
河淳は「廃棄カーテン」を資源に変える日本初の挑戦に踏み出した。持続可能な未来を見据えた革新的な仕組みが、業界に波紋を広げている。
日本初の循環型カーテンサービス「Retex」が始動
河淳株式会社は2025年4月1日より、廃棄されたカーテンを再資源化し、新たなカーテンとして再生する日本初の循環型カーテンサービス「Retex(リテックス)」の提供を開始する。製品化までには、ユニベール株式会社、株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパン、有明興業株式会社の3社が協力。使用済みのカーテンから新しいカーテンを製造・販売する取り組みは、国内では前例がないという(同社調べ、3月6日時点)。本サービスは、特にホテル業界を主な対象としながら、今後はクッションカバーや家具などへの用途展開も視野に入れる。
年間およそ120トンにも及ぶ廃棄カーテンの行方が変わることで、CO2排出量の大幅削減と廃棄物削減の同時実現を目指す。販売価格は、遮光性・防炎性などを備えた再生カーテン1セット(幅200cm×丈220cm)で55,000円からとなっている。
再生素材の品質と機能性を両立した独自技術
Retexの最大の特長は、製品の機能性を妥協せず、循環を前提とした製造体制を確立した点にある。カーテンの生地に含まれるポリエステル素材は、再生処理の過程で強度が落ちやすく、従来の高速織機では糸が切れるなどの課題があった。これに対し、河淳は3年を費やして、適切な温度管理や異物除去の技術、そして再生糸の撚り合わせ手法を確立。こうした試行錯誤の末、通常品と遜色のない品質を保った製品化にこぎ着けた。
さらに、表地に適さない黒色素材は遮光機能として活用し、遮光性とデザイン性の両立も図った。「再生素材であることを“味”に変える」発想が、同社ならではの創意工夫として光る。
環境課題に挑む哲学――河淳のサステナブルなものづくり
「作ったものが、いずれ捨てられてしまう」。河淳ホテル事業部・企画開発部の茂野真幸は、この現実に長らく向き合ってきたという。廃棄物を生み出すことへの葛藤が、Retex構想の原点にある。
プロジェクトに関わるユニベールの堤氏も「ペレット製造や再生糸の品質向上は、日々試行錯誤の連続です」と語る。エコログ・リサイクリング・ジャパンの田邊氏もまた、再生素材の製造過程で発生するコストや工程の改善に挑戦し続けている。
華やかなマーケティングを前面に押し出すのではなく、「本質的な価値とは何か」という問いに立ち返る姿勢が、同社の取り組みを支えている。
河淳の挑戦に見る持続可能なビジネスモデルのヒント
サステナビリティを標榜する企業は少なくない。しかし、実際に経済的リスクを背負いながら、新たな産業構造を模索する企業は多くないのが実情である。河淳のRetexは、その“本気度”を具体的な製品とサービスに落とし込み、社会に提示した希有な事例といえる。
重要なのは、循環型の仕組みを企業単体で完結させるのではなく、他企業と連携し、業界全体を巻き込んでいくアプローチにある。しかも、再生素材を単に「環境にやさしい代替品」としてではなく、機能性とデザイン性を両立した製品として市場に提案している点は、持続可能な製造モデルの今後の指針となり得る。
廃棄を「資源」と見なす眼差し。そこには、モノに宿る価値を再発見し、次の世代へとつなげていく強い意志がある。カーテンという日常品を通じて、河淳は「つくる責任」と「つかう責任」の両方に応えようとしている。