
新型コロナを契機に広がったテレワークは、働く人々の生活時間にどのような影響を与えたのか。内閣府経済社会総合研究所(ESRI)は、約20万人を対象とした令和3年(2021年)の「社会生活基本調査」データをもとに、雇用者の平日の時間の使い方を分析。その結果、大都市圏と地方圏で、通勤時間の削減が生み出す“余白”の使われ方が根本的に異なっている実態が明らかになった。
三大都市圏では「仕事時間」へ再投資、地方では「家事・育児」に吸収
分析対象となったのは、全国から抽出された約20万人の調査対象者のうち、平日に就業している15歳以上の男女(約6万人)。このうち、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)と、地方圏の通勤勤務者およびテレワーカー(雇用型就労者)に絞って、生活時間の違いが比較された。
結果として、三大都市圏の女性テレワーカーは、通勤勤務者よりも長く昼間(13時~17時)に働いており、フルタイム勤務率も73.8%と、通勤勤務者の64.8%を上回った。また、正規雇用率も55.2%と、通勤勤務者(39.7%)より高く、浮いた通勤時間を仕事に再投資する動きがみられた
一方、地方圏の女性テレワーカーでは、同じくフルタイム勤務率こそ77.3%と高かったものの、通勤ゼロで生じた時間の多くが家事や育児に吸収されていた。仕事時間は通勤勤務者と同程度だが、家事育児に割かれる時間は一日を通して高止まりしており、家族ケアの負担が生活全体を支配する構図が浮かび上がった。
男性のテレワーク参加は「三方良し」だが、家庭内負担の不均衡は続く
男性テレワーカーもまた、通勤時間の削減によって余暇や睡眠時間を拡充する傾向にあり、家事育児時間もわずかに増加していた。ただし、その時間は女性の半分以下にとどまり、依然として家庭内の負担は女性に大きく偏っていた。
ESRIはこの点について、「柔軟な勤務時間制度の拡充や、家事支援サービスの普及がなければ、テレワークによって生まれた余白は男女で不均衡に消費されるままになる」と警鐘を鳴らしている。
政策提言:「通勤ゼロ」時代の設計図とは
ESRIは報告書の末尾で、テレワークの恩恵を広く平等にするためには、「柔軟な勤務制度」と「家事・育児の外部化支援」が不可欠だと強調している。
現在、日本の企業でフレックスタイム制度を導入している割合は6%台にとどまる。また、家事支援サービスの利用は家計支出の0.2%と低水準。これらを拡充することで、特に地方圏の女性が背負う不可視な労働を軽減できる可能性がある
結論:時間の格差が生む「選べる未来」への分岐
通勤の有無だけでは、働き方は変わらない。誰が時間を自由に使え、誰がそうでないのか。ESRIの分析は、テレワークが新たな格差――“時間の所有格差”を生み出している現実を照らし出した。
今後の政策が問うべきは、単に働く場所ではなく、「時間の自由」をいかにして誰にでも開かれたものにできるかという問いそのものである。
【調査概要】
調査母体:総務省「令和3年社会生活基本調査」
調査対象:約20万人(うち平日就業者約6万人)
分析機関:内閣府経済社会総合研究所(ESRI)
発表資料:リサーチノートNo.91(2025年5月公開)