
お客さまへ商品を届ける物流の最後の区間である「ラストワンマイル」。当たり前にインターネットで商品を購入するようになった今、ここを支える運送業の存在が、社会の大きな支えとなっている。埼玉県を拠点に配送を手がける株式会社Cruz(クルーズ)は、その仕事の本質を「運送業プラス接客業」と捉え、地域インフラとしての責任と、届ける瞬間の体験価値の両方を徹底して磨いている。
代表取締役・伊原雄士氏は、もともと雑貨店の店長としてキャリアを積み、その後運送業の世界で独立した異色の経歴の持ち主だ。学歴や特別なスキルがなくても、動き続ければ人生は変えられる――ドライバー一人ひとりの「人生の再出発」をも支える事業の背景に迫る。
運送×接客。地域のインフラを支える仕組みと姿勢
インターネットでモノを買い、家から一歩も出なくても欲しいものが手に入る現代。消費者のもとへ商品を届ける、いわゆる「ラストワンマイル」を担っているのが運送業だ。埼玉県を拠点に運送を行う株式会社Cuezの代表・伊原氏は、そのサービスの本質を「運送業プラス接客業だ」と語る。
インターネットでモノを購入した時、購入者は販売元の店員とは顔を合わせない。商品が手に届くまでの流れの中で、唯一人と人が接触するのが、荷物を届けるドライバーだからだ。
「私たちは荷物を運ぶだけではなく、お客様と接する唯一の立場にあります。その時に、配達してくれた人の身なりが汚なかったり、言葉遣いや態度が乱暴だったりしたら。その配送員に対してだけでなく、販売元のお店の印象も悪くなり、『あのお店で買わなければよかった』と後悔されてしまうことさえあるかもしれません。
加えて、配送はもはや社会のインフラとなっています。電車の運転手が『体調が悪いので、今日は電車は来ません』なんてことが許されないのと同じで、私たちは決められた日・時間までに必ず届けなければならない。私たちは運送業としても、接客業としても責任を背負っていることを自覚しなければならないと思っています」(伊原氏)
Cruzでは、採用面接の段階からこの意識を共有し、社内に浸透させている。ドライバーたち一人ひとりがプロとしての自覚を持ち、どこに出しても恥ずかしくない品質を提供すること。それが同社の育成の基本だ。
とはいえ、人間である以上、ミスをゼロにすることはできない。そのためCruzでは、「お互いがプロとして付き合う」関係づくりを重視し、ドライバーへのフォローを欠かさない。直行直帰が多い現場だからこそ、伊原氏や現場の管理者らがドライバーと意識的にコミュニケーションを取り、表情を観ながら疲労の兆候を見逃さないようにする。また、入社間もない人には、つまづく可能性のあるポイントを先回りしてフォローする。大きな問題が発生する前にその原因を解消し、ドライバー寄り添う姿勢が高い品質の維持につながっているのだ。
Cruzには、18歳から78歳まで、年齢もバックグラウンドも異なるドライバーが在籍している。こうして「全員が活躍できる環境」があることこそ、同社の大きな特徴だ。
かつて運送業界は、「頑張れば月収100万円稼げる」と言われる世界だった。しかし、実際にそれを実現できたのはほんの一握り。お金を稼ぐという夢を持ってこの業界に入ってきたものの、現実とのギャップを目の当たりにして離れていく人も後を絶たなかった。「そういうあり方を変えたい」と考えた伊原氏は、独自の報酬体系を築いている。
報酬の最低値と最大値の幅を狭めた一方で、日当単価を同業他社より高く設定し、給与の最低ラインを底上げしたのだ。これにより「年齢や経験に関係なく、一定水準までは必ず稼げる」構造をつくり上げた。
加えて、休みに対する考え方も、ドライバーが働く環境を支えている。業務委託という契約形態でありながら、「希望休100%」のルールを貫いているのだ。
「体調が悪い時など、どうしようもない時に仕事ができないのは当然です。だから、休みたい日は必ず休みにできるようにしています。当日の欠勤も、こちら側でフォローできる体制を整えています。逆に、そのフォローができない案件は最初から受けないようにしているんです」(伊原氏)
運送業界では、特定のドライバーに依存し“専属コース”化されていることが多い。毎日同じコースを通ることで最も効率の良いルートを練り上げ、一日でより多くの荷物を運べるようにするのだ。しかしそのやり方では、その人が休んだ時に同じ仕事ができる人がおらず、補うために2人必要になることもある。それが配送員にとって「休めない」というプレッシャーにもなっている。
そこで、誰かが休んでも他の人が入ることで問題なく対応ができるような構造にしているのだ。この仕組みにより、ドライバーは過度なプレッシャーを背負わず、心理的な余裕を持って仕事に向き合える環境ができている。
こうして、品質だけでなく、はたらく仲間を大切にするCruz。その姿勢は社名にも表れている。ビジネスの世界は、「ブルーオーシャン」などの言葉があるように、海にたとえられる。市場が海なら、会社はそこを進む船であり、そこで共に働く仲間はクルーだ。そして、「彼らを最後まで面倒を見る」という思いを込めて、最後のアルファベットである「z」をつけ、「Cruz」という名前が付けられている。
雑貨屋の店長から運送会社の代表へ
伊原氏は、自分の過去を振り返り「何も持っていなかった」と語る。20代の頃の伊原氏は定職につかず、ふらふらと過ごしていたという。父の勧めで、新潟にある父の会社に就職したものの、長くは続かなかった。
そんな時に見つけたのが、雑貨屋の求人だった。深く考えずに入社したものの、良い上司に恵まれ、出身地である千葉県への異動も実現。「期待に応えたい」という思いを持つようになり、人生で初めてがむしゃらになって、やりがいを感じながら仕事に打ち込んでいた。
ところが、その会社が外資系企業に買収されることに。店長も任され、日々楽しさを感じながら働いていたさなかだった。そんな中、店舗開発への異動を命じられ、閉店担当の仕事を任される。5店舗ほど閉店業務をやり終えた頃、「なんて生産性のない仕事をしているんだ」と心が折れ、退職を決意することとなった。その後、起業を決意した経緯について、こう話す。
「学歴もスキルもなく、このまま次の会社に入っても大した人生にならないと思いました。だったら、何か自分で事業を起こしてみようと考えたんです。そして、様々な選択肢を探す中で見つけたのが運送業でした。初期投資もほとんどかからず、一人でもスタートできる業界だったんです」(伊原氏)

まずは運送会社に専属ドライバーとして現場に飛び込み、経験を積んだ。そして、そこで出会った社長が独立志向をくんでくれた「師匠」ともいえる存在で、業界のいろはをたたきこんでくれたのだ。独立に際してもサポートをしてくれ、2020年に独立を果たした。
その後、事業も少しずつ軌道に乗り始めていった中で、人を雇う立場になって直面したのが、人間関係の難しさだったと伊原氏は語る。
「しょうもない裏切りがあったり、責任感を持ってもらえなかったり、約束を軽く扱われたり……人として我慢しなければならないことが本当に多くて悩んでいました。一時期は感情がだいぶ揺さぶられていましたね」(伊原氏)
そんな苦い経験を重ねるうちに「人はそういうものだ」と考えるようになり、性悪説の考え方で人と接するように。そして、何があっても大丈夫なように、会社の中でも先に備えておくようになった。しかし、「人と接する仕事をしているのに、なぜ人が“悪”であることを前提に接しているんだろう」と矛盾を感じていたという。
そんな時、ある社長のインタビューを見て「性弱説」という考え方に出会った。「人は弱い。だから裏切るし逃げ出す。善も悪もない。弱いから善にもなるし、悪にもなる」という考え方だ。これが、伊原氏の考え方を変えるターニングポイントとなった。
「性善説と性悪説の2つの選択肢しかなかったところに、強い・弱いという選択肢ができたんです。それによって人の見方が変わり、だいぶ心のゆとりができました。『なんでだろう』『なにがそうさせているのかな』と考えられるようになり、もう一歩、相手に歩み寄れるようになったんです。そのおかげで『本当はこういうことしたくないんです』と、やっとドライバーの本音が聞けるようにもなりました」(伊原氏)
この経験が、現在のCruzをつくり、支えている。伊原氏は、現在の仕事のやりがいについてこう語る。
「ドライバーの仕事は、やる気さえあれば経験も年齢も過去も一切関係ありません。だから、その人が未来に進むきっかけとなる仕事でもあると思うんです。それまでなかなか人生がうまくいかなかった方や、精神的な弱さを抱えている方が、『ここに来て、仕事がすごく楽しいんです』と言ってくださることもあり、そういう声を聞けるのが本当に嬉しいです」(伊原氏)

進みたいなら、とにかく動く。知識よりも行動を
――現在は配送事業だけでなく、車両リース会社「8BALLGARAGE」も設立されていますね。
伊原:もともとは外部のリース会社を利用していたのですが、中古車や古い車がリースされることが多く配送中に故障したり、欲しい時に車が借りられなかったりして、最悪の場合は現場が止まることもあったんです。それなら自分でやったほうがスピード感を早められるのではないかと考え、会社を立ち上げました。その結果、スピーディーな車両手配が可能になり、現場が止まらないような仕組みを構築することができました。
――Cruzの設立もリース会社も、未経験の領域への参入だったと思います。迷いや不安はありませんでしたか?
伊原:私は勉強もしてこなかったですし、賢いわけでもありません。だからこそ、「そんな人間が知識を詰め込んでから始めようなんて、どれだけ時間かけるつもりなの?」と思ったんです。
あと、サイバーエージェントの藤田社長が「3ヶ月ガチれば、その分野の“中の人”になれる」「新領域でも一気にトップ層に食い込める」と言っていて。それぐらい、必要な知識は意外と少ないんですよね。
実際、立ち上げてからわからないことだらけでしたが、覚えながら進んできました。それにとりあえず始めたら、失敗しても乗り越えるしかないじゃないですか。そうして経験と知識を積んでいけばいいと思います。
――これから起業を目指す人や、現状を変えたい若者に伝えたいことは?
伊原:私の持論ですが、まずは動くこと。そして、とにかく動き続けることが何よりも大切です。
これまで、「僕も独立したいんです」「自分を変えたいです」と話す人を何人も見てきたのですが、みんな動かないんですよ。代わりに、その時間を使って、やらなくてよかった理由を探して、自分を正当化するんです。
何かを変えたい・始めたいなら、覚悟を持たなければいけません。何かを得るためには、必ず対価を支払わないといけませんから。例えば、「1年休まず動いてみよう」と決める。そして、その1年を過ごした後に、2年前の自分とどう変わっているか見てみてください。行動をちゃんと積み重ねられたら、絶対に変わっています。そして、その成功体験が、動き続ける原動力になって、それから先の可能性が広がっていきます。
私も独立した時は、1日36時間ぐらい仕事をしていたと思うくらい動きました。何も持っていないなら人の倍は働こう、それで足りなかったら3倍働こうと思っていましたね。それが今の私を作っています。

クルーを最後まで守り抜く。Cruzのあり方
気持ちのいい、高品質な配送をお客様に提供し、ドライバーの幸せも支えるCruz。最後に、今後の展望を聞いた。
「規模の拡大よりも、品質の追求にこだわりたいと考えています。僕は埼玉の東部でしか仕事を受けるつもりはないんです。この範囲が管理できる限界だと思っていて、それ以上広げてしまうと品質が落ちてしまう。そのかわり、埼玉の東部に関しては当社が責任を持って、高品質なサービスをもって配達します。お客様やドライバー、自分の手の届く範囲をしっかりと守り抜いていきます」(伊原氏)
◎企業情報
社名:株式会社Cruz
URL:https://www.cruz-inc.net/
代表:伊原 雄士
所在地:〒344-0067 埼玉県春日部市中央6-8-24 第31アオイビル 3F
◎インタビュイー
株式会社Cruz 代表取締役
伊原 雄士



