報告書と実績を同時発表

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2025年8月、2024年度のサステナビリティ報告書とあわせて、最新の運用実績を公表した。世界最大の年金基金として、脱炭素やESG投資の深化に加え、実際の収益面でも一定の成果を確保したことを明らかにしている。
Scope3排出量への対応強化
報告書の柱は、投資ポートフォリオの炭素排出量をより精緻に見える化した点だ。これまで難しかったScope3、すなわちサプライチェーン全体を含む排出量の把握に踏み込み、日本株や外国株、債券といった資産クラスごとの炭素強度を数値で示した。
欧州のCSRDやISSBの国際基準に沿った動きであり、開示後進国と評されてきた日本が、国際水準に接近しつつあることを示す。
人的資本・多様性への注力
環境に加え「人への投資」が強調された点も特徴的だ。女性役員比率や人的資本の開示水準を投資判断に組み込み、企業に対して透明性強化を促す姿勢を明示した。これは2023年に金融庁が人的資本開示を義務化した流れとも合致している。
スチュワードシップ活動の深化
議決権行使の賛否率だけでなく、企業との具体的な対話事例を紹介したことも新しい。気候変動対応が遅れる企業には開示改善を求め、人的資本に課題を抱える企業には情報開示の拡充を働きかけた。運用機関への委託にとどまらず、自ら発言する姿勢を強めたことで、透明性は格段に高まった。
ESG債投資の拡大
グリーンボンドやサステナビリティボンドへの投資も拡大。世界銀行や新興国インフラ関連の債券購入を通じ、資産運用を通じた社会的インパクトの創出を狙う。
2024年度の運用成果
こうしたサステナ取り組みと並行して、2024年度の運用実績も示された。年間の収益率は+0.71%で、収益額は1兆7,334億円。外国株式で▲5兆3,594億円と大幅な損失が出たが、国内債券が+5兆2,569億円、外国債券も+1兆2,881億円と堅調で、全体として黒字を確保した。
年度末の運用資産残高は249兆7,821億円。内訳は国内株式23.94%(61兆6,186億円)、外国株式24.05%(61兆9,188億円)、国内債券27.64%(71兆1,500億円)、外国債券24.37%(62兆7,302億円)となり、基本ポートフォリオの「株式50%・債券50%」を維持している。
市場運用開始以来(2001年度~2024年度)の累積収益額は155兆5,311億円に達し、年率換算で+4.20%を確保。長期的な安定運用の成果を数字で裏付けた。
国際比較で見える日本の立ち位置
ノルウェー政府年金基金が石炭関連投資から撤退を打ち出すなど、欧州の年金基金は環境対応で先行している。米国のCalPERSもScope3の開示を拡大している一方で、政争の影響でESG投資への逆風も強い。GPIFはこうした中で、収益の安定と国際基準への歩み寄りを両立しようとする点に独自性がある。
年金加入者への意味
専門的な投資の話は生活者には遠い印象を与えがちだ。しかし気候リスクを無視した投資は将来の損失を招く可能性がある一方で、人的資本を重視する企業は長期的に安定した収益を生む。GPIFが掲げる「持続可能なリターン」とは、年金加入者一人ひとりの将来を守る現実的な戦略に他ならない。
今後の展望
報告書はTCFDに加え、ISSBや自然資本を扱うTNFDの基準を見据えており、今後の国際的な比較可能性を高める方向性を示した。環境から人材まで、サステナビリティを全方位的に取り込む動きは、世界最大の年金基金としての責任を裏付ける。