
日本郵便が12万件超の点呼不備と記録改ざんを認め、2500台の貨物車両使用停止処分を受け入れる方針を表明。ヤマトや佐川などに委託し、「ゆうパック」など物流網の継続を図る。
2500台が使用停止、物流の継続に外部委託で対応
日本郵便は6月17日、運転手への点呼業務に関する不備が全国で多数見つかった問題を受け、国土交通省からの一般貨物自動車運送事業許可の取り消し処分を受け入れる方針を明らかにした。これにより、同社が保有するトラックやワンボックス車など約2500台が5年間運用停止となる。
これに伴い、物流機能の維持を目的として、ヤマト運輸、佐川急便、西濃運輸、トナミ運輸など同業他社への集荷業務の委託が進められている。対象となる輸送能力のうち、57%(約6万便相当)を委託で補完する見通しだ。
不適切な点呼、12万件以上 記録の改ざんも横行
日本郵便が今年3〜4月にかけて実施した社内調査では、全国3188の郵便局において計57万8000件の点呼記録を精査。そのうち12万6000件は、酒気帯び確認や体調チェックなどの必要項目がまったく実施されていなかった。また、10万2000件にのぼる記録については、防犯カメラや関係者ヒアリングにより、実際には点呼を行っていないにもかかわらず「実施した」と記録されていたことが判明した。
点呼とは、運行前後に運転手の酒気帯び、疾病、睡眠不足の有無を確認する制度で、「貨物自動車運送事業輸送安全規則」により対面での実施が義務付けられている。点呼内容は記録簿に残し、1年間保管することが求められている。
国土交通省は今回の件を、「輸送の安全確保の根幹を揺るがす行為」として極めて深刻に受け止めており、関東運輸局管内だけで200点以上の違反点数を認定。事業許可の取り消し基準(81点)を大幅に上回ったため、厳しい行政処分に踏み切った。
ゆうパックへの影響と今後の委託先
今回の処分によって、「ゆうパック」をはじめとする日本郵便の宅配サービスの今後に注目が集まっている。同社は委託先として、ヤマト運輸、佐川急便、西濃運輸のほか、近く完全子会社となるトナミ運輸を挙げている。
ヤマト運輸への委託は、昨年日本郵便が同社を相手取り、小型荷物の配送委託をめぐる訴訟を起こしていた経緯があるものの、「混乱を避けるための現実的判断」として調整が進められている。残る輸送能力の3割超は軽バンの稼働増強で補い、約4割を自社子会社の「日本郵便輸送」によってカバーする方針だ。
なお、宅配便の取扱件数では、ヤマトの「宅急便」が最多、佐川の「飛脚宅配便」がそれに続き、「ゆうパック」は国内第3位となっている。一方、メール便においては日本郵便が79.6%のシェアを持ち、社会インフラとしての役割は依然大きい(令和5年度宅配便・メール便取扱実績、国土交通省調べ)。
点呼不備の背景にあった組織的な課題
なぜこのような深刻な不備が広範囲にわたって放置されていたのか。日本郵便の調査によれば、主な原因として「法令に対する認識の甘さ」「形式主義の蔓延」「ガバナンスの欠如」が指摘されている。
具体的には、「飲酒運転など現実にない」といった思い込み、帳簿だけを整えれば問題にならないという意識、そして点呼マニュアルの誤りや属人的な紙ベース管理の継続が挙げられる。また、管理職の多くが点呼業務の重要性を理解しておらず、本社と支社間の報告体制も不十分であったことが問題の根底にあった。
さらに、一部の郵便局では誤った点呼方法がマニュアルに記載されていたことも判明しており、問題は単なる現場の怠慢ではなく、組織構造の欠陥に起因していることが明らかとなった。
内部通報を3年間無視 初動の失敗が問題拡大に
日本郵便は、2022年に大阪府内の郵便局において点呼不備の内部通報を受けていたが、当時は「違反の事実は認められない」と判断し、具体的な調査や是正措置は取られなかった。2023年にも追加通報が行われたが、再び「証拠不十分」として対応を見送っていた。
今年3月になってようやく全国的な調査が実施され、その結果として75%の郵便局で不適切な業務が行われていたことが明らかになった。日本郵便は、当時の対応の不備を認めた上で、「もっと早く踏み込んでいれば是正の機会があった」と釈明している。
信頼回復に向けて必要な取り組みとは
今回の不祥事は、日本郵政グループ全体に波及する可能性がある。過去にも、かんぽ生命での不正販売、ゆうちょ銀行の情報管理問題、日本郵便の下請け業者への違約金徴収など、度重なる不祥事が社会的な批判を招いてきた。
今回の事態は氷山の一角にすぎないとの指摘もあり、今後さらに詳細な調査が行われる可能性もある。物流という生活インフラを担う企業として、日本郵便には早急な業務改革とともに、法令順守と透明性の高い組織運営体制の構築が求められている。
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