
2026年から段階的に施行される労働安全衛生法の改正により、職場の安全管理体制は大きな転換点を迎える。個人事業者への規制強化、ストレスチェック制度の義務化拡大、化学物質管理の厳格化など、対象範囲は企業規模や業種を問わず広がる見通しだ。改正の要点と、事業者が取るべき準備を整理する。
労働安全衛生法改正の背景
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を目的とする法律である。事業場における安全衛生管理体制の整備、危険作業の防止、健康管理の実施などを制度として定め、労働災害や健康被害の未然防止を図ってきた。
今回の改正は、多様な働き方の広がりや高齢化の進行、化学物質リスクの増大など、労働環境の変化に対応するためのものであり、個人事業者等を含めた「現場の実態」に即した安全対策の強化が柱となっている。
施行時期の整理
今回の改正は一斉に施行されるわけではなく、項目ごとに段階的な施行が予定されている。原則としては2026年4月1日施行が中心となるが、制度によっては2026年1月1日、同年10月1日、2027年1月1日、2027年4月1日など、異なる施行日が設定されている。
また、ストレスチェック制度の全面義務化や、化学物質の情報通知義務違反に対する罰則については、公布後3年以内、5年以内に政令で定める日から施行される見通しとなっている。
個人事業者等への安全衛生対策の強化
改正の大きな柱の一つが、労働者と同じ現場で働く個人事業者等を、安全衛生対策の対象として明確に位置づけた点である。
建設業や製造業などの現場では、注文者や元方事業者に対し、作業間の連絡調整や災害防止措置の義務が拡大される。これまで労働者中心だった統括管理の枠組みに、個人事業者等も含まれるようになる。
また、個人事業者等自身にも、安全衛生教育の受講など一定の義務が課される。さらに、個人事業者等を含む作業従事者の業務上災害について、労働基準監督署へ報告する仕組みが整備される。
メンタルヘルス対策の拡大
ストレスチェック制度は、これまで常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務づけられ、50人未満の事業場では努力義務にとどまっていた。
改正により、50人未満の事業場についても、段階的に義務化される方針が示された。小規模事業者の負担に配慮しつつ、十分な準備期間を設けたうえでの施行が予定されている。
高ストレスと判定された労働者への医師面接指導や、集団分析による職場環境改善の重要性も、より広く求められるようになる。
化学物質管理の実効性強化
化学物質対策では、譲渡・提供時における危険性・有害性情報の通知義務違反に対して、罰則が設けられる点が大きな変更点となる。
成分名が営業秘密に該当する場合でも、人体への影響や応急措置に関する情報の記載は必須とされる。医師が診断や治療のために成分の開示を求めた場合には、開示に応じる必要がある。
また、危険有害物質を扱う作業環境では、個人ばく露測定が作業環境測定の一つとして位置づけられ、作業環境測定士等による適切な実施が求められるようになる。
機械等による労働災害防止と適正化
機械災害対策では、ボイラー、クレーン等に係る製造許可(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大する。
さらに、登録機関や検査業者の適正な業務実施を担保するため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。
これらの措置のうち、不正への対処や欠格要件の強化、検査基準への遵守義務については、2026年1月1日施行と整理されている。
高年齢労働者への配慮
高年齢労働者の増加に伴い、労働災害防止の観点から、必要な措置の実施が事業者の努力義務として位置づけられる。
段差の解消、手すりの設置、照明の改善、作業時間や休憩の見直し、補助具の導入など、高年齢労働者の身体特性に配慮した職場環境整備が求められる。
労働安全衛生法とは何か
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康の確保を目的に、事業場の安全衛生管理体制、危険作業の防止、健康管理の実施などを制度として定めた法律である。
改正により、同一の作業現場で働く個人事業者等も含めた「作業の現実」に即した保護と義務の整理が進められている。
労働安全衛生法の概要・対象・申請関係の整理
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律の目的 | 労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成 |
| 主な対象 | 労働者を雇用する事業者およびその労働者 |
| 改正での拡張 | 同一現場で働く個人事業者等も対象・義務主体に含まれる |
| 対象外 | 同居親族のみの事業、家事使用人、原則として船員 |
| 規制内容 | 安全衛生管理体制、危険作業防止、健康診断、ストレスチェック等 |
| 申請・届出例 | 機械設置届、作業主任者選任、健康診断結果報告など |
| 提出先 | 労働基準監督署 |
| 手続方法 | 書面提出または電子申請 |
| 違反時の扱い | 罰則、行政指導、是正勧告など |
企業が進めるべき準備
改正対応は、制度理解だけでなく、実務体制の整備が重要となる。
個人事業者等が出入りする現場では、統括管理や連絡調整の仕組みを見直す必要がある。ストレスチェックについては、実施体制、医師面接の動線、個人情報管理の整備が不可欠となる。
化学物質対策では、通知・更新・現場運用の整合性を確保し、個人ばく露測定の実施体制も含めた準備が求められる。
まとめ:改正の新旧比較で「何が変わったか」を整理
労働安全衛生法 改正の新旧比較表
| 論点 | 改正前 | 改正後(2026年以降) |
|---|---|---|
| 保護の中心 | 雇用労働者中心 | 個人事業者等も対象に含まれる |
| 混在作業の管理 | 義務は限定的 | 作業間連絡調整など義務拡大 |
| 個人事業者の義務 | 明確な規定が弱い | 教育受講など義務化 |
| 災害報告 | 労働者中心 | 個人事業者等も報告対象 |
| ストレスチェック | 50人以上のみ義務 | 50人未満にも義務化 |
| 化学物質通知 | 実効性に課題 | 罰則付きで義務化 |
| 成分開示 | 企業裁量が大きい | 医師要請時は開示必須 |
| 個人ばく露測定 | 限定的 | 作業環境測定として義務化 |
| 機械検査 | 不正対策が弱い | 不正対処・欠格要件を強化 |
| 高年齢労働者対策 | 企業任せ | 災害防止が努力義務に |



