斬新な視点と行動力、未来に向けた視野。ここ数年、さまざまな分野で活躍する学生起業 が注目を集めています。2020年5月に創業した北海道大学発のスタートアップ・株式会社 Earthistもそのひとつ。この5月にはLINEを活用した福利厚生サービス「EZO work style」 をリリースし、話題を呼んでいます。同社の代表で北海道大学医学部の現役学生である近 澤徹さんに、「EZO work style」開発の背景と目的、今後の事業展開について伺いまし た。
地域経済を活性化させ、循環型経済を目指すビジネスモデル
―まずは、起業された経緯について伺わせてください。
近澤 私は北海道大学医学部に在籍しているのですが、大学の留学生たちとチームを組んで起業前から翻訳業務などをしていました。北海道大学に来る留学生はその国を代表するようなエリート層で、マルチリンガルで非常に優秀です。ですが、留学生たちのアルバイト先はコンビニやレストランの厨房が多く、彼らの能力に見合っていない。友人たちが安く使われているようなのも残念で、もっと彼らの能力を最大限に引き出すことができ、なおかつ社会の役に立つ仕組みを作りたいという想いがあり、起業へとつながりました。
―2020年5月に会社を設立し、1周年を迎えられました。事業の概要や社員数などを教えて ください。
近澤 北海道札幌市を中心に、クリエイティブディレクションやデザイン、テクノロジーを活用したソリューション、ネイティブスタッフによる海外事業戦略のサポートなど幅広いニーズにお応えしています。海外のクライアントとの仕事も多く、海外のサービスを日本にもってる、日本のサービスを海外で展開する、ある国からある国へサービスを移動する際に翻訳やその国に合わせたサービス設計をする、それぞれに対応しています。
デザイナー、エンジニア、マーケッターというエキスパートからなる弊社のメンバーはインターンを 含めて現在約30人、そのうち留学生のネイティブスタッフは15人です。
―今年5月にリリースした「EZO work style」は、北海道の企業向けの福利厚生代行サービ スですが、アプリから利用できるのも新しいと感じました。こちらの仕組みとねらいについて伺わせてください。
近澤 EZO work styleは福利厚生サービスのDX化であること、地域密着型であること、この2点が大きな特徴です。ひとつめの特徴ですが、スマートフォンアプリ「LINE」から手軽に利用することができます。従来の福利厚生代行サービスでは、飲食店など加盟店の
サービスを利用するには、書類での申請やチケットの受け渡しなど煩雑な手続きが必要な ケースが多いのですが、弊社のサービスはLINE上で今すぐ使えるクーポンや、お得なサービスの検索から利用までをシームレスに提供できる仕組みを構築しました。加盟店は無料、企業は月額5万円から参加することができます。
また、既存の大手のサービスの場合、加盟店が大手チェーンの飲食店やサービスが多く、 会社で契約していてもあまり使われていないという声が聞かれました。EZO work style では、ありきたりのお店ではなく、地域に根ざした飲食店や美容関連サービスなどが加盟することで利用者が魅力を感じ、積極的に活用してもらうことがねらいです。そうすることで、いま地元で頑張っている店舗に実際に足を運んでもらうことを通じて、地元のサービス産業の活性化を図り、地域の経済を循環させるシステムを作ることが できます。
福利厚生のDXで働く人が前向きになれる環境作りを
―地域経済の活性化に資するビジネスモデルはすばらしいですね。発案のきっかけをお聞かせください。
近澤 昨年からの新型コロナ禍が大きなきっかけとなっています。私は現在医学部6年生 で、大学病院で実習をしているのですが、看護師や医師の方々が大変疲弊している姿を目 の当たりにしました。そこから、医療の最前線で働く方たちをはじめ、コロナによってさ まざまな影響を受けた企業や飲食店の方たちが少しでも前向きに働くことができるような 環境を作りたい。その思いが地元の企業の福利厚生と地域経済とを結びつけるEZO work styleへとつながりました。
―飲食店や企業からの反応はいかがでしょうか。
近澤 さっそくさまざまな反応があり、加盟している店舗は40~50件ほど(加盟予定を含む)からのお問い合わせが増えています。現在、飲食店の他に地元で チェーン展開している整体マッサージ、地元資本のお菓子屋さんからもお声がけしていた だいています。今後は加盟店を増やし、全体として充実したプラットフォームにしていき たいと考えています。
循環型のロールモデルを拡大し、地域の活性化に貢献
―御社では、大学生向けのSNSアプリを昨年夏にリリースされています。こちらもコロナ 禍が関係しているのでしょうか。
近澤 大学生限定SNS「Summer」は、北京大学発のベンチャーが2017年に開発したもので、弊社に共同事業の依頼があったことから、日本版の開発・リリースにつながりまし た。事業化を決めたのは、コロナ禍の中で大学に入学してもクラスメートに会うことがで きない、サークル活動もできない後輩たちに別の形でキャンパスライフを提供したい、という想いが大きかったですね。
「Summer」は大学のメールアドレスで登録し、利用者を検索してつながれる仕組みで、同じ大学の学生だけではなく、別の大学の学生ともつながることができます。利用者から は友人ができる、つながりが広がるのがすごく面白い、との声を多くいただいています。 北海道の大学をはじめ現在全国800の大学の学生が利用できるほか、世界3600の大学に所属 する学生が登録し、グローバルな交流も後押ししています。
―最後に、これからの事業の展開について伺わせてください。
近澤 まず、EZO work styleですが、導入企業の業種や利用者の行動データにもとづいておすすめの加盟店をサジェストする機能や、加盟店を横断してスタンプを貯められるイベ ントなど北海道で働く人々を応援するサービスを充実させていく予定です。
本サービスのベースにはLINEミニアプリを活用した「U work style」というシステムを構築しております。今回は北海道限定なのでEZO work styleなのですが、ゆくゆくは東京でTOKYO work style、京都でKYOTO work styleというように、地域ごとにあなたの = Your = U work styleを設けることも構想しています。地域に根ざした福利厚生を活用し、循環型のロールモデルを広げていくことで、全国の地域の 活性化に貢献していきたいですね。
ステークホルダーとの向き合い方
日本と海外のさまざまなお客様にご依頼いただき、感謝しかありません。品質の良いサービスやシステムを開発して納入するのは仕事として当然ですが、私たちは創業1年のベンチャーなので、ひとつひとつの仕事を通して新たな気づきや考え方など、学ばせていただ くことがたくさんあります。お客様をはじめ日々支えてくださっている皆様には日々感謝 の気持ちを抱いています。
医学実習で知遇を得て、以前からお世話になっている美容クリニック院長には、 EZO work styleにいちばん最初に加盟していただきました。美容クリニックの脱毛や美 顔、小顔などのサービスを割引で利用できるのは、特に働く女性にとって前向きな環境を 作っていく大きな手助けになると思います。趣旨に共感していただき、参加してくださっ たことはとてもうれしく、感謝しています。個人的にも大変お世話になっており、これか らもさまざまなご教示をいただけることをお願いしたいですね。
社内はアットホームな雰囲気で、インターンも含めて20人強の社員が能力を発揮してくれ ています。EZO work styleでは、役員5人に外部顧問1人を迎え入れて取り組んでおり、その中でも役員2名が中心的な存在として事業を進めています。メンバーそれぞれが責任をもって働いてくれていますが、特に役員 については「自分が社長だと思って事業を進めて欲しい」と言っています。実際、それぞれが会社における役割と責任を負っていて、得意とする分野も異なるのが弊社の強みです。うま く連携しながら事業を前に進めていけているのはありがたいですね。
東京が日本の経済の中心で、そこにすべてが集約されていく構造がありますが、それがい い、悪いと言うのではなく、それぞれの地域で小さくても経済がしっかり回る仕組みがあ るといい、と考えています。そういう想いを込めて開発したEZO work style、そして、これから手がけていく事業によって、地域経済の循環を少しでも大きくすることに貢献していきたいですね。
10年後20年後になった時に、弊社が意欲と能力ある若者たちに夢を託せるような存在になれるよう、日々事業と組織の拡大に邁進していきます。
<プロフィール>
近澤 徹
1995年生まれ。北海道大学医学部5年生の2020年に株式会社Earthistを設立。
<企業概要>
株式会社Earthist
https://earthist-inc.com/
札幌オフィス:北海道札幌市中央区北4条西2丁目1-25
札幌TRビル9階
TEL 080-9001-5654
設立 2020年05月