10代女性の逃走で一気に動き出した捜査

事件の発覚は11月24日。10代の女性が大阪府内の警察署を訪れ、「男から監禁されて逃げてきた」と助けを求めた。女性の証言を受け、大阪府警が捜査に着手し、翌25日には東京都の新宿警察署へ情報が引き継がれた。

女性が監禁されていたとみられるのは、新宿区内のマンションの一室。26日、捜査員が現場に向かった際、部屋にいた職業不詳の小野洋平容疑者（39）は、ベランダから飛び降りて逃走を図った。腰椎を骨折しながらも逃げようとしたが、階下で確保され、同日夕方に監禁容疑で逮捕された。

この逃走劇は、事件の異様さを象徴している。発覚を恐れ、身体を犠牲にしてまで逃げようとした背景には、表に出れば重大な罪が次々と露呈するという自覚があったとみられる。

押収物が物語った盗撮の常習性と異常な規模

逮捕後に行われた家宅捜索で、捜査員は異常な光景を目にする。押収されたのはスマートフォン37台、タブレット端末1台、ノートパソコン3台、ハードディスク3台。さらに手錠、スタンガン、首輪、縄などの拘束具も見つかった。

捜査関係者は「この数のデジタル機器は、個人使用の範囲を明らかに超えている」とし、余罪があるとみて解析を進めた。その結果、100人以上の女性が写ったわいせつ動画ファイル860点以上が確認された。いずれも被写体の承諾がない盗撮とみられ、一部がインターネット上で販売されていた。

これを受け、小野容疑者は12月16日、性的姿態撮影処罰法違反容疑で再逮捕された。監禁と盗撮という二つの重大犯罪が、同一人物によって長期間にわたり繰り返されていた疑いが濃厚となった。

首輪と脅迫が奪った被害女性の自由

被害女性の監禁状態は、極めて異様だった。2人はXで知り合い、10代女性は風俗店で働きながらパパ活相手を探しており、知り合った当初、小野容疑者は穏やかで優しい態度を見せていた。しかし関係が深まるにつれ、言動は一変する。

「風俗で働いていることを親にばらす」「住所も家族のことも知っている」。そうした脅しを重ね、逃げ道を断ったうえで監禁生活を強いた。女性は首に犬用の首輪を付けられ、小野容疑者や同居する女らから「イヌ」と呼ばれていた。人格を否定し、支配関係を刷り込む行為だった。

妻と内縁の妻を巻き込んだ歪な“家族経営”

小野容疑者は、妻の小野晴香容疑者（28）、内縁関係にあり養子縁組もしている小野凜容疑者（23）と同居していた。小野容疑者は自らを「頂きおじさん」と称し、晴香容疑者を「ペンギン」、凜容疑者を「ウサギ」と呼んでいたという。

捜査では、2人が盗撮行為に関与していた疑いも浮上している。新宿区内のホテルで天井に隠しカメラを設置し、行為後に回収する様子が防犯カメラに映っていたとされる。小野容疑者は「動画を販売サイトに投稿し金を稼ぐためだった。2年以上続け、月に200万円ほど稼いでいた」と供述している。

一方で、被害女性の証言では、晴香容疑者と凜容疑者もまた小野容疑者に強く支配され、洗脳状態にあった可能性が指摘されている。

投稿型動画販売サイトと洗脳の連鎖

問題の動画が販売されていたのは、いわゆる同人AVと呼ばれる投稿型動画販売サイトとみられる。アダルト業界に詳しいライターは「本来はAV新法など日本の法律に沿った審査体制があるが、本物の盗撮動画が通ったとすれば審査の甘さが露呈した」と指摘する。

さらに、被害女性の証言では、晴香容疑者と凜容疑者が盗撮後に部屋へ乱入し、「うちの旦那に何をしているんだ」と脅して慰謝料名目で100万円以上を支払わせたケースもあったという。2人については黙秘を続けているが、当初は被害者の立場から小野容疑者に支配され、洗脳されていった可能性も指摘されている。

監禁、盗撮、動画販売、洗脳。事件は一家庭の異常性にとどまらず、SNSを介した出会い、投稿型プラットフォームの管理、被害者が声を上げにくい構造など、複数の社会的課題を突きつけている。