奈良の象徴「鹿」を守る行動が有権者に響く

2025年7月20日に投開票された奈良市議会議員選挙(定数39)で、無所属新人で元「迷惑系ユーチューバー」として知られるへずまりゅう氏(34)が当選を確実にした。過激な動画投稿によって批判を浴びた過去を持つ同氏の出馬は当初から注目を集めていたが、今回の当選は、市政に対する不満や地域課題への共感が交差した結果ともいえる。
へずまりゅう氏は選挙戦で「外国人観光客から鹿と市民を守る」と強調。奈良公園を中心に広がる“オーバーツーリズム”の問題を取り上げ、特に外国人によるマナー違反や鹿への迷惑行為に対する対応強化を訴えた。
X(旧Twitter)などでは、実際に氏が外国人観光客に対して注意を促し、鹿の安全確保に取り組む姿が動画で拡散されていた。
外国人観光客への不満が票につながったか
今回の選挙戦では、「外国人対策」が一つの争点として浮上した。コロナ禍明けの観光需要回復に伴い、奈良には大量の外国人観光客が押し寄せ、地域住民の生活や文化との摩擦が生じていた。SNS上でも「日本人のストレスが限界に来ていた」「文化の違いによるトラブルが積もり積もっていた」といった声が上がっており、こうした背景が、へずまりゅう氏の主張とリンクしたものと見られる。
また、現職市議らによる過度なバッシングが逆効果となり、「敵の敵は味方」という心理的反応が働いたという指摘もある。結果的に、「話題性」や「知名度」だけでなく、過去の行動に対する反省と、地域への実行力ある貢献が一定の評価を得た形だ。
ネット出身の候補者が示した新しい政治の形
今回のへずまりゅう氏の当選は、単に異色な候補者が話題性で票を獲得したという単純な構図にとどまらない。彼はYouTubeやXといったSNSを駆使し、地元問題を可視化しながら支持を広げた。従来の後援会型の地盤や組織力に頼らずとも、市民との直接的なコミュニケーションを武器に当選を果たした事例として、今後の地方選のモデルケースともなり得る。
政治とインフルエンスの境界が溶けつつある時代にあって、ネット出身の人物が地方政治に参入することへの賛否はあるものの、その影響力が現実の選挙結果に結びついた点は注目に値する。
社会包摂の象徴か、それとも一過性の現象か
誰が、こんな日が来ることを予想できただろうか。かつて「迷惑系ユーチューバー」として物議を醸した人物が、奈良市議として公職に就こうとしている。
へずまりゅう氏は過去の行動を悔い改め、自ら鹿を守る活動を通じて地域社会との関わりを築いてきた。X上でも、観光公害と向き合う姿勢は注目を集め、いわば「体を張った信頼回復」を地道に積み重ねてきたと言える。有権者は、そうした変化を冷静に見極め、評価した可能性が高い。
この当選は、単に話題の人物が票を集めたという表層的な現象ではなく、「人は変わることができる」「過去を乗り越えれば社会が再び受け入れる」という、社会包摂の精神そのものを体現している。だが、議席獲得はゴールではない。むしろ本当の挑戦は、これから始まる。
議員として、地域社会の課題にどう向き合うのか。市民の期待と不安が交錯するなか、彼が今後、社会のために尽くす人物として歩んでいけるのか。その行動を注視していきたい。