鹿児島・トカラ列島で地震515回 住民不安、SNSでは「法則」が再燃

鹿児島県・トカラ列島近海で、地震が断続的に発生し続けている。福岡管区気象台の発表によると、6月28日午前11時までに震度1以上を観測した地震は515回。特に悪石島では21日以降、震度4を伴う揺れが6回観測され、住民89人の間では不安が高まっている。
こうした中、XなどのSNS上では、「トカラ列島で地震が続くと、日本の別の場所で大地震が起きる」という通称「トカラの法則」が再び拡散している。
「トカラの法則 本当?」:科学的根拠はあるのか
SNS上の噂に対し、熊本大学の横瀬久芳准教授(海洋火山学)は「科学的な根拠は一切ない」と明確に否定する。
トカラ列島周辺では、フィリピン海プレートが陸側プレートに沈み込んでおり、地殻構造の特性からもともと地震が多発しやすい地域とされている。今回の地震はいずれもマグニチュードが小さく、「この程度の規模で他地域の巨大地震を誘発するとは考えにくい」と横瀬准教授は説明する。
「トカラ列島 地震 前兆」:過去の大地震との関連性は?
SNSでは、2016年の熊本地震や、2024年元旦の能登半島地震の前にも、トカラ列島近海で複数の地震が観測されたことが「前兆の証拠」として引用されている。
たとえば熊本地震(M7.3)が発生した直前の4月1~8日には、トカラで9回の有感地震があった。能登半島地震の前も、約2か月間に46回の地震が記録されていた。
しかし、地震学では「関連があった」と言うには、統計的裏付けや物理的因果関係が必要だ。局所的な群発地震と別地域の大地震を直接結びつけるには無理があるというのが、現時点での専門家の見解である。
「地震 予兆 SNS 噂」:なぜ“地震法則”は拡散されるのか?
「トカラの法則」は、いつ、誰が言い出したのか定かではない。しかしX上では2016年ごろからその記述が確認されている。当初は「トカラ列島で地震が起きると桜島が噴火する」といった局所的な文脈だったが、のちに「その後に大地震が起きる」へと変化した。
これは、心理学で「後知恵バイアス(hindsight bias)」と呼ばれる現象の影響があると考えられる。人は大きな出来事が起きた後、「あのときの異変は前兆だったのでは」と過去の出来事を意味づけしたくなる傾向がある。SNSではこうした心の働きが、共感や「いいね」によって強化され、さらに拡散されやすくなる。
「トカラの法則 拡散アカウント」:拡散の震源地を検証
「トカラの法則」を積極的に拡散したアカウントを調査すると、震災系まとめアカウントや都市伝説系インフルエンサーが多く見られる。彼らは、実際の地震発生数やプレート情報を並べた“もっともらしい”画像やデータを用いて、投稿の信ぴょう性を演出している。
また、リプライ欄には「そろそろ南海トラフ来るかも」「引っ越し考えた方がいいかも」といった不安を煽る声が並ぶ。こうした言説が視覚的インパクトとともに流通し、SNSのアルゴリズムに乗ってバズを生む構造がある。
「トカラ列島 現在の地震回数」:どこまで続くのか
6月28日までに観測された地震は515回にのぼるが、いずれも震源の深さは10km前後、マグニチュードも3前後が多い。気象庁は、プレート境界での歪み蓄積による「自然現象」として経過を見守っており、現時点で特別な異常とはしていない。
トカラ列島周辺ではこれまでにも数百回規模の地震が発生した例があり、長期化する可能性はあるが、直ちに巨大地震につながるわけではない。
「トカラ列島 地震 いつまで続く」:終息の見通しは?
群発地震がいつ終わるかを正確に予測することは、現代の地震学でも難しい。過去には、2011年や2016年に2~3か月ほど続いたケースがあるが、1週間で収束した例もある。
気象庁は現時点で「収束の兆しがある」とも「さらに拡大する」とも判断しておらず、今後も注意深い観測が必要としている。
「トカラ列島 巨大地震 可能性」:本当に危険なのか?
トカラ列島周辺は確かに地震の多いエリアだが、その地震が即「巨大地震」の予兆になるとは限らない。横瀬准教授も「トカラのような小規模地震が、南海トラフや日本海溝沿いの巨大地震を誘発する可能性は極めて低い」と断言している。
科学的には、大きな地震を引き起こすにはプレート間で数百年単位のエネルギー蓄積が必要とされており、その予兆は単発の群発地震とは異なる形で現れるとされる。
「トカラ列島 プレート構造」:なぜこの地域で地震が多いのか?
トカラ列島は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートが交差する複雑なプレート境界に位置する。プレートが沈み込むことで海底に大きな歪みが生じ、陸側プレート内部で破壊が起きやすい地形となっている。
また、トカラ列島付近には複数の火山帯が存在し、マグマの移動などが地殻変動に影響を及ぼす可能性もあるとされる。こうした自然条件が重なり、地震の“ホットスポット”となっている。
「日本 地震 予兆 信頼できる?」:前兆研究の最前線
一方で、前兆現象の研究は今も続いている。たとえば、地中のラドン濃度の変化や、電磁波の異常、地殻変動の兆候などを捉える技術開発が進んでいる。
しかし、これらの現象がすべての地震で確認されるわけではなく、「予兆」→「地震発生」という因果の一貫性はまだ十分ではない。地震予知の難しさは、「予兆がある=必ず地震が来る」ではない点にある。過信は禁物だが、地震科学の発展に希望を託す声もある。
法則に頼る前に“科学”と“備え”を
SNSが発達した現代、地震にまつわる「法則」や「予言」は、信憑性よりも拡散性で広まる。だが、不安を煽る情報が飛び交う中で、冷静な判断と事実の確認がますます重要になっている。
トカラ列島の地震多発は確かに注目に値するが、それを理由に「次は首都直下地震だ」「南海トラフだ」と騒ぎ立てることに意味はない。正確な知識と備えこそが、最も信頼できる“防災”の法則である。