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「残業を増やしたい」人はわずか10%、厚労省調査で見えた「もっと働きたい」1割の衝撃と本音 残業上限の緩和は必要か?

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働き方改革関連法施行後5年の総点検について

厚生労働省が公表した「働き方改革」5年後の総点検調査で、労働時間を「増やしたい」と願う労働者がわずか1割にとどまることが判明した。残業上限の緩和を求める政治の動きに対し、現場の労働者や企業が抱く「本音」と、浮かび上がった深刻な所得問題を深掘りする。

 

働き方改革から5年、いま明かされる「労働者の本音」

2019年から順次施行された「働き方改革関連法」。長時間労働の是正を目的に、残業時間に罰則付きの上限が設けられてから5年以上が経過した。日本人の働き方は、果たしてどのように変わったのだろうか。

厚生労働省は2026年3月5日、この5年間の歩みを振り返る「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果を公表した。この調査は、2025年10月から12月にかけて、労働者3,000人へのアンケートと企業327社へのヒアリングを通じて、働き方の実態とニーズを把握するために行われたものである。

世間では「もっと働いて稼ぎたい人もいるはずだ」という声や、政府内での「労働時間規制の緩和」を巡る議論も聞こえてくる。しかし、今回明らかになったデータは、そうした議論とは一線を画す、労働現場の極めて現実的な「冷めた視線」を浮き彫りにした。

衝撃のデータ:「増やしたい」は10.5%、大半は「現状維持」か「削減」

 

今回の調査で最も注目すべきは、労働者が今後どの程度の労働時間を希望しているか、という点だ。調査結果(n=3,000)によると、労働時間の増減に関する希望は以下の通りであった。

  • 「このままで良い」:約59.5%
  • 「減らしたい(やや減らしたいを含む)」:約30.0%
  • 「増やしたい(やや増やしたいを含む)」:約10.5%

約6割の労働者が「今のままでよい」と考え、3割は「もっと減らしたい」と回答している。つまり、全体の約9割がこれ以上の労働時間の増加を望んでいないという現実がある。政治の場で議論されている「もっと働きたい人が働けていない」という認識は、全労働者から見れば、わずか1割程度の限定的な層にしか当てはまらない可能性があることが示された。

さらに、時間外労働(残業)の上限規制について、月80時間(過労死ラインとされる基準)を超えてまで働きたいと回答した人は、全体のわずか0.5%に過ぎなかった。厚生労働省もこの結果に対し、「上限を超えてまで働きたいという声は非常に限定的である」と分析している。

労働者が考える「妥当な残業時間」とは

労働者が1か月あたり「妥当だ」と考える時間外労働等の時間についても、驚くべき結果が出ている。

妥当だと考える時間外労働等の時間割合(%)
0時間21.7%
0時間超20時間以下43.9%
20時間超45時間以下27.4%
45時間超(原則の上限超え)わずか7.0%

調査によると、全体の93.0%が、月あたりの残業時間は「45時間以下」が妥当であると考えている。現在、労働基準法では残業時間を原則月45時間以内と定めているが、この現行ルールは多くの労働者の実感に近いものと言えるだろう。

なぜ「もっと働きたい」のか? 理由の第1位は「たくさん稼ぎたい」

 

労働時間を「増やしたい」と回答した10.5%の人々は、どのような背景を持っているのだろうか。その理由を複数回答で尋ねた結果、仕事への意欲以上に「切実な家計状況」が見えてきた。

  1. たくさん稼ぎたいから:41.6%
  2. 自分のペースで仕事をしたいから:19.7%
  3. 残業代がないと家計が厳しいから:15.6%
  4. 仕事の完成度や業績をより高めたいから:10.2%
  5. 会社や社会に貢献したいから:9.8%

最も多かった理由は「たくさん稼ぎたい」であり、「残業代がないと家計が厳しい」という回答も15%を超えている。これらを合わせると、半数以上の人が「収入の確保」のために長時間労働を消去法的に選ぼうとしていることがわかる。

一方で、「減らしたい」と考える理由については、「自分の時間を持ちたい(66.7%)」、「自身の健康を害しないため(39.6%)」といった、ワークライフバランスや健康維持を重視する声が圧倒的だ。

また、現状の労働時間が「このままでよい」とする人の約44.3%が「自分の仕事と生活のバランスを変えたくない」ことを理由に挙げており、働き方改革によって得られた「自分の時間」を死守したいという強い意志が感じられる。

企業の6割が「現状のままがいい」と回答。増やしたい企業のジレンマ

 

企業側の意識はどうだろうか。327社を対象としたヒアリング調査の結果を見てみよう。

  • 「現状のままがいい」:201社
  • 「減らしたい」:73社
  • 「増やしたい」:53社

企業側の約6割も「現状維持」を希望している。その理由として最も多いのは「業務量との関係(178社)」だが、次に「労働者の健康確保・ワークライフバランス(22社)」や「人材確保・定着(20社)」が続いている。

「現状のままがいい」と回答した企業からは、次のような具体的な声が上がっている。

「人材確保の観点からも労働時間が長いと求職者から敬遠される」
「労働時間を増やしはじめればきりがない。上限を上げて現状におもねるより受発注の構造を考えるべき」
「自動車運転者の生命や健康を考えると(残業を)そこまで増やしたいとは思わない」

一方で、労働時間を「増やしたい」と回答した53社については、建設業や運輸業などで高い傾向が見られた。その理由の多くは「天候の影響による作業遅延(建設業など)」や「人手不足」によるもので、こちらも積極的に働かせたいというよりは、業務上の必要性に駆られているケースが目立つ。

業界別・世代別で異なる「労働時間」への切実な声

 

今回の調査では、特定の業界が抱える「歪み」も浮き彫りになった。

1. 深刻な「手取りの減少」に揺れる物流現場の苦悩

配送・物流の現場では、いわゆる「2024年問題」に伴う残業規制の強化が、働く人々の生活を直撃している実態がある。日本テレビの報道では、労働時間が抑制されたことで、月の手取り額が3万〜4万円ほど減少したという切実な声が現場のドライバーから上がっていた。こうした所得の低下は深刻な人材流出を招いており、ある物流業者ではわずか2年の間に所属ドライバーが50人から30人へと大幅に減少した事例も報告されている。しかし、彼らの本音は決して「もっと長時間働きたい」というものではない。十分な収入が保障されるのであればこれ以上の労働は望まないという意識が強く、労働時間の延長に頼るのではなく、配送料の適正化などを通じた「給与水準の維持」を求める声が主流となっている。

2. 建設業界:天候と工期の板挟み

建設業界においては、屋外作業が中心であるという特有の事情が、労働時間管理を困難にしている。猛暑や豪雨といった天候不順によって作業が遅延した際、その遅れを取り戻すために一時的に労働時間を増やす必要性に迫られるケースが多い。特に民間工事では依然として厳しい工期設定が残っており、残業で対応せざるを得ない現場の受注を断念する経営者も少なくない。その一方で、現場を支える労働者の意識には明確な変化が見られる。特に20代から30代の若手層を中心に、残業や休日出勤を避けてプライベートを優先したいという考えが定着しており、従来の働き方を重視する層との間に意識の乖離が生じている。

3. 若手層とベテラン層の意識差

経済的な理由以外にも、自らの技術研鑽や完成度の追求のために時間をかけたいと願う層が一定数存在している。キャリア初期の若手社員の中には、図面を精査するなどの学習時間を十分に確保したいという意欲から、あえて残業を希望するケースがある。また、熟練の職人からも、厳格な時間制限によって自らが納得できるレベルの仕上げを妥協せざるを得なくなることへの危機感が示されている。このように、単なる労働の対価としてではなく、プロフェッショナルとしての誇りや「より良いものを作りたい」という純粋な向上心から、現状の規制に息苦しさを感じる労働者がいることも見過ごせない事実である。

専門家が警鐘:「規制緩和」が答えではない

 

今回の厚労省調査の結果を見ても、労働時間を増やしたい理由として所得増のニーズが多いという点が伺える。つまり、人々が求めているのは「長時間労働」そのものではなく、そこから得られる「十分な所得」なのだ。毎日新聞の報道で回答していた中央大の正浩教授(経済政策)の見解によれば、上限規制のあり方そのものを緩和して長時間労働を復活させるのではなく、以下の2点が重要だとしている。

  1. 生産性向上の取り組み:短い時間で効率よく成果を出せる環境を整える。
  2. 賃上げ環境の整備:労働時間が減っても生活レベルを維持・向上できる給与体系を実現する。

将来を見据えたキャリア形成支援と、生産性に見合った適切な分配こそが、今の日本に求められている本質的な議論と言えるだろう。

議論の火種:裁量労働制の拡大は「定額働かせ放題」か?

 

政府内、特に高市早苗首相は「労働時間規制の緩和検討」を指示しており、その大きな論点となっているのが「裁量労働制」の対象業務拡大だ。

裁量労働制は、仕事の進め方を労働者に任せる一方で、実際の労働時間に関わらず一定の賃金を支払う仕組みだ。今回のヒアリングでは、企業側から「一定の裁量がある労働者への適用を広げてもいいのではないか」という要望が出された。

しかし、これには強い警戒感も根強い。

  • 批判の声:「実質的な裁量がないまま導入されれば、『定額働かせ放題』につながり、過労死リスクを高める」
  • 現場の混乱:企業からも「対象労働者の範囲などの判断に迷うことが多く、わかりづらい」という困惑の声が上がっている 。

厚労省は今回の調査結果を参考に、労働政策審議会などで今後のルール作りを議論していく方針だ。しかし、労働者の6割が「今のままでよい」と考え、93%が「残業45時間以下が妥当」と考えている現状で、一律の規制緩和を強行すれば、現場の激しい反発を招くことは避けられない。

まとめ:私たちが選ぶべき「これからの働き方」

 

厚生労働省の「総点検」が明らかにしたのは、日本人が「働きすぎ」の過去を反省し、プライベートや健康を重視する文化をようやく手にし始めたという姿だった。

「増やしたい」1割という数字は、一見すると少ないように思える。しかし、その背景にある「稼がなければ生活できない」という切実な所得問題を見逃してはならない。一方で、「減らしたい」「このままでよい」と願う9割の労働者にとって、安易な規制緩和は、この5年間でようやく手に入れた「人間らしい暮らし」を奪いかねない脅威となる。

働き方改革の次なるステージは、単に「時間を削る」ことではない。限られた時間の中でいかに付加価値を生み出し、それをいかに労働者の賃金に還元するか。そして、建設業や運輸業のように構造的な課題を抱える業界を、社会全体でいかに支えていくか。

この調査結果は、私たち一般消費者にとっても、安価なサービスやスピードの裏側にどのような「労働の犠牲」があるのかを問い直す、重要なきっかけになるはずだ。

【参照】働き方改革関連法施行後5年の総点検(結果概要)(厚生労働省)

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ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

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