
スマートフォンの通信料金とまとめて商品代金を支払える「キャリア決済」が、クレジットカード情報の不正利用に悪用される事例が相次いでいる。警視庁は、不正に取得されたカード情報が他人名義のキャリア決済にひも付けられ、本人が気付かぬまま被害が拡大しているとして、明細確認の徹底を呼び掛けている。利便性の高さが注目される一方で、通知の遅れや発見の難しさといった構造的なリスクも浮き彫りになっており、利用者には「自己防衛」が強く求められている。
不正クレジットカード情報、キャリア決済に悪用 警視庁が警鐘
不正に入手したクレジットカード情報を悪用し、通信料金と合算して買い物ができる「キャリア決済」を通じて商品購入が行われる被害が相次いでいる。警視庁によると、本人が気づかないまま決済が繰り返され、被害が発覚するまでに時間を要する事例が確認されており、利用明細のこまめな確認を強く呼び掛けている。
キャリア決済は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手通信事業者が提供するサービスで、月々の携帯料金にネットショッピングやデジタルコンテンツの代金を合算して請求する仕組みを採る。利便性が高く、カード番号やID入力の手間が省けることから、利用者数は拡大傾向にある。
しかしこの仕組みが、クレジットカードの不正利用にとって新たな“抜け穴”となっている。
他人のカードを登録、通知が届かず発覚遅れ
警視庁が明らかにした事案では、ベトナム国籍の男が他人のカード情報をキャリア決済にひも付け、オンラインゲームの通貨を不正に購入。電子計算機使用詐欺容疑で書類送検された。男はベトナム人による犯罪組織の一員とされ、不正利用がすぐに名義人へ通知されないキャリア決済の特性を利用し、発覚を遅らせようとした疑いが持たれている。
このような手口に対し、警視庁幹部は「不審な決済がないか、月ごとのカード明細を必ず確認してほしい」と注意喚起する。
5817件の相談 国民生活センターにも広がる被害報告
国民生活センターなどによると、2024年度に寄せられたキャリア決済に関する相談件数は5817件に達した。中には「家族全員分のスマートフォン料金をまとめて支払っており、半年間不正利用に気付かなかった」といった事例もある。
利用者に届く利用通知がリアルタイムでないことや、決済が通信料金の一部として処理されることが、発見の遅れを助長しているとみられる。
SBペイメントサービス調査で明らかになった利用実態
決済代行大手のSBペイメントサービスが実施した調査(対象:全国の20代~60代2350人)では、デジタルコンテンツ購入における「最も利用する決済手段」として、キャリア決済を選んだ回答者は約140人に上り、クレジットカード決済やPayPayに次いで3位となった。今やキャリア決済は、決済手段の一角として確実に定着している。
利便性の裏で広がるリスクに対し、利用者自身の対策が一層求められる局面を迎えている。
不正利用を防ぐために利用者ができる対策
警視庁や消費者団体の情報をもとに、利用者がとるべき具体的な対策を以下にまとめる。
- キャリア決済の利用上限を設定する
利用額に上限を設けておくことで、不正利用による損害を最小限に抑えられる。 - 明細の定期確認を習慣化する
携帯キャリアのマイページやアプリで利用履歴をこまめにチェックすることが重要。 - キャリア決済機能の利用を一時停止・制限する
利用予定がない場合、キャリア決済の利用自体をオフにすることも一つの手段となる。 - 家族利用者の端末にも注意を払う
契約者がまとめて支払う場合、家族の端末での不正やトラブルにも気付ける体制が必要である。 - フィッシングメールや不審なアプリのインストールを避ける
カード情報の漏洩につながる手口への警戒も怠ってはならない。
利便性と引き換えに問われる「自己防衛」意識
キャッシュレス社会の進展とともに、利便性とリスクは表裏一体となる。特にキャリア決済のように「簡単・早い」を売りにしたサービスは、セキュリティ面での「気付きにくさ」という副作用も併せ持つ。利用者一人ひとりが、明細を確認する習慣や設定の見直しなど、日常的な対策を怠らないことが、被害の防止につながる。
警視庁は改めて、「キャリア決済の便利さに慣れてしまわず、利用明細や利用設定のチェックを忘れないでほしい」と呼び掛けている。