
東京・港区赤坂の高級個室サウナ店で今月15日、利用していた30代の夫婦2人が死亡する火災が発生した。捜査関係者への取材では、サウナ室内の非常ボタンは押された形跡があったものの、受信盤の電源が約2年前から入っておらず、外部に異常が伝わらなかったことが分かっている。扉のドアノブが外れていた可能性も指摘されており、警視庁は業務上過失致死の疑いも視野に、当時の管理体制や設備状況を詳しく調べている。
ドアを叩き、必死に外へ 残された痕跡
火災が発生したのは15日正午すぎ。3階の個室サウナで、利用中だった夫婦が倒れているのが見つかり、死亡が確認された。
2人は折り重なるような状態で、夫が妻を覆うような姿勢だったという。
扉の内側には、強く叩いたとみられる痕跡が残り、夫の両手には皮下出血があった。
脱出を試み、外へ助けを求めていたことは明らかだった。
非常ボタンは「押されていた」それでも鳴らなかった
室内には非常ボタンが設置されていた。しかし、外部に異常を知らせるはずのその装置は機能しなかった。
運営側は警察の聞き取りに対し、非常ボタンの受信盤の電源を約2年前から入れていなかったと説明している。
非常時を想定した装置が、非常時に使えない状態で放置されていた。
この一点だけでも、管理体制の根幹が問われる。
木製ドアノブという“想定外”の構造
さらに問題視されているのが、サウナ室の扉に使われていた木製のL字型ドアノブだ。
高温と湿度を繰り返すサウナ環境では、木材は膨張と収縮を重ね、劣化が早い。専門家は「通常、サウナでは使用しない構造」と指摘する。
実際、この店舗では過去2年間に、別の個室で同様のドアノブ不具合が見つかり、修理されていた。それにもかかわらず、同種の構造は使い続けられていた可能性がある。
従業員はいた、それでも異変は届かなかった
出火当時、店内には複数の従業員がいた。しかし、非常ボタンの受信盤が設置された事務所には人がおらず、異常を即座に察知できる体制ではなかった。
「人がいたかどうか」ではなく、
異変が起きた瞬間に必ず誰かへ届く仕組みがあったか。
事故は、その仕組みが成立していなかった現実を突きつけた。
“監修”表記を巡る説明と運営側の責任
この店舗はオープン当初からPRに力を入れ、公式サイトなどで著名タレントを「監修」として紹介していた。
事故後、運営会社は公式サイトを更新し、「監修」との表記について説明を行った。
それによると、「監修」とは、オープン当初から一定期間にわたりPRの支援を受けていたことを指すものであり、店舗の運営管理には一切関与していなかったと明記した。
今回の火災事故は、あくまで運営会社の管理下で発生したもので、タレント本人や所属事務所とは無関係だと強調している。
同時に、事実と異なる憶測や直接的な問い合わせを控えるよう呼びかけた。
「高級」という言葉の裏で軽視されたもの
このサウナは、月額数十万円に及ぶ会員プランを掲げ、「選ばれた人のための空間」を演出してきた。
だが、その裏側で、安全確認は日常業務として徹底されていなかった可能性がある。
非常ボタンの電源が切られ、扉の構造リスクが見過ごされ、異常を即座に察知できる体制も整っていなかった。
「何も起きていなかったから大丈夫」という判断の積み重ねが、取り返しのつかない結果を招いた可能性は否定できない。
なぜ助からなかったのか
死因は特定されていない。
しかし、
・ドアノブが外れなければ
・非常ボタンが機能していれば
・異常を察知する人が配置されていれば
結果は違っていた可能性が高い。
安らぎを求めて訪れた場所で、出口のない空間に閉じ込められた夫婦。
警視庁は業務上過失致死の疑いも視野に、事故の経緯と責任の所在を慎重に調べている。



