
奈良県桜井市が6月6日に発表した「金塊20本」の寄贈が全国的な注目を集めている。寄贈したのは市内在住の70代男性。能登半島地震の避難所報道に心を動かされ、3.3億円相当の金塊を「避難所整備に役立ててほしい」と市に託したという。これは市への個人寄付としては過去最高額にあたる。
三菱マテリアル製の1キロインゴット20本が桜井市役所に届いた背景と、その税務上の取り扱い、さらには匿名寄付という形が持つ意味についても掘り下げる。
避難所整備のために3.3億円相当の金塊を寄贈 70代男性の手紙がきっかけに
きっかけは、今年2月に松井正剛市長宛に届いた一通の手紙だった。そこには「能登地震の被災地の避難所の様子を見て、高齢者や障がい者の方々にとって厳しい環境を改善してほしい」との思いが綴られていた。
その後、市の担当者が意向を確認し、3月に正式な寄贈が成立。寄贈された金塊は、1キロインゴットが20本、合計20キログラムで、時価総額は約3億3000万円に及ぶ。
松井市長は6月6日の記者会見で「市民を代表して心から感謝申し上げる。有意義に活用したい」と述べた。
寄付は市議会の承認を経て売却へ 避難所のトイレ整備などに活用予定
市によれば、今後はこの金塊を現金化するための議案を市議会に提出し、議決を経たうえで売却・換金する予定だ。その使い道については、避難所のトイレ整備をはじめとする防災関連施策に充てる方針を示している。
能登地震を機に浮き彫りとなった避難所の課題──高齢者が床に直接寝起きしなければならない現状や、仮設トイレの不足などに対し、今回の寄贈が解決の一助となる可能性がある。
寄付をすると税金はどうなる? 金塊寄付の税務上の扱いを解説
金塊などの現物資産を寄付する場合、税務上はいくつかの注意点がある。
まず、寄付は「譲渡」とみなされるため、取得時と寄贈時の価格差によって譲渡所得税が発生する可能性がある。特に金はこの数十年で価値が大きく上昇しており、保有期間が長いほど「含み益」が膨らんでいるケースが多い。
一方で、地方自治体への寄付には次のような控除や配慮がある。
- 寄付金控除の対象となる(確定申告が必要)
- 自治体側が資産の評価書や寄付受領証明書を発行する
- 税理士と相談のうえ適正に申告することで課税額を抑えられる可能性がある
つまり、寄付によって税務上の負担が生じる可能性はあるものの、公益性が高く正しく手続きを踏めば、過度な課税を回避できる仕組みも存在している。今回の寄贈者がその点を理解したうえで寄付を行ったとすれば、まさに損得を超えた社会貢献の姿といえるだろう。
誰もが真似できるわけではない、だが“無私”の金塊に学ぶこと
市は、寄贈者に対して非公開で感謝状を贈呈した。現在までに明らかにされているのは、「桜井市在住の70代男性」「長年かけて金を買い集めてきた人物」という情報に限られている。
SNSでは「持つべき人が、持つべき使い方をした」「本当に素晴らしい行動」「市は使途をしっかり説明してほしい」といった声が広がっている。
金の価値は、その物理的な重さだけでは測れない。なぜ、それをいま手放すのか──その行為に込められた文脈と意志に、より大きな意味が宿る。今回の寄贈は、善意が制度を超え、行政と社会を動かすひとつの「実例」として語り継がれていくだろう。
誰もが3億円の資産を持っているわけではない。しかし、困っている人を思いやる心を行動に移すことは、誰もができるはずだ。そこにこそ、この寄贈の本質がある。