
タイ移住を発表した直後、TKO木下がタイの寺院前で僧侶風の衣装をまとった動画を投稿し、炎上に発展した。宗教や文化を軽んじたと受け止められ、現地の人々や在住日本人からも批判が集中。「知らなかった」と謝罪したが、過去の不祥事の記憶も重なり、信頼回復は容易ではない。今回の炎上はなぜここまで拡大したのか。そして木下に再起の可能性はあるのか。
炎上の現場 寺院前に走った冷たい視線
9月のタイ・バンコク。観光客で賑わう寺院の前を、袈裟姿の男が歩いていた。木下隆行、お笑いコンビTKOの一人である。両手を合わせ、合掌するしぐさを見せながらカメラに向かって笑みを浮かべる。しかし、その場の空気は凍りついていた。タイでは僧侶は神聖な存在であり、一般人が真似をすることは許されない。周囲の視線は驚きと不快感に満ちていた。
この映像が木下のInstagramに投稿されると、すぐさま炎上が始まった。タイ人からも在住日本人からも批判が殺到し、動画は速やかに削除された。木下はXで「知らなかったです、すいません」と謝罪したが、その言葉は火に油を注ぐ結果となった。
僧侶コスプレが「絶対的タブー」とされる理由
タイでは国民の9割近くが仏教徒だ。僧侶は単なる宗教者ではなく、人々の生活に深く根付いた尊敬の対象である。タイ刑法208条には「僧侶や聖職者を装う行為は処罰対象」と明記されており、違反すれば懲役刑や罰金が科される可能性がある。つまり今回の木下の行為は、法的にも宗教的にも「一線を越えた」ものだった。
もし日本で外国人が神社の宮司の装束を勝手に着て騒ぎ立てたらどうだろうか。多くの人が不快に感じるに違いない。文化と宗教に対する敬意が欠ければ、笑いは成立しない。木下はその基本を忘れていた。
「知らなかった」では済まされない移住者の責任
木下は謝罪文で「正直知らなかった」と弁明した。しかし、他国に移住する以上、その国の文化や法規を学ぶのは最低限の義務だ。観光客ならまだしも、移住者であり芸能人である木下にとって「知らなかった」は通用しない。
芸能関係者からも厳しい声が上がる。
「タイに住むと決めたのに、その国の基本ルールを調べていなかったことが大問題です。準備不足の印象は、移住発表当初からありました。そこに今回の騒動が重なり、移住自体が失敗と見なされています」
謝罪も「誠意が感じられない」と批判され、結果として信頼をさらに失った。
過去から続く「ズレた笑い」
木下の問題行動は今回が初めてではない。2019年には後輩芸人にペットボトルを投げつけた騒動が報じられ、「パワハラ芸人」として批判が集中した。さらに女性とのトラブルも取り沙汰され、好感度は急落した。
その後もテレビや配信番組で復帰を試みたが、かつての人気は戻らなかった。テレビ関係者の証言によれば、「ネタを笑いに昇華できず、スタッフからも扱いづらいと思われていた」という。
背景には「世間とズレた笑いの感覚」があると指摘されている。自分を笑いの対象にできないプライドの高さ、セルフプロデュースの拙さ。今回の騒動も、その延長線上にある。
舞台での努力と成果の乖離
一方で、全く努力していなかったわけではない。2023〜24年には「TKOコントライブ47都道府県ツアー」を敢行し、街頭でチケットを手売りするなど泥臭い活動を続けた。観客を前にした舞台でのコントは、かつての評価を思い出させる出来栄えだったという。
しかし、その努力は結果に結びつかなかった。キングオブコントでは予選敗退、木下が挑んだM-1も途中敗退。必死さは伝わっても、成果が出ないことで焦りばかりが募り、再び「話題作り」に頼ってしまったのだろう。
再起のカギは「文化への敬意」と「原点回帰」
今回の炎上は、木下にとって最後通牒となり得る。日本での居場所を失い、海外でも信用を得られない八方塞がりの状況に陥る可能性がある。
では再起のカギは何か。
1つは「文化への敬意」だ。タイで活動を続けるなら、現地の宗教・法律・生活習慣を徹底的に学ぶ必要がある。謝罪の言葉だけではなく、行動で示さなければならない。
もう1つは「原点回帰」である。木下はコント師として確かな実力を持つ。舞台に立ち、観客の笑いを地道に積み重ねるしか道はない。目先の話題作りや海外移住という派手な仕掛けではなく、笑いの原点に戻ること。そこにしか再生の糸口はない。
今、問われるものは
タイ移住は本来、新しい挑戦として歓迎されるべきだった。しかし、結果は移住直後の炎上という最悪のスタートになった。繰り返される問題行動の裏には、文化や他者への敬意を欠いた姿勢がある。
「笑い」は人を楽しませるものであり、同時に他者を尊重することで初めて成立する。木下が本当に再起を望むなら、まずはその当たり前の基本に立ち返る必要がある。
次の一手は?派手な挑戦ではなく、謙虚な学びと原点回帰だ。