
東京都武蔵野市を拠点に、訪問介護と障がい者支援を行う「え~とす」。その運営を手がける合同会社SHIIP(シップ)は、利用者が自宅で自分らしく過ごし続けられるよう、一人ひとりに寄り添った支援を行っている。
利用者にとっても、働く人にとっても「え~とす」が“いつもの居場所”であるために──。
その思いと取り組みについて、代表 石岡氏、本部長 山本氏、管理者 二木氏の3名に話を伺った。
主婦から代表への転身。利用者に寄り添い、楽しい時間を
東京都武蔵野市にて、訪問介護・障がい者支援のサービスを提供する「え~とす」を運営する合同会社SHIIP(以下、SHIIP)。訪問介護においては、健康上の問題や認知症などの病気により、自立した生活を送ることが困難な高齢者の自宅での生活をサポート。障がい者支援サービスにおいては、障がいのある子ども・成人が社会とのバランスを取りながら自立した生活ができるよう、家庭で個別対応のサポートを行っている。
「え~とす」という事業所名は古代ギリシャ語で「いつもの場所」や「いつもの在り方」を意味する「ēthos(エートス)」に由来する。利用者がいつもの過ごし方を少しでも長く維持していけるように、従業員はえ~とすがいつもの自分の居場所であるように。今いる場所がそれぞれにとっての居場所であるよう、みんなで支えていこうという意味が込められているという。
同様に、社名の「SHIIP」にも思いが込められている。それぞれのアルファベットには「Solution」「Happy」「愛」「Inclusion」「Produce」という意味があり、「シップ」という言葉にも意味があるという。
「利用者様にとっては『湿布』のような存在でありたいと思っています。お年寄りにとって身近で、困ったらすぐに頼れて、身近に寄り添って癒せる場所でありたいです。そして、社員にとっては『船(Ship)』のような存在でありたい。いつでも誰でも乗り降りできて、目的に向かって共に進もうという思いを込めています」(石岡)

代表の石岡氏はもともと主婦をしながら介護業界で約16年勤務していた。子育てをしながら働くためには資格があった方がいいと考え、おじいちゃん・おばあちゃんが好きだったことから介護士の資格を取得したのがきっかけだ。
「子育てと両立するために最初は夜勤専任で働いていました。でも、仕事をしているうちに日中帯の様子も知りたくなって、常勤になって5年ほど働いていました。その頃、母の病気が分かったのですが、介護休暇を取ろうと考えていた矢先に亡くなってしまって。自宅に帰りたいと言っていた母の願いを叶えられず、大きな後悔が残りました。
その後社員を辞め、以前働いていた施設のホーム長にお声がけいただいてパートとして5年ほど働きました。ただ、働いている中で、施設ではどうしても支援できないことがたくさんあり、課題感を抱えていたんです。そんな時に山本と出会い、話す中で『それなら訪問介護の会社を立ち上げよう』という話になりました。
実は、介護士の資格を取った当初から『訪問介護では働けないな』と考えていたんです。『人のお宅に入って冷蔵庫を開けてご飯作って…なんてできない。ひとりで介助している間に何かあったらどうしよう』と。でも、施設でできないことを支援したい、最期まで自宅で笑顔で過ごしたい方を支援したい。そういう思いを叶えるためなら、訪問介護もありかもしれないと思い、経営について全く知らない状態でこの会社を立ち上げました」(石岡社長)
立ち上げ後、指定事業者として認可されると同時に複数の依頼が入り、利用者は次第に増加。また、大学での外部講師や初任者研修の講師を務めるほか、地域の商店会や市役所の訪問介護事業者連絡会に参加したり、副幹事を務めながら毎年開催される武蔵野市ケアリンピックの実行委員をしたりと、活躍の幅を広げている。今後、事業を拡大させるために、居宅支援事業や訪問看護や施設の立ち上げまで展開することを目指している。
普通の主婦だったところから会社を立ち上げた石岡氏。働く上で大切にしているのが「常に楽しく」という価値観だ。
「仕事だからやらされるのではなく、仕事だけど自分なりに楽しみながらやることを大切にしています。会社を立ち上げるまでパソコンは全く触ったことがなく、創業時の申請も一つひとつ自分で調べながらでしたし、今でも経営は山本や従業員のおかげでできています。でも、仕事だからしょうがなくやっているのではなく、分からないながらやって、それができたときに大きな喜びを感じるんです。それを楽しみながら働いています」(石岡社長)
そんな石岡氏にとって、介護の現場での楽しい瞬間とは。
「それぞれの現場で、ケアをしながら利用者様と何気ない会話を楽しんで笑い合える時間を過ごしています。作業を止めて話し込んでしまうこともあるくらいです(笑)それでもその時間は利用者さんにとって良い時間だと思います。ケアの仕方に迷う時はありますが、乗り越えられると思っていますし、いつも楽しいです」(石岡社長)
自分の能力にふたをせず、可能性を広げる教育を
石岡氏と共に会社を立ち上げ、現在は本部長として経営から現場までこなす山本氏に、これまでの背景や現在の思いを伺った。

——これまでの経歴と、ここに至るまでの流れを教えてください。
私はこれまでに数々の仕事を経験してきました。社会人になった当初は、手に職を付けるために建設業で造作大工の仕事をしていました。寝る間も惜しんで勉強して職人になったのですが、大工道具を盗まれてしまって。とても高価なものだったので、続けられなくなってしまい、解体の仕事へ転職しました。
そこである程度経験を重ね、今度はキャリアを積もうと人材業界で働いたのち、通信会社の営業職に就きました。スキルが上がり、数字も出せるようになっていきましたが、会社に「売れ」と言われたものを売る仕事は精神的に負荷が大きくて。スキルもある程度身に付いたので、今度は経営を学ぶために、飲食業界で全国の店舗の経営を立て直す店長候補の仕事を始めました。
前職の経験も活かしながら成果を出し、全国の店舗を次々と回っていきました。でも、どれだけ結果を出しても評価されない環境を各地で見ることになり…。転職を決め、量販店のパソコン販売員になりました。売れば売るほど社員に信頼・評価してもらえて、お客様にも喜んでもらえてやりがいや面白さを感じながら働くことができましたね。東京の店舗で売上を大きく伸ばしたり、経営を改善したりといった実績も残すことができました。
そうして徐々に自信がついてきたことから、今度は自分で会社を立ち上げたいと考えまして。もともと人材育成が好きだったので、人材教育や研修、セミナー講師などをする会社を立ち上げました。事業が順調に進んでいきましたが、受け身の受講者が多くて一生懸命やっても響かないことに疑問を持ち始めて…。もっと誰かの助けになってお金をいただける仕事がしたいと思い会社を後任に任せ、福祉業界に転身したんです。
訪問介護と介護施設の夜勤の仕事をして業界の仕組みや現状を学び、働いて2年目に石岡と知り合い、3年経った頃に一緒に会社を立ち上げました。主婦だった人が代表になることで、「どんな人でも社長になれる」という実績を作ることができることにもワクワクしましたね。
——様々な業界を見てきた中で、介護業界の魅力をどのように感じていますか。
生活のために誰かの助けを必要とする方々が、僕たちの支援によっていつも通りの生活に近い状態に戻れる。そして、その支援に対して感謝していただいてお金をもらえる。誰かが用意した商材を売るのではなく、その人のために自分の手で価値を提供できることが何よりも大きな魅力だと思います。
——もともと人材教育が好きだったとのことですが、その思いを御社でも活かしていますか?
そうですね。教育には特に力を入れており、次世代教育をとても大切にしています。社内研修では介護・福祉の知識や技術の研修に加え、ビジネスマナーや人生設計、資産運用なども含め200種以上の研修を整備しています。これができるのは、私がこれまでに様々な業界で働いたり講師をしたりした経験があるからこそです。従業員から「受けたい・知りたい」と言われた内容に応じて、オーダーメイドで研修を作っています。
また、次世代教育においては「可能性は無限大だ」と必ず伝えており、「できる・できない」と「やる・やらない」を混同しないでほしいという話をしています。人生や生活において、「できない」のではなく「やらない」という選択をしている場面が多々あります。
やらない選択をしているものと、本当にできないものでは大きな差があります。人間は想像できることはいずれ具現化できる能力を持っていますから、自分の能力にふたをしないでほしいと思っています。
利用者の喜びと笑顔がやりがい。信頼を築く支援
現場で介護士として働きながら管理者を務める二木氏に、この仕事に就いた背景や日々のやりがいについて伺った。

——この会社に入った経緯を教えてください。
大学では経営学を学んでおり、授業も面白いと感じていたのですが、いざ就職活動を始めようとした時にやりたい仕事が見つからなかったんです。逆に、やりたくないものを探してみると、スーツを着てずっと机に向かってパソコンをいじるような仕事はしたくなかった。であればそれ以外の仕事に就こうと探していた中で、介護という仕事にたどり着きました。
それから新卒では有料老人ホームの施設に就職しました。3年間働いていたのですが、ずっとここで働き続ける未来が想像できなくて。モヤモヤした気持ちを抱えていた頃に山本に出会い、この会社に転職することにしました。
——現場で感じるやりがいや楽しさを教えてください。
利用者様の自宅に行くと、その人の生活全体を見ることができます。それによって、その方が困っていることに対して、それぞれに合わせた支援ができるのが面白さでありやりがいです。また、人と人が密に接しているので、一人ひとりが持つ異なる考え方を知ることができるのも楽しいです。
——働く中で特に嬉しかったエピソードを教えてください。
たくさんあります。最近で言うと、体が思うように動かず2〜3カ月もの間お風呂に入れなかった利用者さんがいらっしゃって。私たちがケアに入って徐々にお体が良くなり、「動けるようになってきたから、次はシャワーを浴びてみたい」と言っていただいたんです。それで久々にご自宅でシャワーを浴びることができた時に「最高に気持ちよかった」と言ってくださったのが最高に嬉しかったですね。
さらに、その利用者様がケアマネさんに「え~とすのみなさんのおかげで元気でいられるし、来てくれるのが楽しみです」と伝えてくださって。それも本当に嬉しかったです。
——逆に、つらかったことはありましたか?
その時々でしんどいと感じる一瞬はありますが、みんなで協力して乗り越えてきたので、今考えると大したことないなと思います。「これを乗り越えたから、また同じことがあっても楽勝じゃん」と思えて成長にもつながっていますし、つらかったという記憶はないです。
——利用者との関わりで大事にしていることは何ですか。
笑顔です。誰かのサポートを必要とされる方々はネガティブになりがちなので、僕たちが元気で明るい笑顔を届けるだけでも全然違うんです。介護技術も大事ですが、そういうコミュニケーションによって利用者さんとの信頼関係を築くことが何より大事だと思っています。僕たちも利用者様の笑顔から元気をもらっていますし、お互いに還元できる関係を作れたらと思っています。
船に乗って、それぞれの未来へ共に進む
利用者と従業員が「いつもの場所」で自分らしく生きられるよう、それぞれの人生に寄り添うSHIIP。最後に、これから介護業界で働く人や従業員への思いを石岡氏に伺った。
「SHIIPという社名にあるように、この会社を船のようにして、いろいろな方向に目を向けてほしいです。介護だけを見ているとここしか見えなくなってしまうので、広く世の中を見てほしい。例えば、他業種で働いていていた方でも、それまでの経験が介護でも通用することがたくさんありますし、技術は後からついてくるので、誰でも入ってきてほしいと思います。逆に、介護で働く中で他にやりたいことが見つかれば、そっちに行ってもいいとも思うんです。それぞれがいろいろな可能性を持って働いてほしいです」(石岡氏)

◎会社情報
社名:合同会社SHIIP
所在地:180-0013 東京都武蔵野市西久保2丁目3番12号 榎本第一ビル101号室
URL:https://atos-tokyo.com
◎インタビュイー
合同会社SHIIP
代表 石岡 久美子
本部長 山本 真史
管理者 二木 恒星



