
シアトルの夜空に高々と舞い上がった白球が、スタンドの奥深くへ消えていった。敵地にもかかわらず沸き起こった「MVP」コール。9月28日(日本時間29日)、ドジャースの大谷翔平はレギュラーシーズン最終戦で自己最多の55号を放った。3年連続の本塁打王には1本及ばなかったが、投打二刀流で残した成績は、再び「唯一無二」の存在であることを証明している。
シアトルの夜を揺らした一発
七回、カウント2ストライク1ボール。左腕スパイアーの95マイル(約153キロ)の速球を、大谷は迷いなく振り抜いた。打球は角度32度、打球速度176キロ。センター左へのアーチは412フィート(約126メートル)を描き、Tモバイル・パークの観客をどよめかせた。
敵地のファンからも自然発生的に起きた「MVPコール」。ホームとビジターの垣根を越えて愛される存在であることを、改めて示す瞬間だった。
本塁打王争い 1本差の結末
この時点でフィリーズのシュワーバーは56本塁打でシーズンを終えていた。大谷が最終打席で一発を放てば、3年連続の本塁打王という快挙が現実のものとなるはずだった。だが、5打席目は空振り三振。勝負の行方は1本差に泣く結末となった。
過去3シーズンで本塁打王を獲得してきた大谷。2001~03年にアレックス・ロドリゲスが記録して以来となる「3年連続キング」の偉業は惜しくもならなかった。
それでも55本という数字は、歴代でも屈指のパワーを示すもの。2024年の自己記録54本を上回り、ドジャース移籍後初シーズンで球団最多本塁打を更新した。
二刀流完全復活の証
打撃では打率.282、55本塁打、102打点、20盗塁、OPS(出塁率+長打率)1.014。リーグOPS1位という圧倒的な成績を残した。一方で投手としても14試合に先発し、1勝1敗、防御率2.87、62奪三振。右肘の故障から復帰しての数字と考えれば、価値はさらに大きい。
「打者専念」で臨んだ昨季を経て、再び二刀流に挑んだ今シーズン。バッターとしてキャリアハイを更新しつつ、投手としても戦力になった姿は、まさに常識を覆す。
チームとカーショーに捧げた最終戦
この日の試合は、今季限りで引退を表明している左腕クレイトン・カーショーが先発。六回途中まで4安打無失点に抑え、今季11勝目をマークした。通算成績は223勝96敗。チームメートの大谷が豪快な本塁打で援護した姿は、偉大なエースへの最高の花道となった。
試合は6―1でドジャースが快勝し、5連勝でレギュラーシーズンを終えた。すでにナ・リーグ西地区優勝を決めているチームは、勢いそのままにポストシーズンへと向かう。
MVP争いの行方
本塁打王は逃したものの、大谷は打率・OPSでリーグ上位に入り、二刀流で結果を残した唯一の存在だ。最大のライバルは56本塁打・132打点のシュワーバーだが、OPSは大谷が上回る。守備・走塁・投球を含めた総合的な貢献度を考慮すれば、3年連続、通算4度目のMVP受賞は十分に現実味を帯びる。
さらにチームとしても目標はワールドシリーズ連覇。30日(同10月1日)から始まるワイルドカードシリーズでは、本拠地でレッズと対戦する。ここでの活躍次第では「ポストシーズンMVP」も夢ではない。
歴史と比較する大谷の55本
55本塁打は、もし日本プロ野球で換算すれば王貞治の868本や松井秀喜のシーズン50本に並び立つ記録だ。メジャーの広い球場や強力投手陣を相手に放った数字だけに、より価値があるといえる。
仮に大谷がNPBにフル参戦したとすれば… 70本、80本という夢の領域に届くのでは、とファンが想像するのも無理はない。
大谷翔平の挑戦は続く
シーズン最終戦で放った55号本塁打は、大谷翔平のキャリアをさらに塗り替える一撃となった。本塁打王はわずかに逃したが、二刀流完全復活と自己最多更新は大きな意味を持つ。
シアトルの夜空に舞った白球の余韻を残しながら、大谷は次なる舞台ポストシーズン、そしてMVPレースへと挑戦を続ける。