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産業機械大手の荏原製作所が、ポンプ製造に必要な木型など計8900個を下請け業者176社に無償で長期間保管させていたことが明らかになった。公正取引委員会は、この行為が下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)に該当するとして、同社に再発防止と保管費用の支払いを求める勧告を行った。公取委によると、無償保管させた木型の数、対象業者数ともに過去最多であり、最長で20年以上保管を続けた事例もあったという。
過去最多の木型8900個を無償保管
公正取引委員会は2月20日、産業機械メーカーの荏原製作所(東京都大田区)が下請け業者176社に対し、ポンプ製造に必要な木型など計8900個を無償で長期間保管させていたことが下請法に違反するとして、再発防止を求める勧告を行った。公取委の発表によると、金型や木型の無償保管を巡る勧告としては、今回の事例が過去最多となる。
荏原製作所はポンプの製造・販売を主力事業とし、公共施設やビルの給排水、工場、農業など幅広い分野で利用されるポンプを供給している。今回の勧告の対象となったのは、同社が発注したポンプ製造に必要な木型や金型、治具などで、2023年2月以降、発注の予定がないにもかかわらず、これらを下請け業者に保管させていた。
最長20年以上の保管も
公取委の調査によると、対象となった木型の中には20年以上にわたり保管されていたものもあった。さらに、無償で保管させられた木型の大きさは最大約27立方メートル、重さ数トンに及ぶものもあり、保管スペースの確保や管理コストが下請け企業に大きな負担を与えていたとみられる。
保管先は、下請け業者の自社敷地や外部の貸倉庫などであり、業者の一部は保管スペースを確保するために追加の費用を負担していたという。
下請け業者の声と公取委の判断
公取委の発表によると、下請け業者176社のうち約半数は、荏原製作所に対して保管料の支払いを求めていなかった。その理由について、業者側からは「保管料の請求をすると、発注先を変えられるかもしれない」「取引関係に波風を立てたくなかった」との声があがった。
こうした背景から、公取委は荏原製作所の行為が下請法が禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」に該当すると判断。荏原製作所に対し、下請け業者に保管費用を支払うよう求めるとともに、同様の行為を繰り返さないように再発防止を求める勧告を行った。
荏原製作所の対応と業界の動向
荏原製作所は、すでに保管費用の支払い手続きを開始しており、今後、木型の回収や廃棄を進める方針を示している。
一方で、製造業界では長年にわたり、発注や補修の都度必要となる金型や木型を下請け業者に無償で保管させる商慣行が根強く残っている。公取委は2023年3月以降、同様の勧告を12件行っており、今回の荏原製作所の件はその中で最大規模の事例となった。
特に、2024年2月には、自動車部品メーカーのサンデンが金型4220個を無償で下請け企業に保管させていたとして勧告を受けているほか、今月18日には日産自動車の子会社やトヨタ自動車系列の企業も同様の勧告を受けたばかりだ。
今後の影響と展望
今回の勧告は、製造業における下請け企業の負担軽減に向けた転機となる可能性がある。無償保管の慣習が放置されれば、下請け企業の経営負担が増し、賃上げや設備投資の余力が削がれる恐れがある。
公取委は今後もこうした不公正な取引慣行に対する監視を強化する方針であり、大手メーカーにとっては、取引慣行の見直しを求められる動きが一層強まることが予想される。荏原製作所の対応が、他の製造業者にも影響を与え、下請け企業の適正な取引環境の確保につながるかが注目される。