米司法省に訴追された国際詐欺組織トップが東京に居住

米司法省に国際詐欺と資金洗浄で訴追され、米財務省から制裁指定を受けているカンボジアの大手コングロマリット「プリンス・ホールディング・グループ」。その会長チェン・ジー氏が、東京都港区北青山の高級マンションを居住地として確保していたことが17日、共同通信の報道(共同通信によると)で明らかになった。チェン氏が2022年に設立した日本法人の登記簿から判明した。
米財務省はチェン氏を「アジア最大級の犯罪組織の首謀者」と位置づけ、同氏が保有するビットコイン約120億ドル(約1兆8000億円)について没収手続きに入った。暗号資産を介した犯罪資金が世界各地へ拡散している可能性があり、日本国内もその流れの“終着点”となりつつある。
不動産、銀行、航空 表の顔と裏の顔が乖離するプリンスの実像
プリンス・ホールディング・グループは、不動産、プリンス銀行、カンボジア・エアウェイズなど多角的な事業を展開し、2010年代前半は一帯一路政策を追い風に急成長を遂げた。しかし、2010年代後半に入るとオンラインカジノを通じた資金洗浄や、国際的な投資詐欺、複数の詐欺センター運営といった疑惑が噴出し、裏の顔が露わになった。
同社はカンボジア国内で少なくとも10ヶ所以上の詐欺拠点を運営していたとされ、米国当局は2015年10月に制裁対象として指定している。
表向きは経済発展を象徴する新興コングロマリットでありながら、裏では国際詐欺組織の中核を担う。この二重性こそ、同社をめぐる警戒が強まる所以だ。
東京・北青山への移転は“合法的滞在”の布石か
共同通信の報道によれば、チェン氏が設立した日本法人は当初、プノンペンのプリンス本社ビル隣接地を本店所在地としていた。しかし2024年にはその所在地を港区北青山の高級マンションへ移転している。
専門家は、この移転が日本で長期滞在資格を得るための布石だった可能性を指摘する。国際制裁対象の人物が、日本の子会社を足掛かりに都心の一等地へ生活拠点を移す構図は、日本の制度の脆弱性が海外犯罪組織の“抜け道”になっている現実を浮かび上がらせる。
専門家の警告「日本が犯罪組織の隠れ蓑となる危険」
詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明氏は、国際詐欺が巨大化する中で、被害者だけでなく加担させられる側も増えているとSNSで指摘し、「日本企業が通常の取引を通じて犯罪収益を受け取っていた可能性があれば由々しき問題だ」と語る。
防犯アドバイザーの京師美佳氏は、プリンス・グループの詐欺拠点に日本人の闇バイトが軟禁されていた事例を挙げ、「国際的に制裁対象となる組織のトップが日本に住居を構えることは、日本が隠れ蓑として利用されている疑いを強める」と警鐘を鳴らす。
特に米国が没収を申請した120億ドルのビットコインという巨額は、プリンスが単なる“企業”ではなく、巨大な国際犯罪ネットワークとして動いていることを象徴する。
市民の不安がSNSで噴出
SNSでは、「なぜ都心の高級マンションを買えるのか」「警察は動いているのか」といった疑念が噴き出している。
詐欺電話、迷惑メールといった“日常的被害”の背景に、こうした海外犯罪組織の存在があるのではないかとの不安も拡大している。
“宗教法人買収”の実態 不動産から宗教法人へ広がる静かな日本侵食
今回のチェン・ジー会長の日本居住が示すのは、不動産取得にとどまらず、日本の制度の“穴”に海外資本が入り込みつつある構造的な動きだ。その象徴となっているのが、宗教法人の買収である。
ロイター通信は2024年、日本の神社仏閣が外国人に買われはじめている実態を報じ、「日本の当局は監視を強めている」と伝えた。報道では、群馬県藤岡市の御荷鉾山不動尊が後継者不在で存続の危機にあった際、不動産ブローカーを名乗る2人組が突然現れ、売却を持ちかけたという僧侶の証言が紹介されている。
日本当局の見方として、「購入希望者は宗教的目的ではなく、宗教法人の税制優遇を利用した脱税やマネーロンダリングを狙っている可能性がある」と指摘している。さらに大阪の仲介業者は、「宗派に属さない単立宗教法人は資金さえあれば誰でも買える。外国人も例外ではなく、最近は中国人の購入希望が多い」との証言も。
産経新聞も2023年に、宗教活動とは無関係の“脱法的売買”が横行している実態を連載で明らかにしていた。宗教法人は法人税・固定資産税の優遇が大きい一方、実質的支配者の特定が難しく、資金の流れが不透明になりやすい。こうした特徴が資金洗浄に利用されやすい背景となっている。
不動産から宗教法人、さらに小規模企業へと対象が広がる形で、海外資本が日本国内に法人格を複数確保し、税制優遇や制度の緩さを組み合わせながら“合法的”に入り込む流れができつつある。外形的には日本人名義の法人だが、背後に海外組織が控える“二重構造”が水面下で拡大している。
会社設立のハードルが低く、宗教法人の買収が事実上可能で、実質的支配者の透明性確保も遅れている日本は、国際犯罪組織から見れば「入りやすく、居座りやすく、資金を動かしやすい国」になりつつある。
プリンス会長の日本居住は、その構造の一端にすぎない。海の向こうで巨額の詐欺資金を生む組織が、静かに日本の制度を取り込み始めている。宗教法人の買収という動きは、その最前線に位置する現象だ。



