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撮り鉄による線路立ち入りでカシオペア一時運休 1100人に影響、問われる公共空間とファンの間柄

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カシオペアと撮り鉄

6月15日午前9時16分頃、宮城県名取市のJR東北本線で、列車から「線路内に人がいる」との通報があり、仙台駅と岩沼駅の間の上下線が一時運転を見合わせた。現場にはカメラを持った人物がいたとされ、鉄道ファン、いわゆる“撮り鉄”による行為の可能性が高いとみられている。

JR東日本によると、立ち入りが確認されたのは館腰駅と岩沼駅の間で、当時、人気の臨時寝台列車「カシオペア」の下り列車が付近を走行していた。安全確認が実施されたのち、午前9時55分に運転は再開されたが、上下線2本が運休し、約1100人に影響が出た。

 

生活に入り込んだ「迷惑」 乗客たちが語る“損失”

今回の妨害行為によって影響を受けたのは、単なる「乗客数」だけではない。それぞれの暮らしのなかに、このトラブルが深く食い込んでいた。

名取市に勤務する40代の会社員は、「東北本線から仙台経由で東京出張に向かう予定だったが、新幹線に間に合わなかった」と悔しさをにじませた。「一部の鉄道ファンの行動で、仕事の信頼まで損なわれるなんて理不尽だ」と語る。

また、4歳の息子と「カシオペア」を見に来ていたという30代の母親は、「今日だけの特別列車を楽しみにしていたのに、まさか止まるとは思わなかった」と肩を落とした。思い出作りの時間が、誰かの自己満足によって断たれたことに納得がいかない様子だった。

一方で、マナーを守って活動する鉄道ファンからも批判の声が上がっている。「また“撮り鉄”全体が叩かれる。ほとんどは駅構内や許可された場所で楽しんでいるのに」と語るのは、地元で長年撮影を続けてきた60代の男性。こうした行為が“ファン全体”の信用を損なう構造にもなっている。

 

「呼びかけ」では防げない 繰り返される問題の本質とは

JR東日本は「線路内への立ち入りは危険であり、列車運行に深刻な支障をきたす」として強く自粛を求めているが、同様のトラブルは全国で後を絶たない。SNSでは「呼びかけではもう限界」「実名報道と刑事責任を伴う対応が必要」といった厳しい声も上がっている。

鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は、「撮影者の行動に弁解の余地はなく、事故とならなかったことが不幸中の幸い」としつつ、次のような見解を示す。「多くのファンはルールを守っており、今回のような立ち入りも、おそらくは線路内でもレール外側ののり面付近に立っていたと推察される。かつて黙認されていた撮影スポットが、今や厳しく規制されていることを理解できていない人も多い」

つまり、問題は「悪質なファンの暴走」だけにあるのではない。鉄道ファン文化と公共交通の交差点で、「どのように共存可能な設計を行うか」という社会的設計が、長年未整備のまま放置されてきたのである。

 

1980年代までは黙認されていた鉄道脇の撮影地も、列車の高速化や安全管理の強化により、次第に立入禁止区域へと変化していった。にもかかわらず、ネットやSNSでは「昔の名撮影地」がいまだに“スポット”として紹介され、現地を訪れた無知な撮影者が、法的に危険な場所に足を踏み入れてしまう構造がある。

これは個人のモラルの問題に矮小化すべきではない。むしろ鉄道文化とインフラ管理の間に横たわる「共存の設計不在」が、本質的なリスク要因となっている。

 

文化と秩序を守るには 次に問うべきこと

問題の再発を防ぐには、ただ「やめてください」と呼びかけるだけでは不十分だ。ヨーロッパでは、撮影者と鉄道会社が協調し、公式に“撮影可能スポット”を整備する取り組みも進んでいる。

日本でも、自治体や鉄道事業者が協力し、明示的な「撮影可エリア」を設定・告知し、ファンを“安全な場所”へと誘導する取り組みが必要ではないか。さらに、AIカメラや通報アプリなどを活用したリアルタイム監視と抑止インフラの整備も視野に入れるべき時期に来ている。

 

撮り鉄文化そのものは、鉄道ファンの熱意と技術によって育まれてきた貴重な一面だ。しかしそれが、公共性を侵し、他者の時間や安全を脅かすものとなってしまうのであれば、見直されるべきは「個人」よりむしろ「環境設計」である。

鉄道というインフラのもとに集うすべての人々が、適切なルールと理解のもとで共存できる社会。それをどう築くかが、いま問われている。

ライター:

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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