
箱根V3の立役者が激怒した「3万円サイン転売」の闇。なぜ本人が書いていない偽造品が、これほど容易に落札されるのか。学生を「ATM」扱いし、ファンの善意を食い物にするハイエナたちの錬金術と、崩壊するスポーツ文化の末路を追う。
本人が「書いていない」サインがなぜ3万円で売れるのか
新春の箱根路で5区の区間新記録を叩き出し、大会MVPに輝いた青山学院大学の黒田朝日。まさに「時の人」となった彼を待ち受けていたのは、スマートフォン越しに突きつけられたあまりに醜悪な現実であった。THE ANSWER等の報道によれば、黒田は11日、フリマサイトで自身の寄せ書きサインと称する色紙が「3万円」で落札されているスクリーンショットを晒した。驚くべきは、黒田本人が「このサイン偽物なので絶対に買わないように!」と断言している点である。本人が一筆も書いていない「真っ赤な偽物」が、箱根の熱狂に便乗しただけで、見知らぬ誰かの懐を潤す万札へと化けていた。なぜ、これほど明白な嘘がまかり通るのか。
原価200円が3万円に化ける?学生を「動くATM」と見なす転売ヤーの皮算用
なぜ、これほどまでに大胆な偽造が横行するのか。そこには、箱根駅伝というメガイベントが持つ、凄まじいまでの「換金性」への執着がある。特に圧倒的な人気を誇る青学ブランドは、転売ヤーにとってリスクの低い「高利回りの商材」に他ならない。色紙一枚、ペン一本。原価数百円にも満たない偽造品が、ファンの「応援したい」という純粋な善意を餌食にし、3万円もの暴利を生み出す。そこには選手の努力への敬意など微塵もなく、いかに学生の知名度を掠め取るかという、大人たちの卑俗な計算ばかりが透けて見える。
チームウェアまで出品か。OB太田蒼生も憤慨する「青学ブランド」切り売りの凄惨
この事態に、1年先輩の太田蒼生も即座に反応し、その略奪の惨状をぶちまけた。「学生にこんなこと言わせないでほしい」と吐き捨てるように苦言を呈した太田によれば、被害はサインに留まらず、本来は非売品であるはずのチーム支給ウェアまでもが取引の対象になっているという。選手たちが誇りと共に身に纏う戦闘服さえも、ハイエナたちの手にかかれば、単なる「転売益を生む布切れ」に成り下がる。学生アスリートを「銭のなる木」として切り売りする市場の歪みは、もはや正視に耐えないレベルに達している。
それは単なるマナー違反か。偽サイン販売という名の「詐欺罪」がちらつく実態
今回の騒動で最も注目すべきは、これが単なる転売の是非を超え、明確な「犯罪」の領域に足を踏み入れている点だ。本人が書いていないサインを「直筆」と偽って販売する行為は、刑法第246条の「詐欺罪」に抵触し、10年以下の懲役という重罰を伴う可能性がある。また、選手のパブリシティ権を無断で利用して利益を得る行為は、民事上でも多額の賠償請求の対象となり得る。手数料さえ入れば「偽物」でもお構いなしとばかりに放置を続ける、プラットフォーム側の無責任な構造も、改めて厳しく追及されるべきだろう。
失われる「信頼の聖域」。悪質な偽造は、子供たちの「憧れ」さえも凍結させるのか
「こういう事をされると、今後サインを書くことができなくなる」という黒田の言葉は、ファンと選手の間に築かれてきた「信頼」という聖域が崩壊しかけていることへの断末魔だ。トラブルを恐れた大学側が「ファンとの交流一切禁止」という極端な自衛策に走れば、最大の犠牲者となるのは純粋に応援を続けてきたファンや、憧れの選手に目を輝かせる子供たちである。悪質な一握りの金儲けのために、学生スポーツの持つ温かな文化が、今まさに凍結の危機に瀕している事実はあまりに皮肉と言わざるを得ない。
我々はいつまで、若きエースに「泥棒除けのパトロール」を強いるつもりなのか
学生にこれほど悲痛な声を上げさせる社会は、到底健全とは言えない。今回の騒動を受け、我々消費者に問われているのは、その3万円を払う前に一度立ち止まる「矜持」である。安易な購入が結果として推している選手の活動を制限し、彼らの心を傷つけるというパラドックスを、我々は重く受け止めるべきだ。大学側が法的措置を含む組織的な防衛に乗り出すことは急務だが、同時に、偽造品を見抜くファンの眼力と「買わない勇気」こそが、こうした下世話な欲望の連鎖を断ち切る最後の砦となるのである。



