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VOGUE(ヴォーグ)、記事・広告から毛皮禁止へ ファッション界に広がる「Fur Free(ファーフリー)」 について考える

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ファーフリー宣言

長きにわたりラグジュアリーの象徴とされてきた「リアルファー(動物の毛皮)」が、今や時代遅れの産物として、その存在を急速に消しつつあるのだ。この動きを決定づけたのは、世界的な権威を誇るファッションメディアと、数々の有名ブランドによる「ファーフリー」宣言である。いったいなぜ、ファッションの価値観はここまで大きく変化したのだろうか。その背景には、動物愛護とサステナビリティ(持続可能性)への意識の高まり、そして若い世代の価値観の変化があった。

 

ファッション界の絶対的権威「ヴォーグ」もファーフリーへ

2025年10月、アメリカのメディア大手コンデナストは傘下のファッション誌「VOGUE(ヴォーグ)」をはじめ、「ニューヨーカー」や「バニティフェア」「GQ」といった高級誌や情報誌で、新たに動物の毛皮を扱わないというガイドラインを発表した。特に、ファッション界で圧倒的な影響力を持つヴォーグの決断は、この「ファーフリー」の動きがもはや一時的なトレンドではなく、業界全体の不可逆的な変化であることを決定づけるものだった。

このヴォーグの決断に至るまでには、実に9ヶ月間にわたる動物愛護団体「CAFT」の地道な抗議活動があったという。活動家たちは、ヴォーグの編集者の自宅前で張り込み、イベント会場周辺でデモを展開。その熱心な訴えは、ついにはコンデナストの首脳陣を動かし、全誌での毛皮排除という画期的な方針転換につながった。

これは、同じくファッション界のビッグネームである仏ファッション雑誌「ELLE(エル)」が、2021年12月に全世界45のエディションから毛皮を排除すると発表した動きに続くものだ。エルは、動物愛護意識の高まりと、読者である若者たちの好みの変化を理由に挙げ、紙媒体、デジタル、SNSのすべてでアニマルファーを扱うコンテンツを禁止すると宣言した。インターナショナル・ディレクターのバレリア・ベソロ・ロピズ氏は、「毛皮は時代遅れで、もはやファッショナブルではない。特に、ファッション・高級品業界の最大のターゲットであるZ世代(2000年代生まれ)は、ファッションが責任のある、エシカルで革新的なものであることを望んでいる」と語っている。

これらのファッション誌の決断は、単なる紙面の編集方針の変更にとどまらない。ファッションの「あるべき姿」を提示してきたメディアの権威が、自らファーフリーの旗を掲げたことは、消費者の意識をさらに変え、業界全体のファーフリー化を加速させることになったのだ。

ラグジュアリーブランドも続々と「ファーフリー」を宣言

 

ファッションメディアの動きに先んじて、数々のラグジュアリーブランドもファーフリーの波に乗っている。かつては富とステータスの象徴であったリアルファーは、今や「倫理観に欠ける素材」として敬遠されるようになった。この変化は、業界の「ゲームチェンジャー」となったあるブランドの決断から始まった。

そのブランドこそ、イタリアの老舗メゾン「GUCCI(グッチ)」だ。2017年、グッチは2018年春夏コレクションからリアルファーを使用しないと発表し、ファッション界に大きな衝撃を与えた。当時、ファーフリーを宣言するブランドは、カルバン・クラインやラルフローレン、トミー・ヒルフィガーなど、アメリカブランドが中心だった。これに対し、イタリアは毛皮や革製品を主力とするブランドが多く、職人技術に裏打ちされたファーは、同国のファッション文化に深く根ざしていた。そのため、グッチの決断は、ファッション界だけでなく一般の消費者にとっても、大きな関心を集めるニュースとなったのである。

グッチのファーフリー宣言は、その後多くのラグジュアリーブランドに影響を与えた。2018年には、シャネルがエキゾチックレザー(ワニ、ヘビ、トカゲなど)の使用を廃止すると発表。2019年にはプラダグループが2020年春夏コレクションからのファーフリーを宣言した。プラダのデザイナーであるミウッチャ・プラダは、「私たちは革新的な素材に焦点を当て、エシカルな製品への需要を満たしながら、独創的なデザインの新たな境界線を模索していく」とコメントしている。

また、2021年には仏ラグジュアリー・グループのケリングが、傘下の全ブランドで毛皮の使用を永久的に中止すると発表。グッチに続いて、バレンシアガ、アレキサンダー・マックイーン、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどの人気ブランドも、ファーフリーの道を歩み始めた。さらに、カナダグースやヘルノといった、毛皮をシグネチャーとしてきたアウターウェアブランドまでもが、長年の批判を受けてファーフリーに移行することを決断した。

 

なぜ、これほどまでに多くのラグジュアリーブランドがファーフリーへと舵を切ったのか。その背景には、動物愛護団体の圧力だけでなく、消費者の意識の変化がある。ファッションに特化した分析会社「Edited」が2017年に発表した調査によると、グッチはミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭生まれ)が最も購入しているラグジュアリーブランドであり、その売り上げは前年同期比で驚異的な伸びを見せたという。

多くのメゾンブランドが、将来のメイン顧客となるミレニアル世代やZ世代をターゲットに据える中で、彼らが持つ「共感できる商品・サービスを求める傾向」や「商品の背景やストーリーまで含めて価値だと考える」という価値観は、無視できないものとなっている。グッチのCEOマルコ・ビッザーリが、「若い顧客層がその隙間を埋めているため、ビジネスへの影響は懸念していない」と語ったように、ファーフリーは単なる倫理的な決断ではなく、未来の顧客を見据えた長期的な戦略なのだ。

各ブランドのファーフリー宣言(一例)

Calvin Klein(カルバン クライン)

早期にリアルファーを廃止した先駆的ブランド。1994年に最初のファーフリー宣言。「思いやりある選択」としてファーフリーを表明した。

Ralph Lauren(ラルフ ローレン)

2006年にファーフリーへ移行。1,200点の毛皮製品を寄付し使用を中止。動物福祉とファッションの両立を掲げた。

CHANEL(シャネル)

2018年にクロコダイルやスネークなどの皮革(エキゾチックレザー)の使用を禁止。ここには毛皮も含まれるという。倫理的な調達が困難ということが理由と説明していた。

VERSACE(ヴェルサーチェ)

ドナテラ・ヴェルサーチェが毛皮不使用を明言。2018年にリアルファー使用を終了。「動物を犠牲にしないファッション」を掲げた。

COACH(コーチ)

2018年にリアルファーを廃止。CEOが「動物を殺してファッションを作らない」と宣言。以後のコレクションで毛皮を一切使用していない。

PRADA グループ(PRADA/MIU MIU ほか)

2019年に発表し、2020年春夏コレクションから実施。既存在庫は販売を継続し、レザーは副産物として使用。

Kering(ケリング)

2021年にグループ全体で毛皮を使用しないと発表。2022年秋冬以降は全ブランドでファーフリーに。グッチやサンローランなども順次同方針を採用。

Canada Goose(カナダグース)

2021年に方針転換を発表。コヨーテ毛皮の調達と使用を段階的に廃止した。2022年末までに毛皮使用を終了。

Dolce&Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)

2022年以降、すべてのコレクションにおいて動物の毛皮の使用・販売を廃止。動物の毛皮を使用せず、持続可能な未来を目指すことが目的。

環境と倫理観の狭間で揺れるファッション界の新たな課題

 

しかし、ファーフリーの動きがすべてを解決したわけではない。リアルファーに代わって主流となりつつある「フェイクファー」は、ポリエステルなどの化学繊維から作られていることが多く、生分解に何百年もかかるといわれている。

環境負荷の観点からは、必ずしもリアルファーより優れているとは言えないのだ。ヴォーグ誌の元編集長、アナ・ウィンター氏が2019年のCNNのインタビューで「フェイクの毛皮が本物より環境を汚すことは明らかだ」と主張したように、この問題は業界内で根強く議論されている。

一方で、リアルファーを「食肉生産の副産物」として捉え、有効活用するという考え方もある。また、丁寧に手入れをすれば何世代にもわたって受け継ぐことができるため、「長く使えて環境に優しい」という捉え方も存在する。

この複雑な問題に対し、ファッション界は新たな素材開発で応えようとしている。動物性の素材を一切使わない「ベジタリアン・ラグジュアリーブランド」として知られるステラ マッカートニーは、道徳的および環境的観点からファーやレザーを使用せず、植物由来の素材を研究し続けている。また、日本の東レが開発した「ウルトラスエード」やカネカの「カネカロン」など、高品質な代替素材の技術進歩も、ファーフリーの動きを後押しする重要な要因となっている。

消費者もまた、ファッションの「背景」を問う時代になった。単にデザインやブランドネームだけでなく、その商品がどのように作られ、どのようなストーリーを持っているのかに共感できるかどうかを、購入の判断基準にしている。ファッションは、今、単なる装飾品ではなく、私たちの価値観や倫理観を表現する手段へと進化しつつあるのだ。

ファーの未来、そしてファッションの進化は続く

 

長きにわたりラグジュアリーの代名詞であったリアルファーの時代は、終わりを告げようとしている。これは、一部のブランドやメディアによる一過性の流行ではなく、消費者の価値観の変化と密接に結びついた、ファッションの根本的なパラダイムシフトなのだ。

しかし、ファーフリーが完璧な答えではないことも明らかだ。リアルファーの環境負荷とフェイクファーの環境負荷、そして動物の倫理的な扱いという、複雑な課題が混在している。ファッション界は、この課題に向き合い、サステナブルな未来へ向かうための新たな道を模索し続けている。

今後、ラグジュアリーブランドは、よりエシカルで革新的な素材を開発し、その製造過程の透明性を高めていくことだろう。そして消費者は、そのブランドがどのような「信念」を持って服を作っているのかをさらに深く知ろうとする。ファッションの進化は、デザインやトレンドだけでなく、私たちの生き方や価値観と連動して、これからも続いていく。

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ライター:

女性向け雑誌にて取材・執筆及び編集に従事。独立後は、ライフスタイルやファッションを中心に、実体験や取材をもとにリアルな視点でトレンドを発信。読者が日々の生活をより豊かに楽しめるような記事を提供し続けていることがモットー。

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