
NHKが放送した戦後80年関連番組「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」をめぐり、総力戦研究所の初代所長・飯村穣陸軍中将の孫で元外交官の飯村豊氏が抗議を表明した。ドラマ部分で「祖父が卑劣な軍人として描かれた」とし、BPO(放送倫理・番組向上機構)に申し立てる意向を示した。
異議申し立ての背景
同番組は8月16・17日にNHKスペシャルとして放送。ドラマパートとドキュメンタリーパートで構成され、日米開戦直前に設立された首相直属の「総力戦研究所」での机上演習を描いた。
研究所は「緒戦には勝利しても長期戦には耐えられず敗戦必至」と結論付け、実際の所長・飯村穣中将は自由な議論を奨励していたとされる。
しかしドラマ内では、所長が部下に圧力をかけ結論を覆そうとする「悪役」として描かれ、飯村氏は「歴史を歪め、祖父の人格を毀損している」と強く反発した。
NHKの対応
放送前に遺族から指摘を受けたNHKは、公式サイトの表現を修正。番組冒頭に「フィクションである」とのテロップを流し、ドキュメンタリーパートでは「実際の所長は自由な議論を奨励し人望厚いリーダーだった」と明記した。
ただし、飯村氏は「想像以上に卑劣な人物像に描かれており、NHKの対応は小手先」と批判。「公共放送は史実を正しく伝える責任がある」と訴えた。
BPO申し立てと映画化への懸念
飯村氏は今後、BPOへの申し立てを行う準備を進めている。また、ドラマが映画化される可能性があることを制作陣から聞かされており、「現状のままでは映画化をやめていただきたい」と強調した。
NHKの見解
NHK広報局は「ドラマパートは史実をもとに創作したフィクションであり、所長や関係者はフィクションとして描かれている。ドキュメンタリーパートでは史実や関係者の実像を伝えている」とコメント。制作過程の詳細については回答を控えている。
歴史番組に求められる責任まとめ
今回の問題は「ドラマ性を持たせる演出」と「史実を正しく伝える公共放送の責任」とのバランスが問われている。戦争や歴史を扱う番組の表現方法に、あらためて議論が広がりそうだ。