
NHK朝ドラ『あんぱん』のヒロインを務め、CM起用数でも上位に入り、紅白歌合戦の司会に抜てきされるなど、今年の今田美桜は圧倒的な存在感を示してきた。
その一方で、所属事務所コンテンツ・スリーが、大手芸能プロダクションであるケイダッシュ系の田辺音楽出版から、CM出演料に関する未払い約3億円の支払いを求めて提訴されていたことが報じられた。
華やかな活躍の裏側で起きていた契約トラブルについて、報道で明らかになっている事実関係をもとに整理する。
「3億円請求」の発端 提訴で表面化した契約紛争
今回のトラブルが表面化したのは、2025年6月に田辺音楽出版がコンテンツ・スリーを提訴したとの報道がきっかけだった。内容は、今田美桜のCM出演料に関連する約3億円の対価が支払われていないというものだ。請求額の大きさからも分かるように、対象となっているのはここ数年で増加したCM出演の複数契約とみられている。なお、訴訟の当事者はあくまで両事務所であり、今田本人が訴訟の当事者となっているわけではない。
田辺音楽出版は、ケイダッシュグループに属し、音楽著作物の管理や芸能マネジメントを手がけてきた老舗事務所である。対するコンテンツ・スリーは、もともと映像制作会社として2007年に設立され、2016年に当時19歳だった今田が福岡から上京して所属したことで芸能マネジメント事業を本格化させていった。規模や影響力の差は大きく、訴訟そのものが業界関係者の注目を集める一因ともなった。
2017年の提携契約 「CMギャラ3割」取り決めの経緯
報道によると、両社の関係が始まったのは2017年で、ここで今田美桜の売り出しをめぐり重要な契約が結ばれた。コンテンツ・スリーは当時、テレビ局や広告代理店との太いパイプを持たず、タレントを全国区に押し上げるための営業力が不足していたとされる。そこで頼ったのが、田辺音楽出版の役員であり、業界内で強いキャスティング力と人脈を持つS氏だった。
両社は協議のうえ、今田のCM出演料の三割を田辺音楽出版に支払うという業務提携契約を結んだと報じられている。テレビ番組や映画出演のギャラには田辺側が関与せず、あくまでCMに限定した“成功報酬型”に近い契約だった。この取り決めは2018年には契約書として文書化されており、両社ともその内容に基づいて一定期間協力関係を築いてきたという。
この契約が奏功し、S氏の働きかけによって今田は民放の主要ドラマへの出演を次々と獲得した。『民衆の敵』『花のち晴れ』『ドクターX』『半沢直樹』など話題作への出演が続き、知名度が広がったことで、CMオファーも増加していったと複数のメディアが伝えている。
支払い遅延と「直接契約」への変更 関係悪化の始まり
事態が動き始めたのは2021年以降である。それまでCM契約は、広告代理店が田辺音楽出版を経由してコンテンツ・スリーへ支払う仕組みだったが、コンテンツ・スリー側の意向により代理店と直接契約を結ぶ形へ変更された。これにより、田辺側はCM契約の詳細や金額を把握できなくなったとされる。
さらに決定的だったのが、支払い遅延の発生時期である。デイリー新潮の報道では、2023年2月頃、今田が朝ドラ『あんぱん』のヒロインに決定した時期から、田辺側への三割の支払いが目立って滞り始めたと関係者が証言している。ブレイクが決定的となった時期と遅延の発生が重なったことは、田辺側に強い不信感を抱かせた。
そこに追い打ちをかけたのが、2023年8月にコンテンツ・スリーから届けられた「契約終了通告」だった。事前協議がないまま一方的に「年内で提携を終了する」と通知されたことで、田辺音楽出版は未払い分の精算や契約内容の確認を求めたが、CM契約の開示が得られなかったと報じられている。こうした経緯が、最終的に提訴という手段を取らせる大きな理由となった。
“大手 vs 新興”の構図と芸能界の変化
今回の訴訟は単なる金銭トラブルにとどまらず、芸能界の構造変化を象徴するものとして受け止められている。ケイダッシュグループは長年、芸能界で強い影響力を持ち、ときに業界秩序を支えてきた存在でもある。対して、コンテンツ・スリーは規模の小さな新興事務所であり、こうした大手と正面から争う構図は、旧来の力関係が変わりつつあることを印象づける。
さらに近年は、公正取引委員会が芸能界の独占・圧力問題に注視していることや、大手事務所でも所属タレントの独立が相次いでいることから、透明性の高いマネジメントや契約関係を求める声が強まっている。そうした時期に起きた今回の訴訟は、事務所間の力の優劣が変わりつつある現状を象徴する事例として報じられている。
今田美桜本人への影響は?
今田本人は契約の当事者ではなく、問題はあくまで所属事務所と田辺音楽出版の間の対立である。
それでも、CM出演料が争点となっている以上、広告主やテレビ局の判断に影響が及ぶ可能性を懸念する声が少なくない。特にCMは企業イメージに直結するため、事務所が訴訟を抱えている状況に慎重になるケースもある。
一方で、公正取引委員会の監視が強まる現在、特定タレントへの不利益な扱いが露骨に行われる可能性は低いとの見方もある。過去には事務所トラブルで露出が減った例もあるが、今回は当事者が事務所であり、今田自身の不祥事ではないという点で状況は異なると指摘されている。
コンテンツ・スリーは取材に対し、今田の仕事はオーディションや制作側の判断によって獲得したものであり、報道の中には事実と異なる点があるとして遺憾の意を示した。一方の田辺音楽出版は「係争中のため回答できない」とし、詳細の公表を控えている。



