
『ナッちゃん』や『学習まんが 日本の歴史』シリーズの作画などで知られる漫画家のたなかじゅん氏が4月7日、自身のXで暗号資産投資詐欺の被害に遭ったことを公表した。被害総額は583万2000円にのぼり、「貯金すべて消えました」と明かした投稿は急速に拡散。著名人による高額被害の告白として衝撃が走っただけでなく、Xで流れてくる「副業」案件が、どれほど危うい入口になり得るかを改めて浮かび上がらせた。
「自宅で数回入力するだけ」という甘い誘い文句
たなか氏によると、発端は妻がXで見つけてきた「自宅で数回入力するだけで副業」とうたう案件だった。
そこから話は暗号資産イーサリアムの運用を手伝うような形に移り、「毎日指示通りにクリックすると手持ちのお金が増える」と信じ込まされていったという。
派手な投資話から始まったのではなく、生活の足しになりそうな“軽い副業”に見えたことが、警戒心を下げた可能性は小さくない。
「詐欺かもしれない」と思いながら止まれなかった
たなか氏は「気づくポイントは何度もありました」と率直に振り返っている。
違和感がなかったわけではなく、どこかで「ひょっとして詐欺かも」と思っていた。
それでも「いやいや、そんなはずはない」と考えたい自分がいたと明かしている。
被害はしばしば、完全に無警戒な人だけに起きるものではない。
疑いながらも、それまでのやり取りや投入した金額、相手の巧妙な説明によって引き返せなくなる。
この心理の揺れが、今回の件を単なる著名人の失敗談ではなく、多くの人にとって身近な警鐘に変えている。
SNS型投資詐欺の典型例
警察庁はSNS型投資詐欺について、主としてSNSなど非対面のやり取りで投資を勧め、利益が出ると信じ込ませたうえで、投資名目で金銭や暗号資産をだまし取る手口だと説明している。
最初は広告、DM、投稿などから接触し、別のチャットやグループに誘導して信用させる流れが典型的だ。
たなか氏のケースも、X上の副業案件を入口にしながら、実際には暗号資産運用のような形へ移されていった。
「閉じた場所への誘導」と「利益画面」
金融庁も、SNS上の投資勧誘に強い注意を呼びかけている。
特に目立つのは、動画広告やSNS投稿からクローズドチャットへ誘導し、そこで「先生」「講師」「アシスタント」役が登場して、利益が出る投資のように見せる手口である。
さらに、利用者からの相談事例として、暗号資産を含む投資で「儲けを引き出すには手数料や保証金が必要」と追加送金を求められるケースも紹介している。
見た目には利益が出ているように見える画面や、周囲の成功談らしき投稿が、被害者の判断を鈍らせる。
「副業」から「投資詐欺」へ
この手の案件が厄介なのは、最初から大金を払わせる露骨な勧誘ではなく、「家にいながらできる」「数回の入力でよい」「ちょっとした副収入になる」といった、日常に溶け込んだ言葉で近づいてくる点にある。
物価高や生活不安が続くなか、副業という言葉は以前よりも身近になっている。
そこへ暗号資産や運用という専門用語が後から重なれば、仕組みを理解しきれないままでも、「難しいけれど本当にそういうものなのかもしれない」と思ってしまう人は出てくる。
詐欺の巧妙さとは、派手さではなく、こうした現実感のある入口づくりにある。
途中で引き返せない構造
警察庁は、SNS型投資詐欺で高額被害が相次いでいると公表している。
2026年2月公表の暫定値でも、前年のSNS型投資・ロマンス詐欺は大きな被害規模となっており、被害が社会問題として定着していることが分かる。
さらに2025年10月末時点の公表値では、SNS型投資詐欺の認知件数は7243件、被害額は945.2億円に達していた。
たなか氏の583万2000円という金額は衝撃的だが、警察庁全体の統計を見ると、こうした被害が個別の珍事ではなく、広く繰り返されている現象であることが分かる。
すぐに関係機関に相談を
金融庁は、不審な投資勧誘に触れた場合は関わらず、情報提供窓口や相談窓口、警察へ相談するよう促している。
たなかじゅん氏の告白は、個人の痛ましい損失であると同時に、いまのSNS社会で誰にでも開いている危険な入口を可視化した。



