
事件の経緯と暴力行為の詳細
2026年2月下旬、伊勢ケ浜親方は酒席で弟子の伯乃富士(22歳)が知人女性に絡む行為に激怒した。関係者によると、座ったまま平手で顔面を複数回殴打したとされ、酒瓶を使用したとの証言もあった。伊勢ケ浜親方は自ら協会に報告し、2月24日に伯乃富士とともに事情聴取を受けた。
3月の春場所では休場措置が取られ、会場への入場を控えた。伊勢ケ浜親方は報道陣に対し、暴力行為を認め「責任のない行動を取ってしまった」と謝罪した。協会のコンプライアンス委員会(青沼隆之委員長=元名古屋高検検事長)が調査を進め、処分案を答申した。
伯乃富士側も別件で知人女性への不適切行為が発覚し、厳重注意処分となった。伊勢ケ浜部屋は角界有数の大所帯で、力士31人、関取7人を抱える。旧宮城野部屋を吸収した経緯もあり、部屋運営の負担が背景にあったとの指摘もある。
伊勢ケ浜親方の処分内容と親方階級の詳細
処分は協会の懲戒階梯に基づく。親方の階級は上から理事長、理事、副理事、役員待遇委員、委員、主任、委員待遇年寄、年寄(平年寄)など。
伊勢ケ浜親方は横綱経験者として委員待遇年寄の待遇を受けていたが、今回の決定で年寄(平年寄)へ2階級降格となった。追加で報酬10%減額(3カ月)。師匠交代はなく継続するが、当面は協会と一門の指導・監督下に置かれ、部屋付き親方4人による集団指導体制となる。
伊勢ケ浜親方は処分後、「いかなる理由があっても暴力は決して許されるものではなく、自身の行動を深く反省しております。今後はこのようなことを二度と起こさぬよう、自らを厳しく律し、皆様からの信頼を取り戻せるよう努力してまいります」とコメントした。親方階級は給与や協会内権限に直結する。委員待遇年寄は給与が委員クラスだが、平年寄は最も基本的な待遇となる。2階級降格は現役成績優秀者でも重い処分だ。
力士の暴力処分との不平等な対応
力士の暴力には2018年に明確な処分基準が設けられている。横綱は引退勧告以上、関取(十両以上)は出場停止1場所を目安、幕下以下は出場停止やけん責など。
実際、日馬富士(元横綱)は貴ノ岩への暴行で引退、貴ノ岩自身も付け人への暴行で引退、北青鵬(幕内)は弟弟子への長期暴力で引退した。一方、親方の暴力では個別判断が大きく、降格で済むケースが多い。協会は「親方は現役以上に厳しく」とするが、明確な番付別・行為別基準は力士ほど整備されていない。自主報告や単発性、常習性の有無が軽減要因となるため、処分に個人差が生じやすい。
中川親方(2020年)は弟子への日常的暴力で2階級降格+部屋閉鎖。宮城野親方(元白鵬)は監督責任で2階級降格+部屋閉鎖となったが、伊勢ケ浜親方は自ら報告した点などが考慮され、部屋継続となった。力士が現役生命を失うリスクが高いのに対し、親方は指導者責任を問われつつ部屋運営を優先される格差が、ファンや識者から「示しがつかない」との批判を呼んでいる。
相撲界で繰り返される暴力不祥事と甘さの指摘
相撲界の暴力問題は長年続いている。2017年の日馬富士暴行事件がきっかけで暴力決別宣言が出されたが、以降も事案が絶えない。伊勢ケ浜部屋自体、2017年の日馬富士事件(伊勢ケ浜親方は当時同席)、2022年の部屋内暴力(報告遅れで当時の師匠が2階級降格)があった。
他にも貴ノ富士(十両)の複数暴行、貴ノ岩の付け人暴行など力士側の事例が相次ぎ、親方側でも中川部屋閉鎖や宮城野部屋閉鎖が発生。協会は研修を重ね、報告義務を強化したが、閉鎖的な部屋文化や「指導と暴力の線引きの曖昧さ」が根深い問題とされる。
他スポーツでは指導者の暴力は即時解雇級の対応が一般的だが、相撲の師弟関係は特別視されやすい。識者からは「親方基準の明文化と外部監視強化が必要」との声が強い。繰り返しの不祥事は角界の信頼を損ない、ファン離れを招く恐れがある。
処分格差是正と再発防止に向けた課題
今回の処分は自主報告が評価された半面、指導者が手を上げる行為の重みを考えると軽いとの意見もある。協会は集団指導体制で監視を強化するが、根本解決には親方向けの明確な処分基準策定が急務だ。力士と親方の処分バランス、過去事例の教訓活用、部屋文化の見直しが求められる。
伊勢ケ浜親方はけがや病気と闘いながら大関から序二段まで落ち込み、史上最大の復活劇で横綱に上り詰めた苦労人として知られるだけに、処分を機に自らを律し、模範を示すことが期待される。相撲協会は暴力根絶を繰り返し宣言してきたが、事案の多発は「甘さ」の表れとの指摘を免れない。
今後、処分の公平性と透明性を高め、社会常識に合った対応を徹底できるかが、角界の存続に関わるだろう。



