人さんと連携し、対象となる方たちに、産後の女性が食べられる栄養ある食品を配送していただいています。
【プレスリリース】特別養子縁組制度を利用した実親への支援を開始

ー特別養子縁組制度を社会に周知する活動にも力を入れています。
企業や団体にお招きいただき、特別養子縁組制度についてお話する機会が増えました。2月にはJICA(独立行政法人国際協力機構)の社内ラジオで、1時間ほどお話させていただきました。
登壇後のアンケートで「制度を初めて知った」という声や、「実子はいるけれども今後、養子を迎え入れることも考えたい」という声など、うれしいお声をいただきました。
特別養子縁組は日本全体で見てメジャーなものとは言えません。ですが、制度を知ることで、同僚や友人といった自分の近しい人が養親になるかもしれない、いつか自分も養親になるかもしれないと、一気に身近になります。こうした変化を見ると、活動の意義を感じます。
ー最後にcokiの読者の方へのメッセージをお願いします。
養親不足というボトルネックを解消するためにも、社会に認知してもらう活動が必要だと思っています。2024年に、企業の人事担当者向けに「特別養子縁組対応支援ハンドブック」を作成しました。特別養子縁組を利用してお子さんを迎える従業員から、育児休業を取得したいと相談があったときの対応方法をまとめたものです。

もしこの記事をお読みになった方で、民間企業にお勤めの方がいらっしゃれば、ご自分の会社の産休育休制度が実子だけを想定した書き方になっていないかを見ていただきたいです。
私たちが全文無料公開しているハンドブックもありますし、不明な点があれば、いつでも企業にご説明に伺います。まずは企業側が、特別養子縁組で親になる人を支援するという雰囲気をつくっていただけたら嬉しいです。



