
映像ジャーナリスト・伊藤詩織さんが、自らの性暴力被害とその後の闘いを記録したドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』。
世界で注目を集めたこの作品が、一部表現を修正した日本公開版として、12月12日(金)からT・ジョイPRINCE品川で上映されることが決まった。沈黙を破るその記録が、ついに日本のスクリーンに映し出される。
日本公開版が完成。修正を加えた新しい上映へ
伊藤詩織監督のドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が、12月12日(金)からT・ジョイPRINCE品川で公開される。
劇場サイトでは上映スケジュールが告知され、ポスタービジュアルも公開された。
ドキュメンタリー『Black Box Diaries』は、伊藤詩織さんが自らカメラを回し、被害直後からの年月を追った作品だ。
今回上映されるのは、当事者からの指摘を受けた箇所などを修正し、配慮を加えた“日本公開版”。配給はスターサンズと東映エージエンシー。
海外映画祭で高く評価され、第97回アカデミー賞では長編ドキュメンタリー部門に日本人として初めてノミネートされた作品でもある。
沈黙を記録する。“黒塗り”の現実の中で
カメラが映し出すのは、黒塗りだらけの裁判資料、行き場を失った言葉、閉ざされたドア。
伊藤さんはその空白をひとつずつ埋めるように、取材と記録を重ねていった。
スクリーンに映るのは、暴かれる真実ではなく、「記録を生きる人」の姿だ。
作品には、見えない圧力や社会の無関心と向き合う痛みがある。
同時に、その痛みの中で光る小さな希望。それが本作の中心に流れている。
謝罪と修正、そして再出発
映画が完成した後、一部の映像や音声について「許諾が取れていない」との指摘が上がった。
これを受けて伊藤さんは10月、自身の公式サイトで謝罪文を公表。
「被害の証拠を探す中で、許可を得ずに撮影した映像を使用してしまった」と説明し、関係者に謝意を示した。
そして、日本公開にあたり、指摘を受けた箇所などを修正した新バージョンを制作。
一方で、関係者との間で修正の具体的な内容に認識の違いがあると報じられており、
作品は今も議論を抱えながら、社会との対話を続けている。
監督コメント「名前を忘れて観てほしい」
伊藤さんは今回の発表にあたり、改めて観客へ向けたメッセージを出している。
「逮捕は直前で止められ、証拠や証言は黒塗りでした。それでも集めた真実のかけらをつないだのが本作です。どうか私の名をいったん忘れ、身近な人の出来事として観てください。観終えたあとに交わされる小さな一言が、沈黙をほどき、次の誰かを守る力になると信じています。」
その言葉には、5年間に及ぶ取材と葛藤、そして「語ること」への確信がにじむ。
語ることは時に痛みを伴うが、それでも沈黙を破ることでしか前へ進めない。
本作は、その記録の重さを観客の手に託す。
観る者への問い「もし、あなたの身に起きたら」
この作品には明確な答えはない。
映像が終わり、照明が灯る瞬間、観客の胸に残るのは静かな問いかけだ。
「もし同じことが、あなたや大切な人に起きたなら、何を信じ、どう動くのか。」
伊藤詩織という一人の女性の物語を超えて、
『Black Box Diaries』は、社会の中に沈む“無数の声”を浮かび上がらせる。
12月12日、その声は再びスクリーンの奥から響き始める。



