
「美しさ」とは、決して外見だけのことではありません。肌の状態や身体の不調、そして心の揺らぎ。それらはすべて、私たちの内側で起きている変化を映し出す“鏡”のような存在です。
これまで、エステティックは美容目的のサービスとして捉えられることが多くありました。しかし近年、その役割は大きく変わりつつあります。本来エステティックが目指しているのは、「外見・内面・精神面」という三つの側面に統合的にアプローチし、予防医療的な視点を持ったケアを提供することです。
肌が語る「身体の声」
たとえば、肌荒れやむくみ、冷えといった症状は、単なる美容上の悩みではなく、内臓機能の低下や自律神経の乱れを示す「皮膚反射」であることもあります。エステティックの現場では、こうしたサインに早い段階で気づき、いわゆる“未病”の状態に対してケアを行うことが可能です。
さらに、肌や筋肉に直接触れる施術には、副交感神経を優位にし、自律神経のバランスを整える効果があるといわれています。皮膚へのタッチは、脳や内臓に働きかけ、心身の緊張を緩める効果も期待できます。エステティックサロンでは、こうした生理的作用を活かして、ストレスを和らげ、心身ともに整った状態で社会に戻れるようお手伝いをしています。
生活習慣の見直しを支える存在へ
エステティシャンは、身体に触れる技術だけでなく、対話を通じてお客様の生活背景を丁寧に理解するカウンセリング力も求められます。肌や体調の不調の背後には、食生活の乱れ、睡眠不足、運動不足、人間関係の悩みなど、複雑に絡み合った日常的なストレスが隠れていることも多いものです。
そうした背景を汲み取りながら、お客様の生活に無理なく取り入れられるセルフケアや改善策を提案する。エステティシャンはまさに、生活習慣の改善を伴走するパートナーといえるでしょう。美容という入口からはじまるこのプロセスは、実は非常に実践的な「生活習慣病予防」とも捉えることができます。
心にも寄り添う、対話の力
JESMA(日本エステティックサロン経営学院)では、来談者中心療法を応用したカウンセリング技法の教育にも力を入れています。傾聴・受容・共感の姿勢で行う対話は、自己開示や感情の浄化(カタルシス)を促し、お客様が自らの内面に気づき、癒していくプロセスを支えることにつながります。
近年、企業ではストレスチェック制度の導入が義務化され、アブセンティーズム(欠勤)やプレゼンティーイズム(出勤しているがパフォーマンスが低下している状態)といった課題が表面化しています。エステティックサロンは、こうした心身の不調を“病気になる前”の段階でケアできる存在として、健康経営の文脈でも注目を集めつつあります。
信頼と安心を高める制度化の流れ
公的保険の対象外であるエステティックサービスだからこそ、信頼性と安全性を可視化することは重要なテーマです。この課題に対し、業界では2007年に経済産業省の指導のもと「エステティックサロン認証制度」が制度化されました。
さらに、2026年には「エステティックJIS(日本産業規格)」の正式発表が予定されています。これは、保険外サービス領域において初めて明文化される品質および運営管理基準であり、消費者保護だけでなく、企業との連携や健康経営との接続にも大きな意味を持つ取り組みとなります。
エステティックとサステナビリティの重なり
エステティックは、人が自らの力で健康を維持しようとする営みを支える仕事でもあります。それは、医療や介護に過度に依存しない社会をつくるという意味で、サステナブルな未来の構築に貢献するアプローチだといえます。
外見の美しさを整える場であると同時に、健康の土台を支え、社会的孤立を防ぎ、自己肯定感を育む場としても、エステティックサロンの役割はますます広がりを見せています。これからの社会において、心身の健やかさと人とのつながりを支える“触れるケア”の力が、よりいっそう必要とされていくことでしょう。
【プロフィール】
ゆうプランド株式会社 代表取締役
JESMA 日本エステティックサロン経営学院 学院長
草野 由美子
エステティックサロンの責任者研修および経営コンサルティング、
サロンの開業支援・廃業サポートに25年の実績。
優良店の証である「エステティックサロン認証」アドバイザー。
経済産業省主導の「エステティックJIS」開発において分科会委員を務める。