
優歓声が止まぬうちに、現実は容赦なく押し寄せた。漫才日本一決定戦「M-1グランプリ2025」で頂点に立った「たくろう」に、優勝決定からわずか3時間弱で約100件の仕事オファーが殺到。
眠る間もなく始まった“王者の日常”は、7年の停滞を一気に巻き戻すように、年末年始の時間を埋め尽くしていく。
勝利の余韻もなく鳴り止まない電話
21日夜、東京・テレビ朝日本社。漫才日本一が決まった瞬間、会場にどよめきが走った。その中心にいたのが、21代目王者に輝いたお笑いコンビ「たくろう」だ。
歓喜の拍手が収まる間もなく、2人のスマートフォンは振動を繰り返し始めた。大会終了からわずか3時間弱。すでに仕事のオファーは約100件に達していたという。
初決勝で頂点、7年分の時間が一気に動き出す
史上最多となる1万1521組がエントリーした「M-1グランプリ2025」。たくろうは初の決勝進出ながら、ファーストステージから安定感のある漫才で会場の空気を掌握し、最終決戦でも圧倒的な支持を集めた。
結成9年。準決勝止まり、準々決勝敗退。
結果が出ない時期を重ねてきたが、その“止まっていた7年”が、この一夜で一気に報われた形だ。
勝因はどこにあったのか 「構えず笑える」強さ
「たくろう」が頂点に立った理由は、派手な技巧ではなく、観る側の呼吸に寄り添う漫才にあった。
設定が提示された瞬間に情景が浮かび、言葉を追う負担がない。赤木裕の独特な“間”と、きむらバンドの受け身が生む余白が、笑いを自然に連鎖させていく。
畳みかけるのではなく、違和感を丁寧に積み重ねる構成。大きな一撃ではなく、波のように続く笑いが、観客と審査員の支持を集めた。頑張って理解しなくていい漫才。
その完成度の高さこそが、史上最多エントリーの頂点に立った最大の勝因だった。
王者の朝は早い 情報番組行脚と凱旋ライブ
優勝翌朝、2人を待っていたのは休息ではなく、各局の朝の情報番組だった。生放送をはしごしながら、前夜のネタを再び披露し、言葉を交わす。
さらにこの日は大阪での凱旋ライブも控える。年末年始にかけては劇場出演、特番収録、イベント登壇が続く見通しで、スケジュールはすでに空白がほとんどない。
東京進出は分岐点 「今行くべきか」の現実
M-1王者となった関西芸人に必ず浮上するのが、東京進出という選択肢だ。赤木裕は「今行かなきゃいつ行くんだ、という気持ちもある」と語りつつ、現時点では「50:50」と慎重な姿勢を崩していない。
きむらバンドも「これからは大人と相談することが増える」と話し、急激に変わる環境を見据える。仕事量が一気に膨らむ今後数カ月は、2人にとってまさに正念場となりそうだ。
“構えず笑える”漫才が呼んだ支持と期待
派手な言葉遊びや高速の応酬ではなく、間と空気感で笑いを積み上げるたくろうの漫才は、「気負わず見られる」「何度も見返したくなる」と視聴者の共感を集めた。
無名から一夜で全国区へ。オファー殺到はゴールではなく、むしろスタート地点だ。
睡眠時間を削る日々の先で、たくろうがどんな笑いを更新していくのか。2026年は、その真価が問われる一年になる。



