オフィス家具大手のイトーキが、委託した運送業者に対し、時間外労働や付帯業務の対価を支払っていなかったとして、独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで公正取引委員会から警告を受ける見通しとなった。物流業界の「2024年問題」を控え、荷主の不当な取引慣行が改めて問題視されている。
同時に、イトーキの企業統治(コーポレートガバナンス)の在り方も問われそうだ。
時間外労働・付帯業務、無償で要求か
イトーキは、オフィス家具の配送・設置業務を数十社の運送業者に委託していた。
しかし、関係者によると、繁忙期に運転手が契約時間を超えて労働した場合でも、超過分の残業代を支払っていなかったという。
また、イトーキの物流拠点での家具の積み込みや梱包材の返却といった付帯業務も、運送業者に無償でさせていたとされる。公取委は、これらの行為が独占禁止法で禁止されている不公正な取引方法に該当する疑いがあるとみて、イトーキに任意の調査を実施。
イトーキ側も事実関係を認めており、不利益を受けた運送業者には未払い分の報酬を全額支払う方針を示している。
「物流特殊指定」適用 荷主の不当な圧力に対処
公取委は、荷主の優越的地位を背景とした不当な圧力を防ぐため、2004年に「物流特殊指定」を導入した。これは、運送業者への報酬の不当な減額や物品購入の強制など、9つの行為を禁止するもので、違反した場合には排除措置命令が出される。
イトーキへの警告は、この「物流特殊指定」を適用したもので、2009年以来、15年ぶりのケースとなる。公取委は、住宅設備卸大手に対する立ち入り検査(2023年6月)など、運送業界の取引環境の改善に向けた取り組みを強化している。
「2024年問題」悪化の懸念も 業界全体の意識改革必要
2024年4月からは、トラック運転手の時間外労働の上限規制が強化される。これにより、物流業界全体で深刻な人手不足が懸念されている、いわゆる「2024年問題」である。
イトーキの事例のような不当な取引慣行は、運送業界の労働環境を悪化させ、人材不足に拍車をかける要因の一つになりかねない。公取委の警告は、業界全体への警鐘と言えるだろう。
荷主企業は、法令遵守の徹底と、運送業者との公正な取引関係の構築が求められる。
イトーキの業績と今後の対応、問われるガバナンス
イトーキは、オフィス家具大手で、2023年12月期の年間売上高は931億円。今回の問題発覚後、同社株価は下落している。
イトーキは、「公取委の調査に全面的に協力している」とコメントし、再発防止策の策定に取り組むとしている。しかし、長年にわたり不当な取引慣行が行われていたとみられることから、企業統治(コーポレートガバナンス)の不備も指摘されかねない。コンプライアンス体制の強化や、倫理的な企業文化の醸成など、抜本的な改革が必要となるだろう。
公取委の警告を契機に、業界全体で取引慣行の見直しと健全な関係構築が求められるとともに、各企業のガバナンスの在り方が改めて問われている。