
BreakingDown18の前日計量で起きた不意打ち行為が、選手の命を脅かす事態に発展した。北海道喧嘩自慢・竜にくも膜下出血が発覚するまでの経緯と、運営責任、イベント構造の問題点を検証する。
前日計量で起きた失神と試合中止の判断
事件が起きたのは12月13日、BreakingDown18の前日計量だった。フェイス・トゥ・フェイスの最中、【轟打のシンフォニー/千葉喧嘩自慢】江口響が突如、対戦相手である【北のデンジャラスドラゴン/北海道喧嘩自慢】竜の顔面にビンタを放った。完全な不意打ちだった。
竜はその場で意識を失い、後方へ倒れ込む形で後頭部を床に強打。減量を終えた直後という不安定な状態も重なり、現場は一気に緊迫した空気に包まれた。医療スタッフが対応にあたり、翌14日に予定されていた試合は中止が決定された。
BreakingDownを主催する朝倉未来CEOは、この行為を「行き過ぎた行為」と判断し、江口に対して二大会出場停止処分を下した。しかし、この時点では事態の深刻さはまだ十分に認識されていなかった。
北のデンジャラスドラゴン竜とは何者か
竜は北海道喧嘩自慢の代表格として知られ、荒々しいファイトスタイルと強い言葉で注目を集めてきたファイターだ。一方で、試合外では冷静な発信を行うことも多く、格闘技に対する自覚的な姿勢を見せてきた存在でもある。
大会当日の14日、竜はケージに上がり、自身の言葉で観客に状況を説明した。体調不良や減量の影響があったことを認め、「油断していた自分にも責任がある」と語りつつ、「不意打ちは男として一番ダセェ」「やるならリングの上だろ」と、江口の行為を厳しく批判した。
因縁を強調する発言ではあったが、その裏には、自身が置かれた状況と格闘技の在り方への問題意識がにじんでいた。
減量後の張り手が招く重大な医学的リスク
大会後、竜はSNSで極めて具体的な提言を行った。減量後の選手は脱水状態、低血圧、低血糖に陥りやすく、反射やバランス能力も著しく低下している。格闘技関係者であれば、常識として共有されている状態だ。
その状態での張り手行為は、顔面だけでなく頸動脈や迷走神経、顎関節を同時に刺激し、瞬間的な失神を引き起こす可能性がある。失神自体よりも危険なのは、意識を失ったまま転倒することによる二次被害だ。後頭部や脳幹、小脳付近を硬い床に強打すれば、命に直結する外傷につながりかねない。
竜は「誰かを責めたいわけではない」とした上で、計量後はいかなる身体的接触も重大事故になり得ることを強調し、興行の安全性は選手の自制と運営の明確な線引きによって守られるべきだと訴えた。
症状悪化とくも膜下出血発覚の衝撃
しかし、この冷静な提言から約12時間後、状況は急変する。
竜は「症状が悪化し、緊急で運ばれている」と病院で点滴を受けている様子を投稿。さらにその約1時間後、「くも膜下出血で脳内に出血が発見された。状態は良くない」と明かした。
この報告は、単なる前日計量トラブルの域を超え、生命に関わる重大事故であることを世間に突き付けた。意識のない中で救命対応にあたった関谷選手、山本選手、西島選手への感謝の言葉からも、事態の切迫感が伝わる。
問われる運営責任とBreakingDownの構造
千葉喧嘩自慢を束ねる【関東最大級ギャングの元ボス】田中雄士は、江口の行為について謝罪し、厳しく叱責したと説明した。しかし、問題の本質は個人の資質だけではない。
BreakingDownは、格闘技と過激な演出を融合させることで人気を拡大してきた。その反面、会見や計量といった試合外の場面での安全管理は曖昧なままだ。暴力的演出が黙認されやすい空気が、今回の事故を招いたとの指摘は免れない。
「格闘技ではなく、暴力を売り物にしているだけだ」との批判が出るのも、無理からぬ状況だろう。くも膜下出血という重大な結果を前に、運営は再発防止策を具体的に示す責任がある。
竜の無事な回復を祈ると同時に、格闘技の名を掲げる以上、越えてはならない一線をどこに引くのか。BreakingDownは今、その姿勢そのものを問われている。



