売上1.3兆円で営業利益210億円という歪んだ決算

11月14日、ニデックが2026年3月期第2四半期(中間期)の決算短信を公表した。売上高は1兆3023億円と、数字だけ見れば依然として巨大メーカーの風格を保つ。しかし営業利益は211億円にとどまり、前年同期の1204億円から8割以上吹き飛んだ形だ。
税引前中間利益も303億円と、前年の996億円から大きく目減りし、親会社株主に帰属する中間利益は311億円と、前年の753億円から半分以下に沈んだ。
1株当たり中間利益も、前年の65.59円から27.21円へ。貸借対照表を見れば、総資産は3兆4896億円と前年から膨らんでいるのに、親会社株主に帰属する持分比率は51.8%から50.4%へとじわり低下している。成長投資と称して積み上げた資産の割に、稼ぐ力が追いついていない決算と言っていいだろう。
それでも、この数字だけなら「成長投資が一時的に利益を圧迫している」と好意的に解釈する余地もあったかもしれない。だが同じ日に公表された別の文書が、そんな楽観を一気に吹き飛ばした。監査法人PwC Japan有限責任監査法人が、2026年3月期半期報告書の要約中間連結財務諸表について「レビュー結論を表明しない」と通告したのだ。そう、またしても異例中の異例、監査法人の「意見不表明」である。
前代未聞の「結論不表明」が続く異常事態
ニデックは、資産性にリスクのある資産について評価減の時期を恣意的にずらした疑いなど、不適切な会計処理の疑義を自ら認識し、9月3日に第三者委員会を設置した。EVトラクションモータ関連事業や車載インバータ事業、MOENセグメントにおける減損や契約損失引当金、仕入先との和解債務。いずれも金額規模が大きく、同社の中核事業と直結するテーマばかりだ。
第三者委の調査は現在も続いており、虚偽表示が見つかれば、金額や計上時期、注記の内容まで遡って修正が必要になる可能性がある。監査法人は「結論の表明の基礎となる証拠を入手できていない」として、あえて不表明という最も重いカードを切った。これは単なる一時的な確認遅れではなく、「未解明のリスクが重要かつ広範に存在している」というシグナルにほかならない。
しかも、こうした意見不表明が今回で済む保証はどこにもない。第三者委の調査が長期化すれば、年度決算や次の四半期レビューでも、同じような結論がまたしても繰り返される恐れがある。上場企業としては前代未聞の事態であり、ニデック王国の屋台骨を内側から蝕む“時限爆弾”と言っていい。
永守重信は「晩節を汚した」のか
この異常事態の中心にいるのが、創業者の永守重信会長だ。モーターメーカーとしてのニデックを一代で世界企業に押し上げた経営者として、長らく市場から敬意を集めてきた。しかし今、投資家や業界関係者の口から聞こえてくるのは、別の言葉である。
「永守さんは完全に晩節を汚したな」
SNS上には、そんなつぶやきがいくつも並ぶ。売上1兆3000億円に対し営業利益が210億円しか出ていない決算を見て、「構造改革は一体なんだったのか」と首をかしげる投資家も多い。ノルマ至上主義で社長を次々と入れ替え、数字だけを追わせてきた結果、実態の成長が伴わないまま会計処理にしわ寄せが来たのではないか。そんな見方も根強い。
本来なら、創業者としてどこかのタイミングで一歩引き、次世代の経営陣にバトンを渡していてもおかしくなかった年齢だ。それでも永守会長は強い影響力を持ち続け、取締役会もそれを許してきた。その帰結として、不正会計疑惑と意見不表明という“晩年の汚点”が刻まれた格好だ。
ここまで事態がこじれた以上、早晩、永守氏自身が表舞台から退くしかないだろう。投資家や取引先が求めているのは「創業者の情念」ではなく、「ガバナンスが機能する会社かどうか」だ。意見不表明が続けば続くほど、ニデック王国そのものが瓦解に向かう可能性は高まる。
サプライヤーが感じていた「作法の悪さ」
ニデックの経営文化は、財務諸表の世界だけに現れるものではない。長年同社と取引してきたサプライヤーの間では、前回の意見不表明が話題となった際に、ある評判がささやかれてきた。匿名を条件にある中小企業経営者は以下のように答えた。
「とにかく無茶な要求やコストに厳しい会社だよ。交渉のたびに、こちらの体制や利益などお構いなしという印象を受けた。永守さんの『すぐやる!必ずやる!出来るまでやる!』を字でいくというか、凄い会社だと思って付き合ってきたが、こうなって思い返すに、自社利益を過度に追及しすぎるがあまり、社員やサプライヤーなどステークホルダーを重視できない経営だったんだろう。長い目で見れば、持続性のない会社だったのかな。京都の会社なんだから、長寿企業から三方よしの考えでも学べばいいのに」
また、他の中小メーカーの経営者は、こう打ち明ける。永守会長が持ち上げられ、「カリスマ経営者」としてメディアで称賛されていた頃は、表立って文句を言うサプライヤーは少なかった。だが今回の不正会計疑惑を機に、経営者同士の情報交換の場では、こんな本音が聞かれるようになっているという。
「あそこは作法の悪い会社だよな。やたら偉ぶった担当者が多くて、上から目線で指示してくる。正直、あまりいい思い出はないな」
過度なコストダウン要求は、サプライチェーン全体のモチベーションを削ぎ、品質リスクにもつながりかねない。ニデックの強引な要求や買い叩きが、知らず知らずのうちに社内外の不信を積み上げてきたとすれば、今回の会計問題はその「ひずみ」が一気に噴き出した結果とも読める。
王国はこのまま「静かに崩れていく」のか
第三者委員会の報告書がどのタイミングで公表され、どこまで踏み込んだ提言が盛り込まれるのかは、現時点では見通せない。ただ、ここまで市場の信頼を損ねた以上、「少し会計処理を直して終わり」という幕引きはもはや許されないだろう。
永守体制の総点検、取締役会の独立性の確保、報酬制度やノルマ運用の見直し──本来であれば、数年前から取り組むべき課題が山積している。いまそれを一気にやり直すには、創業者が前面から退き、新しい顔ぶれが責任を持って矢面に立つしかない。
一代で築き上げた巨大モーターメーカーという“王国”は、いまや不適切会計の疑いと意見不表明に包まれ、静かに軋み始めている。この状況を放置すれば、王国はゆっくりと、しかし確実に崩れていくだろう。
永守重信という名経営者の物語を、単なる「晩節を汚した老帝国の末路」で終わらせるのか。それとも、痛みを伴う改革を経て再生の物語へと書き換えるのか。選択の時間は、そう長く残されてはいない。



