
サウジアラビア・リヤド発の「今買って後で支払う(BNPL)」プラットフォーム「タマラ(Tamara)」が、最大24億ドル規模の資産担保融資枠を確保した。サウジアラビアで開催された「マネー20/20」カンファレンスで公表されたもので、ゴールドマン・サックスが手配した既存の5億ドル融資枠を大幅に拡大する内容だ。
新たな資金調達はシャリア法に準拠しており、ゴールドマン・サックスやシティ、アポロが運用するファンドなど世界的金融機関が関与する。今回の融資枠は14億ドルが即時実行され、一定の承認を経て今後3年間でさらに10億ドルが利用可能となる。タマラはこれを原動力に、クレジット商品や決済サービスを拡大し、金融スーパーアプリ構想を加速させる方針だ。
タマラの共同創業者兼CEOアブドゥルマジード・アル・スカン氏は「世界的な金融機関との契約は当社にとって重要な一歩であり、顧客中心の金融スーパーアプリ構築を進める力となる」とコメントした。
サウジの「ビジョン2030」と合致
タマラはサウジアラビア初のユニコーン企業で、2,000万人以上の顧客を抱える。投資家には、公共投資基金(PIF)の完全子会社であるサナビル・インベストメンツやSNBキャピタルが名を連ねる。2023年12月のシリーズCでは3億4,000万ドルを調達し、企業価値は10億ドルを突破した。
今回の契約はサウジ政府の「ビジョン2030」の金融セクター多角化戦略とも合致しており、民間セクターの成長と国際投資の呼び込みを後押しするものと位置づけられる。AppleやIKEA、Amazonなど87,000以上の販売業者と提携し、BNPLを超えたサービス拡充を視野に入れている点も、政策目標と歩調を合わせている。
Tabbyとの競争、湾岸市場で覇権争い
BNPL市場では、ドバイ発の「Tabby」が最大のライバルとなる。両社はいずれもGCC市場を主要拠点とし、サウジ国内だけで顧客基盤の80%以上を握っている。2020年にわずか7.6万人だったBNPLの登録顧客数は、2022年には1,000万人に急増。こうした爆発的な需要の中で、タマラとTabbyは利用者数・加盟店数で拮抗している。
ただし両社の戦略には違いもある。Tabbyが積極的なプロモーションで短期的な利用拡大を狙うのに対し、タマラは遅延手数料を廃止するなど「顧客中心主義」を前面に押し出して差別化を図る。今回の24億ドルの融資枠は、この差別化戦略を一層強化し、地域金融市場での覇権を争ううえで決定打となりそうだ。