
「客室清掃の仕事は、10年後・20年後には、人の手だけで担う仕事ではなくなります」
静かに、しかしはっきりとそう語るのは、客室清掃のプロフェッショナルとして現場に立ち続けてきたチェッカーワン・島本社長だ。同社が担っているのは、いわゆる「お掃除屋さん」の仕事ではない。お風呂を洗い、ベッドメイクをし、備品を整える――そこまでは、多くの清掃会社と同じように聞こえるかもしれない。
だが島本社長は、その先にある世界を見据えている。チェッカーワンが目指しているのは、「ゲストルームコーディネーター」という新しい専門職の確立だ。
「綺麗」にするだけでは終わらない。“空間をコーディネートする”という発想
一般的な客室清掃は、「元あった形に戻すこと」がゴールだ。水回りの汚れを落とし、シーツを張り替え、アメニティを所定の位置に置く。そして、別の担当者がチェック表を片手に、項目を一つひとつ指差し確認していく――。
「もちろん、その一つひとつはとても大切なんです」と島本社長は前置きしつつ、続ける。
「でも私たちは、その“部分”ではなく“全体”を見たいんです。ちゃんと物があるかどうかだけでなく、その部屋に入った瞬間の空気感が軽いのか重いのか、匂いは新鮮かどうか、お客様がどう感じるか。そこまで含めてコーディネートするのが、ゲストルームコーディネーターなんです」(島本氏)
清掃やチェックを“点”でとらえるのではなく、「空間全体の体験」としてとらえ直す。これは、単に清潔に保つだけでは到達できない領域だ。
島本社長は「綺麗を通り越したところに、本当の仕事がある」と表現する。部屋の隅々までピカピカにすることはプロとして当然。その上で、「この部屋でお客様がどんな時間を過ごすか」を想像しながら、温度・光・配置・静けさまで含めて整えていく――。
それが、チェッカーワンが追求する“空間コーディネートとしての客室清掃”である。

五感+経験値が生み出す「第六感」という武器
では、どうすればそのような空間全体のコーディネートができるのか。
ここで同社が重視しているのが「五感」だ。見る、聞く、嗅ぐ、触れる――人間の基本的な五感を総動員して、部屋の状態を捉える。さらに、島本社長はそこに「経験から生まれる直感=第六感」を加える。
「例えば、ドアを開けた瞬間に『あ、なんか違うな』『今日はいい部屋だな』と感じることがあります。それって、言葉にしにくいんですけど、実は今まで見てきた部屋の記憶や、匂い・音・手触りの経験が積み重なって、“直感”として働いているんです」(島本氏)
一見完璧に整っているベッドでも、「どこか急いで仕上げた気配」が視界の端にひっかかることがあるという。ベッドの重心がわずかにずれている、シーツの張りがほんの少しだけ甘い――。そんな違和感から「もしかするとベッドの下に何か残っているかもしれない」と察知し、実際に前のお客様の忘れ物を見つけ出すこともある。
「神経衰弱みたいだと言われるかもしれませんが、訓練すれば誰でもある程度まで磨ける感覚なんです。五感を研ぎ澄まし、一つひとつの気づきを経験値として積み重ねることで、“第六感”が働くようになる。それを体系化した技法として、現在、商標登録中の概念もあります」(島本氏)
法律上の名称はまだ公表できないが、五感と経験値としての第六感を統合して空間をコーディネートする――そんな技法の確立を目指しているという。
AI・ロボットの時代に「人にしかできない仕事」をつくる
島本社長は、客室清掃の現場におけるテクノロジーの進化にも目を向けている。
「お風呂を洗うロボットや、AIを活用した清掃システムは、今後どんどん実用化されていくでしょう。正直に言えば、10年後・20年後、“お風呂を洗う人”や“床を拭く人”という仕事は、人ではなく機械が担っている可能性が高いと思います」(島本氏)
人手不足が深刻な業界だからこそ、鉄腕のように正確で疲れないロボットとの協働は避けて通れない。チェッカーワン自身も、そうした企業とのコラボレーションには前向きだ。
しかし、それで“人の出番”が終わるわけではない。
「ロボットが完璧に掃除しても、そのままお客様を通していいかどうかを判断するのは人間です。部屋の空気の重さ、光の入り方、季節や日当たりによって変わるエアコンの温度設定…。こうした“雰囲気”の最終確認と微調整は、AIにはまだ難しい領域です」(島本氏)
チェックリストに沿った「ある/ない」の確認は、AIの得意分野だ。だが、「なんとなく落ち着かない」「なぜかホッとする」といった感覚的な違いは、今も、そしてこれからも人間の領域であり続ける。だからこそ、同社は「ゲストルームコーディネーターという仕事は、必ず社会に必要とされ続ける」と確信している。
「人のため、日本のため、そして世界のために。ゲストルームコーディネーターが、空間づくりの主役として活躍する時代が来ると本気で思っています」(島本氏)
「日本的な清潔さ」という最高の褒め言葉
チェッカーワンが携わったホテルには、宿泊後の口コミでこんな言葉が寄せられることがあるという。
――「とても日本的な清潔さを感じました」
「『綺麗』『ゴージャス』と言っていただけるのも嬉しいんですが、『清潔』と言われるのは、私にとって最大級の褒め言葉なんです」(島本氏)
単に見た目が派手で豪華であることよりも、「どこを触っても安心できる」「どこに目をやっても整っている」という安心感。それは、五感と第六感を総動員して空間を整えてきた現場の積み重ねの結果だ。
現在、日本で正式に「ゲストルームコーディネーター」を名乗っているのは、島本社長と、共に現場を支える、妻で専務の島本いづみさんの2名だけ。ここから5万人規模まで増やしたい――それが、島本社長の大きな目標だ。
「今期は、特に“人材育成”に力を入れようと決めました。そのために必要な投資は、惜しまずにしていきたいと思っています」(島本氏)

森を見てから木を見る。チェッカーワン流の育成メソッド
人材育成の方法にも、チェッカーワンならではの哲学がある。
多くの現場では、「お風呂の洗い方」「トイレの掃除の仕方」「シーツの張り方」といった“木”から教え始める。だが同社では、その前に必ず「森=ゴールのイメージ」を共有するという。
「まず、私たちが目指しているゲストルームコーディネーターの仕事とは何か、『綺麗の先』まで想像した空間づくりとはどういうものか、じっくり話します。その上で、具体的な清掃技術を一つひとつ教えていく。そうすると、時間はかかっても、仕上がりが全く違ってくるんです」(島本氏)
実際、この方針に共感して入社してくる人も増えている。ある30代の女性は、大手ラグジュアリーホテルでチェッカーとして働きながら、時間と効率重視の現場に違和感を抱いていたという。
「綺麗にすることはできる。でも、自分が本当にやりたい“綺麗のその先”を考える余裕がない。私たちのホームページや動画を見て、『ここならその思いを大切にできるかもしれない』と感じてくれたそうです」(島本氏)
その女性は、今「ゲストルームコーディネーターになりたい」と自ら名乗りを上げ、現場で研鑽を積んでいる。
別の60代の男性は、長年サラリーマンとして働いてきたが、「もう一度1から学び直したい」と入社を決めた。
「年齢や経験よりも、『この仕事の価値を信じてくれるか』『思いを共有できるか』を一番大事にしています。思いがあれば、技術やスピードはあとから必ずついてきます」(島本氏)
「繊細さ」で悩んできた人こそ、向いている仕事
では、ゲストルームコーディネーターに向いているのは、どんな人だろうか。「実は“なんでも気にしてしまう人”なんです」と島本社長は笑う。
些細なことをいつまでも気にしてしまう。
「こんなことで悩まなくていいのに」と周りから言われる。
自分は神経質すぎるのではないかと、コンプレックスに感じている――。
「そういう人は、心も神経もとても繊細なんです。だからこそ、空間の微妙な違和感に気づけるし、お客様がどう感じるかを想像できる。ゲストルームコーディネーターには、まさにピッタリの資質だと思います」(島本氏)
逆に、「まあこれくらいでいいか」と大雑把に割り切ってしまうタイプは、この仕事には少し不向きかもしれないという。
さらに、現場で共に動くいづみ専務さんは、人材の成長についてこう語る。
「最初は時間がかかってもいいので、とにかく『お客様が気持ちよく過ごせるかどうか』を一番に考えてほしいんです。その思いは絶対に省かない。その上で、自分の動きを振り返って、どうすれば無駄なく動けるかを考え続けていけば、必ずスピードも上がっていきます」(島本氏)
効率だけを追い求めれば、感覚を働かせる余裕がなくなる。一方で、思いだけで時間を無限にかけることも、仕事としては成立しない。お客様を思う気持ちと、現場の制約の間で最適解を探し続ける――。そこに、この仕事の奥深さとやりがいがある。

これからゲストルームコーディネーターを目指す人へ
最後に、「もしこの記事を見てゲストルームコーディネーターに興味を持った人がいたら、どんなメッセージを伝えたいか」と尋ねると、島本社長は少し言葉を選びながら、こう語ってくれた。
「今の世の中は、AIやデジタルという言葉が先行して、人の仕事が奪われるという話ばかりがクローズアップされがちです。でも、人にしかできない仕事は必ずあります。五感と、経験からくる第六感を総動員して、お客様の滞在そのものを支える――。ゲストルームコーディネーターは、そんな“心”の仕事です」(島本氏)
もし、あなたがこれまでの人生で「繊細すぎる」と言われてきたなら。
もし、誰かのために空間を整えることに喜びを感じるなら。
もし、AIの時代にも“人だからこそできる仕事”を追求したいと思うなら――。
ゲストルームコーディネーターという職業は、その想いをそのまま活かせる未来の仕事になるかもしれない。
「20年後、30年後。私たちの子どもたちが社会に出る時代にも、この仕事があってほしい。いや、むしろ彼らが主役になって、この仕事をより良くしていってほしい。本気でそう願っています」(島本氏)
清掃のその先へ。「日本的な清潔さ」という見えない価値を、世界へ届けるために。チェッカーワンの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
◎企業情報
会社名:株式会社チェッカーワン
URL:https://checkerone.com/
代表者名:代表取締役 島本整
設立年月:2021年09月
所在地:〒541-0048 大阪府大阪市中央区瓦町4-6-15 瓦町浪速ビル303号



