
2026年の幕開けとともに、日本の観光産業とエンターテインメント業界を結ぶ、小さからぬ地殻変動が起きた。旅行業界の雄である株式会社JTBと、原宿カルチャーを牽引するアソビシステム株式会社が、合弁会社「アソビJTB株式会社」を設立すると発表したのだ。
両社の発表によれば、新会社は「ポップカルチャーで世界をアップデートするビジネスプロデュースカンパニー」を標榜するという。長年培われたJTBの地域ネットワークや送客ノウハウと、アソビシステムが持つクリエイティブ力やIP(知的財産)創出力の融合は、インバウンド(訪日外国人旅行者)市場における構造的な課題に対し、一つの解を提示する可能性を秘めている。
本稿では、この新たな協業が目指す地平と、その背景にある日本のポップカルチャーが持つ潜在力について考察したい。
インバウンド戦略の転換点 「量」から「質」への深化
JTBとアソビシステムは、2024年2月に戦略的パートナーシップを締結して以来、協業の可能性を模索してきた。背景にあるのは、急速に回復・拡大するインバウンド市場が抱える「歪み」への危機感であろう。訪問先の都市偏在や観光人材の不足といった課題に対し、JTBはかねてより「量」から「質」への転換を掲げてきた。地域に送客するだけでなく、持続可能な体験価値を創出することが求められているのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、アソビシステムが持つ「KAWAII」カルチャーの発信力である。新会社では、日本とニューヨークを拠点に活動するアーティスト、増田セバスチャン氏をChief Kawaii Officer(CKO)に招聘。かつて原宿で訪日客を熱狂させ、2021年に惜しまれつつ幕を閉じた「KAWAII MONSTER CAFE」の再展開などを手掛けるという。これは単なる施設の復活ではなく、日本のポップカルチャーを地域の観光資源と掛け合わせるための象徴的な一手と言えるだろう。
「原宿から世界へ」の熱狂を、日本の観光資源へ還流させる
アソビシステムが持つ強力なコンテンツの筆頭に、アイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」の存在がある。コンセプトは「原宿から世界へ」。その言葉通り、彼女たちの活躍は目覚ましい。
今や国民的な人気を獲得しつつあるFRUITS ZIPPERを筆頭に、昨年末のNHK紅白歌合戦に出場したCANDY TUNE、日本レコード大賞新人賞に輝いたCUTIE STREET、そして昨年12月にデビューしたばかりの第5のグループMORE STARと、その層の厚さは圧倒的だ。また、音楽メディア「Real Sound」が2025年年末の記事で、2026年のネクストブレイク筆頭としてSWEET STEADYの名を挙げるなど、プロジェクト全体の勢いは止まるところを知らない。
彼女たちのパフォーマンスは、SNSなどを通じて国境を越え、世界中に熱狂的なファンダムを形成している。「原宿から世界へ」発信されたその熱量は、今度は彼女たちのライブや聖地を求めて来日する動機となる。つまり、新会社「アソビJTB」の使命とは、これまで外に向かっていたベクトルを反転させ、「世界から原宿へ」、そして日本全国の地域へと観光客を呼び込む、強力な磁場を形成することにあるのではないか。
地域と共創する新たな体験価値
アソビJTBが掲げる事業軸には、「地域祭事×KAWAII」や自治体・企業との共創による「コレクティブインパクト事業」が含まれている。
これは、ともすれば画一化しがちな地方の観光コンテンツに、ポップカルチャーという異質の要素を掛け合わせることで、化学反応を起こそうとする試みだ。例えば、全国を巡回する「KAWAIIマーケット(仮称)」の構想は、地域住民と訪日客が交流する新たな舞台となるかもしれない。JTBの山北栄二郎社長が「地域の魅力を“体験”として再構築する」と述べ、アソビシステムの中川悠介社長が「世界に広がる“KAWAII”の熱量を地域の未来に生かしたい」と語るように、両社の視線は「地域」に向いている。
アソビシステムの公式X(旧Twitter)も新会社設立について発信しており、同社の並々ならぬ意欲がうかがえる。2026年、日本の「KAWAII」は、単なる文化発信のフェーズを超え、観光立国・日本を牽引する実質的なエンジンへと進化を遂げようとしている。「アソビJTB」の設立は、その象徴的な第一歩となるだろう。今後の具体的な事業展開を注視したい。



