上場企業(グロース)の株式会社ベビーカレンダーで、前代未聞の不祥事が発覚した。同社の元取締役CFO(最高財務責任者)が、会社の売上や現金を着服していたことが特別調査委員会の報告書により明らかになったのだ。
ベビーカレンダーといえば、妊娠・出産・育児情報の専門サイトとして知られている 。同社は2015年にクックパッド株式会社から同事業を譲り受け、「クックパッドベビー」としてメディア事業をスタートさせた 。その後、2017年に代表によるMBO(経営陣買収)で独立して現在の社名に変更し、2021年には上場も果たした成長企業である。
3月31日、特別調査委員会の報告書では「A氏」と匿名にされているこの元CFOだが、その正体は竹林慶治氏である。竹林氏は広島県に生まれ、1993年4月にひろしま会計事務所(現・TCA税理士法人)に入所して税務・会計業務の責任者を務めた経歴を持つ。その後、丸上食品工業株式会社での営業職などを経て、2009年2月には渡辺税理士事務所でベンチャー企業の経理全般を請け負う事業責任者を担った。
ベビーカレンダーには2019年5月に入社し、2022年3月に取締役CFOへと昇り詰めた人物だ。
巧妙かつ杜撰な「YouTube収益」の中抜き
事件の舞台となったのは、同社が事業譲受で取得したYouTubeチャンネルである。報告書によると、竹林氏は会社が運営・管理すべきYouTubeチャンネルの広告収益の受取先を、自身の個人口座に設定するという大胆な手口に及んでいた。
Googleから個人の口座に振り込まれた広告収入のうち、彼は毎月一部を抜き取って着服し、残りの金額を、あたかもGoogleからの入金であるかのように「振込グーグル」等の名義に偽装して、会社の口座へ振り込んでいたのである。着服額は、売上着服で926万3000円に上り、さらに会社の小口現金からも120万円を着服していた。

驚くべきは、その偽装の杜撰さだ。ある時、竹林氏は偽名義での振り込みを忘れ、自分自身の名義で会社に約996万円を振り込んでしまった。経理担当者から「ポケットマネーの誤入金かと思ってびっくりしちゃいました(笑)」とチャットで突っ込まれると、「今月の入金の際にグーグル名で入金し忘れてしまいました」と苦しい言い訳でその場を凌いでいたというから呆れるばかりだ。
「他人アカウント」を悪用した自己承認とガバナンス崩壊
なぜこのような不正が長期間発覚しなかったのか。そこには、上場企業とは思えないお粗末な管理体制があった。2023年4月以降、経理担当者は大阪支社にいる1名のみとなり、承認者である竹林氏に権限が完全に集中していたのである。彼は内部統制をすり抜けるため、会計システム上で他部署の社員のアカウントを勝手に作成し、そのアカウントを利用して自ら仕訳を登録していた。そして、その仕訳を部下である経理担当者に申請させ、最終的に自分自身で承認するという「自己承認」状態を作り出し、不正を隠蔽していたのだ。
小口現金に至っては、竹林氏が承認手続きを経ることなく、会社のキャッシュカードで預金口座から自由に現金を引き出せる状態だった。監査役からは再三にわたり経理部門の人員増を早急に行う必要があると指摘があったにもかかわらず、当時の経営陣は元々経理担当だったため余剰が生じるなどと考え、人員補充を先送りしてこの異常事態を放置していた。
資金繰りの重圧とM&A交渉での「暴走」、そして失踪
竹林氏の破滅は、会社の資金繰り悪化とM&A資金の調達というプレッシャーの中で訪れた。2024年秋、竹林氏は2億円の借入れに向け銀行と融資交渉を進めていたが、スケジュールが間に合わず頓挫しそうになっていた。焦った竹林氏は、なんとM&Aの相手先企業の代表に対し、会社に内緒で独断で1億円の資金移動を懇願するという暴走を見せる。
しかし、これも限界を迎え、2024年10月4日、竹林氏は社長らに資金調達ができていないことを隠していたなどと謝罪するメールを送信した。そのまま会社に出社しなくなり、事実上の逃亡劇となったのである。その後の調査に対し、竹林氏は横領の動機を個人の借入金の返済のためと語っている。
今回の事件は、単なる個人の横領事件に留まらず、リスクマネジメントの欠如や内部監査の形骸化といった統制環境の不備が不正の温床となったことは間違いない。罪を償い、誰もが社会復帰を認められるべきなのは当然だが、それにしても、自社のガバナンスの穴を突き、ここまで私物化したというのはなかなかにひどい話だ。
同社のYouTubeチャンネルを覗いてみると、かわいい赤ちゃんたちが無邪気に泣いたり笑ったりしているショート動画が多数アップされている。だが、ずさんな管理体制でCFOに会社のお金を抜き取られていた今、一番大声で泣きたいのは、赤ちゃんでなく会社の経営陣、ひいては株主のほうだろう。



