
2025年7月5日、英バーミンガムのヴィラ・パーク・スタジアムにて開催されたチャリティライブ「Back to the Beginning」が、音楽史に残る一夜となった。“闇の帝王”オジー・オズボーンにとって、このステージは実質的な引退ライブであり、1億9000万ドル(約280億円)という巨額の寄付を集める人道的な場ともなった。
寄付先はパーキンソン病研究団体、子ども病院、小児ホスピス
演出・音楽監督を務めたのは、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのギタリスト、トム・モレロ。1年以上にわたって準備されたこのイベントには、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズ、スレイヤー、パンサラ、トゥール、アリス・イン・チェインズといった世界的アーティストが名を連ねた。出演者はすべてノーギャラで参加し、観客は4万2000人、配信視聴者は580万人を数えた。
寄付金は、パーキンソン病研究の「Cure Parkinson’s」、地元の「バーミンガム子ども病院」、そして「Acorn小児ホスピス」の3団体に均等に配分される予定で、すでに各団体には通知が届いているという。
驚きのタイムテーブル、メタリカもガンズも「30分」
この日、最も話題を呼んだのは、徹底されたスケジュール管理だった。通常ならライブの大トリで60分以上のステージが与えられるような大物バンドたちが、すべて15〜30分の持ち時間で登場。メタリカやガンズ・アンド・ローゼズですら「30分」という要求を受け入れた。まさにオジーの引退という“本懐”のために、全員が身を削って共演に応じた構図だった。
トリを飾ったのは、オジー自身によるソロパフォーマンス(20分)と、約20年ぶりに再結成されたブラック・サバスのラストステージ。すべては、“Back to the Beginning=原点回帰”というコンセプトのもとに構成されていた。
感傷と爆発が交錯した、最後のステージ
ステージ終盤、オジーは病の影響で立ち上がることが難しい状態でありながらも、コウモリ型の玉座に腰かけて歌いきった。最終盤にはステージ上空に花火が打ち上がり、バーミンガムの空を彩ったその光景は、観客の涙と歓声を同時に誘った。
「Back to the Beginning」はオジーの“人生そのもの”を総括するライブであり、ブラック・サバスのラストステージも兼ねていた。「本当にこれが最後なのか?」と思わせるほど完成されたパフォーマンスだったが、シャロン・オズボーンはライブ後、「もう終わりよ」と明言した。
「15歳からずっと続けてきたけれど、これからは旅程に縛られない自分たちの人生を生きていく」と語り、音楽活動からの引退を示唆した。
病との闘い、音楽への執念
オジーは2020年、パーキンソン病であることを公表。当初は「震えもない、死刑宣告ではない」と明るく語っていたが、2019年からの手術、転倒事故、首の再手術などを繰り返してきた。2022年にはコモンウェルスゲームズで再びステージに立ち、2024年にはロックの殿堂入り式典でもパフォーマンスを披露。そして今回のライブに向けては、トレーナーとともに再び身体づくりに励んだ。
「神がこのショーをやれと望むなら、やる。全力を尽くす」──その言葉通り、限界まで力を振り絞った姿は、まさに音楽と命を重ねた“最後の戦い”だった。
ヘヴィメタルの帝王が示した“存在そのものの社会貢献”
ヘヴィメタルというジャンルを創出し、世界中の無数の若者に生き方を与えてきたオジー・オズボーン。ブラック・サバスがいなかったら、ジューダスプリーストもアイアンメイデンもメガデスやスレイヤーだって存在しなかっただろう。
ヘヴィメタルというジャンルを創出し、世界中の無数の若者に生き方を与えてきたオジー・オズボーン。ブラック・サバスのファーストアルバムに響く“血の雨音”とおどろおどろしく鳴り響くギターリフは、その後の音楽史を根底から揺るがす“鐘の音”だった。
寄付という行動一つをとっても、スケールが違う。病を抱えながらもステージに立ち、涙を流し、花火で幕を閉じたこの夜は、エンタメの粋を超えた「文化的儀式」であり、世界中が見守った“魂の卒業式”でもあった。
そして、ブラック・サバスというバンドの“終わり方”もまた、極めて異例だった。多くのバンドが解散や引退に際してネガティブな背景や内紛、体力の限界といった影を背負うなか、これほど多くの人々のリスペクトに包まれ、祝福されながら幸福な終焉を迎えた例は極めて稀だ。
まさに理想的な大団円として結実していた。もはや奇跡と呼ぶほかない幕引きである。
今年という年を振り返るとき、間違いなく最も深く記憶に刻まれるであろう、感動的なイベントだった。
偉大な人に、心からの感謝を。そして、すべてのレジェンドたちに最大の敬意を。
【Back to the Beginning 全セットリスト】2025年7月5日/ヴィラ・パーク(バーミンガム)
豪華すぎる、えげつないラインナップ。各バンドが一曲ずつ、ブラックサバスやオジーのカバーを取り入れていた。
時刻 | アーティスト |
---|---|
11:30 AM | 開場(DOORS OPEN) |
1:30–1:45 PM | Mastodon |
1:52–2:07 PM | Rival Sons |
2:15–2:29 PM | Anthrax |
2:37–2:52 PM | Halestorm |
3:00–3:15 PM | Lamb of God |
3:25–4:00 PM | Super Group A |
4:07–4:22 PM | Alice In Chains |
4:29–4:44 PM | Gojira |
4:51–5:01 PM | Drum Off |
5:08–5:48 PM | Super Group B |
5:55–6:10 PM | Pantera |
6:17–6:37 PM | Tool |
6:44–7:12 PM | Slayer |
7:21–7:46 PM | Guns N’ Roses (GNR) |
7:53–8:23 PM | Metallica |
8:38–8:58 PM | Ozzy Osbourne(ソロ) |
9:13–9:48 PM | Black Sabbath(最終演奏) |
10:30 PM | 閉演(Curfew) |