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1445億円破綻・なぜドローン節税は国税に否認されたのか? ドローンネット事件の「即時償却」の罠

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ドローンネット

2026年の年明け早々、経済界は依然として昨年末に起きた巨額倒産の余波に揺れている。2025年12月18日、東京地裁より破産開始決定を受けた株式会社ドローンネットの負債総額は1,445億円に達し、2025年における最大規模の倒産となった。

かつて中小企業経営者の間で「魔法の杖」と崇められた同社の節税スキームは、なぜ国税当局の逆鱗に触れ、脆くも崩れ去ったのか。

 

中小企業を熱狂させた「10万円未満」の魔法とは何だったのか

この巨額倒産劇の伏線は、ドローンネットが設立された2017年頃から張られていた。同社が急成長した背景には、日本の税制における「少額減価償却資産」の特例措置が深く関わっている。これは、取得価額が10万円未満の資産であれば、購入した年度に全額を経費として一括計上できるという制度だ。

通常、高額な設備は数年かけて減価償却を行うが、利益が出すぎて法人税対策に頭を悩ませる中小企業にとって、期末に購入するだけで即座に利益を圧縮できる商材は極めて魅力的だった。

ドローンネットはこの仕組みを巧みに利用し、ドローン本体や周辺機器をあえて10万円未満の価格設定で小口化して販売した。さらに、単に機体を売るだけでなく、購入した機体を同社が借り上げてスクール運営や測量などに運用し、投資家に賃料を配当するというビジネスモデルを構築。「社会貢献もしながら節税と利回りが取れる」という触れ込みで、2020年2月期には約22億円だった売上を、2023年には313億円へと爆発的に伸ばしたのである。

 

税制改正のいたちごっこが生んだ「マイニング投資」への暴走

しかし、過熱するドローン節税に対し、国は2022年の税制改正やドローン登録制度の厳格化によって規制を強化した。この逆風の中でドローンネットが次なる一手として打ち出したのが、暗号資産(仮想通貨)のマイニング装置販売への転換である。ここでも同社はブロックチェーンの演算用コンピューターを「9万9,000円」という、即時償却が可能なギリギリの価格で販売する手法を継続した。

折しもの暗号資産ブームも重なり、稼働すればコインが増え、1年以内なら中古市場で高値で売却できるという謳い文句は多くの経営者を惹きつけた。その結果、2025年2月期の売上高は977億円へと異常な急成長を遂げることとなる。だが実態は、ドローン会社としての実業から乖離し、巨額の投資マネーを飲み込む金融商品販売会社へと変貌を遂げていたと言えるだろう。

栄華を極めたかに見えた同社だが、2025年6月の税務調査によって事態は暗転する。東京国税局から約30億円の所得隠しを指摘されたことを発端に、スキームそのものの適法性に疑義が生じたのだ。

 

被害経営者の独白「節税のつもりが借金の山に」

「今思えば、欲をかいた自分が愚かでした」と力なく語るのは、関東地方で建設業を営む50代の男性社長だ。彼は2024年の決算期末、知人の紹介でドローンネットのマイニングマシンを約2,000万円分購入した。

男性は当時の心境をこう振り返る。「営業担当者からは『国策であるデジタル投資だから間違いなく経費になる』『1年後には弊社が買い戻すので実質的な持ち出しはない』と説明されました。本業の利益が大きく出た年だったので、税金を払うくらいならと飛びついてしまったのです。しかし、配当は途中で止まり、買い戻しの約束も反故にされました。そして今回の破産です。手元に残ったのは、稼働しているかどうかも分からないマシンの購入契約書だけ。節税という言葉にコロッと騙されてしまった。」

男性のように、金融機関から融資を受けてまで投資した経営者は少なくない。彼らは今、節税効果を否認され追徴課税の恐怖に怯えながら、巨額の負債と向き合う日々を送っている。

 

専門家が指摘する「否認」の決定的理由とは

なぜ、このスキームは国税当局によって「否認」されたのか。企業税務に詳しい都内税理士法人の代表税理士は、今回のケースについて「実質所得者課税の原則」と「事業実態の欠如」が最大の争点だったと分析する。

同税理士によれば、形式上は売買契約が成立していても、税務調査ではその実質が厳しく問われるという。今回のケースでは、投資家である中小企業が購入したとされるマイニング機器が、果たして個別に識別管理されていたのか、そして投資家自身が事業のリスクを負ってコントロール可能な状態にあったのかが疑問視された可能性が高い。

 

もし、機器の稼働状況や所在が不明確で、すべてがドローンネット任せのブラックボックス状態であったとすれば、それは事業のための資産購入ではなく、単なる「金融商品への出資」とみなされる。その場合、即時償却の適用要件である「事業の用に供した」とは認められず、経費計上が否認されるのは税法の解釈として当然の帰結であると指摘する。

さらに同税理士は、行き過ぎた節税商品には「経済的合理性」が欠けていることが多いとも語る。税金を減らすことだけが主目的となり、本来の投資としての収益性やリスク管理が疎かになれば、それは租税回避行為として当局のターゲットになり得るのだ。

資金循環の断絶が招いた「必然の倒産」へのプロセス

 

国税当局による否認は、単なる追徴課税の問題にとどまらず、ドローンネットの息の根を止める決定打となった。同社のビジネスモデルは、新規の機体販売によるキャッシュインで、過去の投資家への配当や機体の買取資金を賄うという、自転車操業的な側面が強かったとみられている。2025年6月の税務調査で所得隠しやスキームの問題点が指摘された瞬間、「節税になる」と信じて購入した顧客が一斉に離反し、新規の販売は凍結状態となった。

新たな資金が入らなければ、膨れ上がった過去の債務を返済することはできない。秋以降、投資家への支払いが滞り始め、ネット上では決済トラブルの情報が錯綜し信用は地に落ちた。そうした中で同年12月、事実上の経営者が死去したことが最後の一押しとなったが、専門家たちの見立てでは、国税がメスを入れた時点で破綻は不可避のシナリオだったと言える。

1445億円という巨額の負債は、制度の抜け穴を過信した代償の大きさを示している。2026年を迎えた今、破産管財人による調査が進められているが、過去の資金調達の手法や、販売されたはずのマイニングマシンが実在し稼働していたのかを含め、解明すべき点は多い。

節税という甘い言葉に誘われて資金を投じた多くの企業にとって、失われた資産が戻る可能性は極めて低い厳しい現実が待っている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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