
「神」「覇者」「レジェンド」「〇億円プレイヤー」──夜の帝王たちが次々と“失冠”していく。新宿・歌舞伎町に貼られていた華やかなホスト広告が、一斉に“地味化”の道を歩み始めている。
警察庁は6月28日から施行される改正風営適正化法に合わせて、ホストクラブなど接待飲食業者の広告・宣伝に対する具体的な規制を通達した。対象となるのは、売上成績の誇示や過度な称号、ホスト同士の競争を煽る表現、さらには客に特定のホストを応援させようとする文言まで。
かつて夜を席巻していた“夢の肩書き”は、「違法助長のリスクあり」として次々と封じられることとなった。
「幹部補佐→班長」…現場はすでに肩書き改名ラッシュ
実際に、すでにあるホストクラブでは内部通知が出回っている。添付画像には、「幹部補佐→班長」「副主任→係長」「支配人→部長」など、どこか企業風の職位が並び、「売上バトル→発表会」との文言も。
「これ、もう合唱コンクールの発表順ですよ」と笑いながらも、「行政処分が怖いから仕方ない」と複数の現役ホストは語る。
一方で、こうした“肩書き自主規制”の動きに、SNSでは《ホス狂い卒業式か》《神が班長になってるの涙出た》といった皮肉交じりのコメントも飛び交っている。
規制の背景にある“悪質売掛金”と沈む女性たち
しかし、今回の規制の背景にあるのは、単なる表現の過激さではない。ホストクラブでの“売掛金”トラブルが深刻化し、客となった女性が多額の負債を背負わされ、返済のために風俗店で働かざるを得ないケースが相次いだことが決定打となった。
恋愛感情に付け込まれ、「売春して店に通ってくれたら、一緒に住もう」などと囁かれ、心も財布も搾り取られていく。その実態は、すでに“エンタメ”の範疇を超えた人権侵害だ。
この構造の中で、女性が流す涙や生き血を啜って、煌びやかなスーツに身を包み、高級シャンパンを開け続けるホストたちの姿は、さながら寄生虫にも近い。実際、「ホストがいることで、良質な女性が風俗に落ちてくれる。その結果、男たちも安く遊べる」といった、利己的な“市場論理”を公言する者もいる。
売掛金の実態は「ホストの立替」に過ぎないという現実
法的には、売掛制度が違法ではないという立場が続いているが、実態としては店側がホストに立替をさせているだけであり、「実質的な搾取構造は変わっていない」との指摘も根強い。
しかも、支払い不能になった女性に代わり、ホスト自身が“借金漬け”にされ、辞められなくなるケースも少なくない。いわば、ホストもまたこの構造の“囚人”である。
「かつてのホスト」はもっと人間らしかった
筆者もまた、知人女性がホストに嵌り、やがて多額の借金を背負い、家族に迷惑をかけて落ちていく姿を目の当たりにした一人だ。そのときから「この業界は決して堅気ではないゲスな商売だ」と思うようになった。こんなものが陽の目を見てはいけないと。
そもそも、昔のホストはここまで悪辣ではなかった。金額も今日に比べれば可愛い気があり、学歴や家庭環境に恵まれなかった若者が、体一つで成り上がるためのルートのような側面があった。ところがいつしか、SNS映えと億単位の売上競争が常態化し、“人を潰すビジネス”へと堕ちていった。
桑田龍征「ホスト上がりが誇りになる日を」
こうしたタイミングで、ホスト出身でありながら、現在はホストグループ「ニュージェネレーショングループ」のオーナーを務め、通販事業やYouTubeでも知られる桑田龍征氏は、自身のSNSで次のように綴っている。
「商売そのものは否定されていない。ただ、稼ぎ方や見せ方に節度が求められている。魅力は“正しく”使えば夢になる。間違えれば“嫌悪”になる」
さらに、
「自分はずっと“ホスト上がり”と馬鹿にされてきた。でも、この業界が変わることで、ホスト出身であることが、誇りになる日が来てほしい」
と、過去の偏見と闘ってきた当事者としての本音を吐露している。
筆者個人の感覚では、歌舞伎町界隈のなかでの看板などは風物詩として外人も観光名所として面白がる分、残ってもいいと思うが、渋谷などの町中を駆け巡る煩い広告トラックなどは目にしたくないタイミングで暴力的に視覚と聴覚に入ってくれるので、なくなるのはホッとする。同様に代々木駅前のニュージェネの看板も、歌舞伎町で完結してくれよと思っていたので変わるなら嬉しい。
変わるホスト、変わる夜の街 「神」は去っても物語は続く
今回の規制は、ホスト業界にとっての終わりではない。むしろ、地味な肩書きのもとで再出発を図る、いわば「夜の文化」のリブートである。
「神」や「億男」が消えたあとに残るのは、肩書きではなく、接客の質と人間関係のリアリティだろう。誤魔化しのきかない時代が来たのだ。
今後、ホストクラブが“夜のエンタメ産業”として文化的な再評価を得られるかどうかは、まさにここからが試金石だ。