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推し活消費が日本を動かす 製造現場とファンをつなぐ経済の新潮流

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推し活が経済を回す

物価高や将来不安が重くのしかかるなかでも、若者を中心に「これだけは譲れない」とされる消費がある。アニメやアイドル、映画など“推し”の存在を応援する「推し活」は、倹約志向の中でも支出を惜しまない分野として注目を集めている。今やその市場規模は3兆5000億円超と推計され、イベントやグッズ販売だけでなく、製造業や職人の仕事にも波及。さえない個人消費の中にあって、推し活は新たな経済の担い手となりつつある。

アイドルから映画キャラクターまで、Z世代を中心に広がる「メリハリ消費」の主役に

物価高が続くなかでも、“これだけは譲れない”という個人のこだわりに支えられた消費が拡大している。とりわけ注目されているのが、自分の「推し」を応援する“推し活”消費だ。

アニメやアイドル、映画、スポーツ選手といった「好きな存在」を中心に広がる推し活。倹約志向が強まる日本の個人消費において、今やその存在は無視できないものとなっている。

チケット完売、グッズは即完売――「推し活」イベントの驚異的な消費力

今年4月に千葉市で開催された映画『スター・ウォーズ』シリーズのファンイベントでは、3日間で延べ10万人が来場。最高14万円のチケットも完売し、1体10万円を超えるフィギュアや260万円超の指輪まで売り切れる盛況ぶりを見せた。

参加者の声からは、節約との対比が際立つ。「普段はスーパーで1円単位を気にするが、推し活には惜しまず使う」と語る女性ファン、「スター・ウォーズにはいつも元気をもらっているからこそ、応援に出費を惜しまない」と語る男性など、いずれも“必要経費”として前向きに消費を捉えている。

 

宝飾品業界にも波及、キャラクター×ブライダルの新潮流

こうした熱量は関連ビジネスを大きく押し上げている。キャラクター宝飾品を手がける国内企業は、7年前に子会社を立ち上げて以降、59作品とのタイアップを展開。推しキャラの結婚指輪を求めて来店する若者カップルも珍しくなく、直近半年の売上は前年比3割増という。

福本圭佑部長は「推しの存在を日常で身につけられることが、心の充実やモチベーションにつながっている」と語り、海外展開も視野に入れていると明かす。

1300万人超が“推し活”実践、3兆5000億円市場に

2024年10月に日本銀行が発表した「さくらレポート」では、推し活需要の旺盛さが「個人消費の動向を捉える重要要素」として言及された。民間調査では、推し活をしている人の数は約1300万人、市場規模は3兆5000億円に達すると推計されている。

みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・チーフエコノミストは、「推し活は『プチ贅沢』を楽しむ若者のメリハリ消費の象徴」であり、「推しにかけるお金は自己表現や生きがいに直結しており、今後も底堅い市場として拡大が見込まれる」と評価する。

 

推し活は“つくる人”の仕事と誇りも支えている

推し活ブームは、消費者の熱量にとどまらず、グッズ製作の現場や職人の働き方にも大きな変化をもたらしている。

アニメや映画などの関連グッズを手がける中小製造業では、推し活による注文の急増を実感する声が相次いでいる。

「あるキャラクターの新作放送後、数千個単位のアクリルスタンドの注文が舞い込む。推し活の波は直接工場まで届いている」と語るのは、都内のOEM製造会社の営業担当者。京都の和雑貨職人も、「高額でも“限定”であれば確実に売れる。ファンが作品と共に和の文化も楽しんでくれるのがうれしい」と語る。

一方で、こうした熱量の裏側には、品質に対する高い要求がある。

「推しの顔が印刷された製品では、1ミリのズレでもNG。検品は緊張の連続です」と話すのは、千葉県の印刷所の担当者。SNSで不具合が瞬時に拡散されるリスクがあるからこそ、職人の手仕事に対する責任感は増している。

そうした中でも、多くの作り手がこの仕事にやりがいを感じている。

「単なる物販ではなく、“心の拠り所”を形にしている実感がある」(ぬいぐるみ製作会社)、「若手社員が“ファンを笑顔にするための仕事”として誇りを持っているのが、何よりの変化」と語る町工場の経営者もいる。

また、日本のアニメ文化の国際的広がりとともに、海外ファン向けの受注も増えつつある。愛知県の陶器メーカーでは「英語の対応や輸送に課題はあるが、世界中に“推し”を届けられるのは夢がある」と前向きに語る。

グッズ製作の現場にとって推し活は、売上だけでなく、**技術と誇りを未来につなぐための「文化的な追い風」**として受け止められつつある。

 

若者の実感と誇り――「私たちが日本経済を回している」

推し活を通じて積極的に消費する若者たちは、自らの行動が経済に貢献しているという実感を持っているのだろうか。都内でグッズ購入に並んでいた20代の女性はこう語る。

「“日本経済を回している”とまでは思っていないけど、私たちが動かしているお金が、少しでも誰かの仕事や次の作品につながっているならうれしい。推しが頑張ってるから、私も頑張れるし、そのためのお金は意味があると思ってる」

同様に、30代の男性も「税金で景気を回すより、好きなものに熱中してお金を使うほうが健全じゃないか。少なくとも、自分は毎月ちゃんと経済に貢献している」と笑った。

 

「推し活」は一過性か、それとも新たな生活文化か

若年層を中心に定着しつつある推し活は、単なる一時的なブームではなく、生活の一部、ひいては新しい消費文化として根付いている。

SNSの普及により熱量が広がりやすく、リアルイベントとの相乗効果も生まれやすい現代。日常の倹約と非日常の熱狂を切り分けた“推し消費”は、今後も続く個人消費の鍵となり得る。

「好きなものには、多少の出費はいとわない」――その思いが、日本経済の背中をそっと押している。

 

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SHOEHORN くつべらマン

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児童養護施設の職員。特に中学~新卒年齢の若者の生活・医療・福祉・自立支援に従事している。勤務時間外では、様々な職業の方へ取材活動を実施しており、大人になる若者たちへ情報を提供している。

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