
2月3日、警視庁原宿署に連行されたのは、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス社長の谷本慎二容疑者(37)と、妻の志織容疑者(31)だった。容疑は弁護士法違反。報酬を得る目的で弁護士に法律事務をあっせんしたという、いわゆる「非弁提携」の疑いだ。
業界最大手として累計4万人の利用者を抱え、メディアの寵児となっていた谷本容疑者。多くの同業他社がひしめく中で、なぜ彼らだけが「本丸」として狙い撃ちされたのか。そこには、当局が看過できなかった違法な収益構造と、表の顔からは想像もつかない夫婦による異常な統制があった。
警察が踏み込んだ「紹介料ビジネス」の正体
退職代行というビジネス自体、常に「非弁活動」との境界線上の議論が絶えない。しかし、モームリのケースは質が違った。
多くの業者が労働組合の看板を掲げて交渉権を主張する一方で、モームリは特定の弁護士に仕事を流し、その対価として紹介料を得る「送客システム」を組織的に構築していた疑いがある。警視庁は、これが実態として法律事務のあっせんを業とする「事件屋」的な手法に近いと判断。昨年10月の家宅捜索を経て、押収資料から金流の裏付けを完了し、今回の逮捕に踏み切った。
広告塔の夫、現場を冷徹に縛る妻の二面性
今回の摘発で大きな鍵を握るのが、夫婦で逮捕されたという点だ。谷本慎二容疑者はYouTubeやSNSで「ブラック企業を救う」と気勢を上げる広告塔だった。しかし、その裏で組織の「締め付け」を実働部隊として担っていたのが、妻の志織容疑者だったとされる。
内部関係者によれば、夫婦の役割分担は明確だった。夫が対外的な理想を語る傍ら、志織容疑者はバックオフィスを支配し、従業員の日報を細かく精査。ミスを見つけては人格を否定するような言葉で問い詰めることが日常化していたという。夫婦という密室の権力が、ブレーキのない従業員管理を加速させていった。
赤文字で晒された社員と「他社代行」での離反
その管理手法は、皮肉にも彼らが糾弾してきたブラック企業そのものだった。2週間に一度、全従業員に送られるPDF資料には、個人のミスが一覧となって並ぶ。とりわけ「問題」とされた社員の名前は赤文字で強調され、衆人環視の中で糾弾される「公開処刑」の場となっていた。
こうした環境に耐えかねた社員たちは、次々と会社を去った。驚くべきは、その辞め方だ。モームリの社員でありながら、自社のサービスではなく「他社の退職代行」に依頼し、逃げるように辞めていった社員が少なくとも5名以上いたことが分かっている。自社を全く信用できず、他社に助けを求めなければならないほど、社内は疲弊しきっていた。
「退職代行のいらない社会」を掲げた経営者夫妻。だが、法を軽視した利益至上主義と、社員を恐怖で縛る体質こそが、皮肉にも彼ら自身を「もう無理」な状況へと追い込んだのである。



