
11月14日にオープンした『ドラゴンボール』公式ストア「DRAGON BALL STORE TOKYO」で、掲出ビジュアルのクオリティをめぐる批判が止まらない。
SNSでは「公式がこのレベルなのか」と戸惑う声が相次ぎ、議論は原作者・鳥山明氏の元担当編集者である鳥嶋和彦(マシリト)氏の生配信発言によってさらに加速した。作品ブランドの根幹に関わる問題として、波紋は広がり続けている。
違和感の発端は“公式ストアの顔”だった
東京駅八重洲北口から徒歩1分。世界中からファンが集まる交通の要衝に、ドラゴンボールの世界を発信する大型ストアが誕生した。限定アイテム、展示、フォトスポット…オープン前から期待値は高く、SNSでは「ついに世界拠点ができた」と盛り上がりを見せていた。
ところが、ストアの宣伝として駅構内に掲示された孫悟空の新規描き下ろしイラスト4点が、空気を一変させる。特に、超サイヤ人悟空と超サイヤ人ブルー悟空のかめはめ波を構えるビジュアルが「不自然」「公式とは思えない」と批判の的となった。
背景とキャラの色味が同化し、迫力が失われていること。構えの姿勢が物理的に破綻していること。技のエネルギー描写に説得力がないこと。
指摘は専門的なものから感覚的なものまで多岐にわたり、ファンコミュニティでは「チェック工程が機能していないのでは」との不安も広がった。
公式が掲げる“顔”であるだけに、その落差がより強く受け取られた格好だ。
鳥嶋和彦氏が語った“構図の欠落”と原作の流儀
物議の火種は、11月30日配信の「ゆう坊とマシリトのKosoKoso放送局」で一段と熱を帯びた。鳥山明氏の元担当編集者として、作品の立ち上げから黄金期を支えた鳥嶋和彦氏が、視聴者の質問を受けてビジュアル問題に言及したためだ。
鳥嶋氏がまず指摘したのは、色彩設計の基本に関わる部分だった。
「背景とキャラクターが同じ系統の色で処理されていて、キャラが立っていない。原作の表紙は白背景を多用し、悟空の輪郭が浮き立つように構成されていた。今回のビジュアルはそこが踏まえられていない」
次に言及したのはアクションポーズの破綻。「この姿勢ではかめはめ波を打てない」と断じ、体の重心移動、腕の角度、視線の配置など、本来ならプロの作画監修が細かくチェックすべき要素が欠けていると説明した。
語り口は淡々としていたが、内容は作品の“根本”を突く本質的な指摘だった。
複雑化した版権体制が生む“監修の穴”
議論はさらに、作品を取り巻く企業構造へと踏み込む。鳥嶋氏は、ドラゴンボールが抱える版権ラインが複雑であることが、今回の問題の背景として存在する可能性を示唆した。
ドラゴンボールには、大きく以下の権利が関わっている。
– 原作版権=集英社
– アニメ版権=東映アニメーション
– ゲームや関連商品の監修=カプセルコーポレーション・トーキョー
– 店舗の商品企画・制作=複数の委託会社
複数企業が関与するため、チェックラインも多段構造になりがちだ。結果、誰が最終的な品質を保証するのかが曖昧なまま進行するケースもありうる。
鳥嶋氏はその点に触れながら、「ジャンプショップのグッズとは明確な質の差が出ている」と述べ、監修体制そのものに課題があるのではないか、と語っている。ファンの間でも、複数企業の関係性が品質低下につながっているのではという推測は増えつつある。
公式ストアとしての体験価値の欠如
物議はイラストだけに留まらない。新店舗を訪れたファンの間では、内装や動線、商品の選定についての不満も散見される。
「展示が少なくて世界観に没入できない」
「商品構成が狭い」「限定グッズの魅力が弱い」
「レイアウトが単調で、テーマ性を感じない」
店舗は“作品の顔”としての役割を担うだけに、体験価値そのものに対する期待は高い。にもかかわらず、現状は「世界拠点」としての厚みが乏しいとの声が相次いでいる。
鳥嶋氏も生配信で「見て楽しく、買ってまた来たいと思わせる設計が必要だが、それが現時点では達成されていない」と述べ、ブランドショップとしての完成度に疑問を呈した。
ファンの熱量が強いコンテンツほど、体験設計の甘さは深刻なマイナスとして響く。ドラゴンボールはまさにその典型だ。
“ファンに甘えた詐欺に近い”という重い言葉の意味
鳥嶋氏が語った中でも、最もインパクトを持って受け止められたのが「ファンに甘えた詐欺に近い」という一言だろう。
この発言は単なる怒りではない。漫画編集という立場から、長年ブランドを守り、支えてきた経験に裏打ちされた“警告”に等しい。
鳥嶋氏はこうも語った。
「商品をつくるなら原作を何度も見直し、細部まで確認するのは当然。世界観を満たしていない商品なら、買わないでほしい」これは、品質を担保できていない公式商品に対し、ファンが“NO”を突き付ける必要さえあるという強いメッセージだ。
同時に「改善すべき点をファンが言語化できるようにしてほしい」とも述べ、企業側に求められる透明性と誠実さの重要性を訴えた。ブランドの価値は、ファンと制作側の信頼関係で成り立つ。今回の発言は、まさにその危機を示すものと言える。
揺れるDRAGON BALLブランド 信頼回復には何が必要なのか
生配信以降、SNSでは鳥嶋氏の言葉を引用しながら、ビジュアル問題を中心とした品質議論が一層可視化した。今回の件を「氷山の一角」と見るファンもおり、ブランド全体の監修体制を問い直す声も出ている。
公式ストアは、ブランドの“最前線”であると同時に、ファンにとっての“聖地”でもある。その場で品質の甘さが露呈すれば、ブランドに対する信頼は一気に揺らぐ。
今後、企業側がどのような改善策を示すのか。監修体制の強化、ビジュアルの再掲出、商品ラインナップの見直し…。いずれにせよ、ファンの視線は厳しさを増すばかりだ。
ドラゴンボールという巨大コンテンツだからこそ、原作への敬意と品質への執念が欠かせない。その原点に立ち返れるかどうかが、今回の騒動の焦点と言える。



