
産経新聞によると、大阪府内で12日に実施される令和7年度公立高校一般選抜において、複数の伝統校で倍率が1倍を下回る異例の事態が発生した。特に、地域の進学校として人気の高かった寝屋川高校が1倍割れを起こしたことは、「寝屋川ショック」としてSNSでも大きな反響を呼んでいる。
■歴史ある進学校が相次ぎ定員割れ
7日に発表された各校の倍率では、寝屋川高校が0.94倍、八尾高校が0.99倍、鳳高校が0.94倍といずれも1倍を下回った。寝屋川高校(大阪府寝屋川市)は明治42年創立の高等女学校を前身とし、八尾高校(大阪府八尾市)、鳳高校(大阪府堺市)もそれぞれ100年以上の歴史を誇る旧制中学の流れを汲む伝統校だ。
これらの高校は、関西の難関私大「関関同立」(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)への合格者を多数輩出する「2番手校」として知られ、府立トップ校を狙う受験生が次に選ぶ学校として人気を集めてきた。しかし、ここにきて志願者が大きく減少している。
SNS上では「寝屋川高校の定員割れは衝撃的」「公立志向が強かった大阪でこんなことが起こるとは」といった驚きの声が相次いでいる。
■背景に私立人気の高まりと募集人員増加
この異常事態の背景には、私立高校の人気上昇があるとみられる。大阪府では令和6年度から段階的に公私立高校の授業料無償化を実施しており、私立高校を選択するハードルが下がった。また、私立高校は2月中に合格発表を行うため、早めに進路を確定させたい受験生のニーズに合致していることも公立離れを加速させた可能性がある。
さらに、寝屋川高校と八尾高校は近年の高倍率を受けて令和6年度から定員を40人ずつ増員していた。これにより競争率が下がり、結果として倍率1倍割れにつながったと考えられる。
■全国の学校で進む定員割れ対策
全国的に公立高校の定員割れが問題視される中、各地域の学校ではさまざまな対策が進められている。
- 特色ある教育プログラムの導入:AI・データサイエンス、観光、福祉など、地域産業と連携した専門学科を設置。
- ICT(情報通信技術)教育の充実:オンライン授業やプログラミング教育を強化。
- 学校施設・設備の充実:老朽化した校舎のリニューアルやカフェテリア導入。
- 学費負担の軽減:奨学金制度の拡充や授業料無償化の推進。
- 学校のPR活動強化:SNS・YouTubeを活用した広報やオープンキャンパスの充実。
- 地域連携の強化:地元企業との連携によるインターンシップや職業体験の提供。
■定員割れによる廃校の増加
近年、日本全国で定員割れを理由とした高校の廃校が相次いでいる。
- 2020年度~2023年度の間に約400~500校が統廃合
- 北海道では2023年度までに50校以上が廃校
- 新潟県、兵庫県でも複数の高校が定員割れにより統合・閉校
特に地方では少子化と都市部への流出が重なり、高校の存続が厳しくなっている。
■文部科学省や自治体の対応
定員割れ問題を受け、文部科学省や自治体は以下のような対応を進めている。
- 高校の統廃合・再編:地方では複数の高校を統合し、学科やコースを再編。
- オンライン授業の活用:過疎地域の高校生も都市部の教育を受けられる体制を強化。
- 専門学科の充実:AI・データサイエンス、観光、福祉など、地域産業と連携した学科を奨励。
- 学費支援の強化:公立・私立高校の授業料無償化を拡大し、公立の魅力向上を図る。
- 地元企業との連携:職業体験や就職支援を強化し、地域に定着する人材を育成。
■統廃合のリスクが現実味を帯びる
大阪府の府立学校条例では、3年連続で募集人員を満たさなかった場合、再編整備の対象とする方針を定めている。特に鳳高校は2年連続で定員割れを起こしており、統廃合の可能性が現実的になりつつある。
今後、公立高校の魅力をどう維持していくのか。伝統校が直面する危機に、教育関係者の間でも議論が求められている。