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マンUの経営危機深刻化 5年連続赤字700億円超の損失 リストラ拡大にPSR違反のリスクも

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マンチェスター・ユナイテッドが、長引く財政難に直面している。過去5年間で総額700億円超の損失を計上し、経営の持続可能性が危ぶまれている。共同オーナーのジム・ラトクリフ氏は、2024年夏に250人を解雇したが、さらに追加で200人のリストラも決定。加えて、プレミアリーグの「収益性と持続可能性に関する規則(PSR)」違反の可能性が高まり、勝ち点剥奪のリスクも。経営再建を目指すマンUの現状と、ファンや関係者の声を詳しく伝える。

 

マンチェスター・ユナイテッド経営危機の現状

マンチェスター・ユナイテッド(以下、マンU)は、世界的なサッカークラブとして名を馳せるが、その栄光の歴史の裏には数々の試練があった。クラブは1878年に設立され、1902年に現在の名称に改称。1958年にはミュンヘンの悲劇により主力選手の大半を失うも、マット・バズビー監督のもとで復興を遂げ、1968年には欧州制覇を成し遂げた。

1990年代以降はサー・アレックス・ファーガソンの指揮のもと、13回のプレミアリーグ優勝と2回のチャンピオンズリーグ制覇を果たし、世界屈指のクラブとして君臨。しかし、ファーガソン退任後は監督交代が相次ぎ、成績も低迷。加えて、無計画な選手補強や巨額の経営コストが重なり、財務状況が悪化していった。

そして、2018-19シーズン以降のマンUは5年連続の赤字を計上。累積損失は3億7000万ポンド(約700億円)を超え、クラブ存続の危機に直面している。クラブの歴史を振り返れば、1990年代から2000年代にかけての黄金時代は、まさにサッカー界の王者として君臨していた。しかし、ピッチ上での低迷が続き、経営の失策が重なり、今や700億円を超える累積赤字を抱えるに至っているのだ。

このような状況の中、昨年、共同オーナーに就任した英実業家ジム・ラトクリフ氏は、財務改善のために大規模なリストラを敢行。すでに250人の従業員が解雇され、さらには新たに200人が職を失う見込みとなっている。これは単なるクラブ運営の合理化ではなく、クラブの存続をかけた決断である。

加えて、プレミアリーグの財務規則であるPSR(収益性と持続可能性に関する規則)違反の可能性も高まりつつあり、勝ち点剥奪という最悪のシナリオも現実味を帯びてきている。

マンUの累積赤字は700億円超 経営難の背景とは

 

マンUの経営がここまで悪化した背景には、いくつもの要因が複雑に絡み合っている。近年の財務状況を見ると、クラブの収入は減少する一方で、支出は増え続けている。経営悪化の要因は、以下のことが挙げられる。

過剰な選手補強

マンUは近年、補強において積極的な投資を続けてきたが、その多くが期待に応えられていない。2014年以降の移籍市場での支出総額は10億ポンド(約1900億円)を超え、これは欧州クラブの中でもトップクラスの支出額である。

特に高額補強選手として挙げられるのは、ポール・ポグバ(8900万ポンド)、ハリー・マグワイア(8000万ポンド)、ジェイドン・サンチョ(7300万ポンド)、ロメル・ルカク(7500万ポンド)、アントニー(8500万ポンド)などだ。これらの選手の多くが移籍金に見合った活躍を見せられず、クラブの財政を圧迫する要因となっている。

放映権収入の減少(過去5年間で30%減)

マンUの放映権収入は、かつて欧州トップクラスの水準を誇っていた。
しかし、近年の成績低迷とチャンピオンズリーグ出場回数の減少により、大幅に落ち込んでいる。

2018-19シーズンには、プレミアリーグの放映権収入として2億4100万ポンドを記録していたが、2023-24シーズンには1億6800万ポンドに減少。この5年間で約30%の減収となっている。加えて、チャンピオンズリーグに出場できなかったシーズンでは、放映権収入の減少幅がさらに拡大し、2022-23シーズンの収益は1億5000万ポンド以下に落ち込んだと報じられている。収益の大黒柱である欧州大会からの収入がなくなったことはクラブに大きな打撃を与えた。

監督交代の連鎖と違約金

エリック・テン・ハグ監督の解任を含め、短期間で監督を入れ替える方針が続いたことで、違約金の支払いが急増していることも要因だ。これまでに、デイヴィッド・モイーズ(約500万ポンド)、ルイス・ファン・ハール(約880万ポンド)、ジョゼ・モウリーニョ(約2000万ポンド)、オーレ・グンナー・スールシャール(約750万ポンド)、ラルフ・ラングニック(約100万ポンド)、そしてテン・ハグの契約を解除。その契約解除費用を含めると、2013年のファーガソン退任以降の監督解任による違約金総額は1億ポンド(約190億円)を超えると報じられている。これにより、クラブの財政状況はさらに悪化した。

負債の利息支払い(年間3500万ポンド)

グレイザー家が2005年にクラブを買収した際、巨額の借入金を利用したレバレッジド・バイアウト(LBO)が実施された。その結果、クラブの債務は長年にわたり増加し続け、2024年時点でマンUの負債総額は9億9000万ポンド(約1900億円)に達している。さらに、この負債に伴う年間利息支払い額は3500万ポンド(約66億円)とされており、この負債の利息もクラブの財務状況を圧迫する大きな要因となっている。

財政再建へ向けた厳しいコストカット策

こうした状況を踏まえて、クラブはすでに徹底したコスト削減に乗り出している。ラトクリフ氏率いるINEOSは、経営の抜本的な改革を進めているが、その影響はクラブのすべての部門に及んでいる。

1. 従業員のリストラを拡大

・2024年夏に250人を解雇
・さらに追加で200人の解雇を決定
・オールド・トラッフォードのオフィススタッフをキャリントン練習場へ移動

2. 運営コストの削減

無料ランチの廃止:クラブスタッフの昼食提供を中止
クリスマスパーティーの中止:従業員向けイベントの廃止
チケット価格の引き上げ:子どもや年金受給者向けの割引を撤廃

これらのコスト削減策は、クラブの長期的な存続を目指すための決断ではあるが、ファンや関係者からの反発は大きい。

コスト削減による出来事(ファーガソンとの契約解除と移動費のカット)

 

クラブレジェンド、ファーガソンとの契約解除とOBの反発

財政難によるコスト削減は上記の施策だけではない。コスト削減の一環として、クラブは2024年、サー・アレックス・ファーガソンとのアンバサダー契約を打ち切る決定も下している。ファーガソンは2013年の監督退任後もクラブの象徴的存在として年間200万ポンド(約4億円)の契約で活動していたが、クラブの財務状況悪化により契約が終了。

これに対し、OBであるポール・スコールズ、エリック・カントナらは「敬意を欠いた決定だ」「クラブの魂が失われた」と痛烈に批判。ファンの間でも「財政再建のためとはいえ、歴史と伝統を軽視しすぎている」と不満が噴出している。

チームキャプテンがバス代を自腹で負担しようとするもクラブ側は拒否

また、コスト削減の影響は、チームの士気にも影を落としている。2024年5月25日に行われたFAカップ決勝戦(マンチェスター・ユナイテッド vs. マンチェスター・シティ)では、クラブスタッフへの交通費・宿泊費の補助がカットされた。その結果、スタッフは自腹でバス代を支払うことになったが、これを知ったチームキャプテンのブルーノ・フェルナンデスが「スタッフに対する追加費用を自腹で全て支払う」とクラブ重役に申し出た。しかし、クラブ上層部はこれを拒否したとのこと。

PSR違反のリスクと勝ち点剥奪の可能性

マンUの財務状況が悪化し続ける中、最も懸念されるのがプレミアリーグの「収益性と持続可能性に関する規則(PSR)」違反である。PSRでは、クラブの3シーズン累積損失が1億500万ポンド(約200億円)を超えないことが求められるが、マンUはこの基準を大幅に上回る損失を計上している。

もし、PSR違反となった場合の処分としては以下のような処分が考えられる。

勝ち点の剥奪(2023-24シーズンにはエヴァートンが6点、ノッティンガム・フォレストが4点の勝ち点剥奪処分を受けた)
移籍市場での制限(新規選手登録の制限や補強予算の規制)
罰金(数百万ポンド規模の経済的制裁)

『The Athletic』の報道によると、マンUの経営陣はPSR違反を回避するために、今後さらなるコスト削減と選手売却を検討しているという。特に、アカデミー育ちの選手を売却すれば、会計上の利益として純収益に反映されるため、若手有望株の放出が現実的な選択肢となりつつある。

ファンの反発とクラブへの不満

クラブの経営方針は、ファンの間でも大きな反発を招いている。『BBC』や『Manchester Evening News』によると、マンUのサポーターグループ「The 1958」や「Manchester United Supporters’ Trust(MUST)」は、経営陣の決定に対する抗議活動を活発化させている。
特に、ファンが反発している主なポイントとしては以下のことが挙げられている。

チケット価格の大幅な引き上げ

マンUは、2024-25シーズンのチケット価格を平均12%引き上げることを決定した。これにより、シーズンチケットの価格は最低でも950ポンド(約18万円)に達し、プレミアリーグでも最高額の部類に入ることとなった。
さらに、これまで実施されていた子どもや年金受給者向けの割引制度も撤廃され、多くのファンがスタジアムでの観戦を諦めざるを得ない状況になった。この決定に対し、サポーター団体『MUST』は声明を発表し、「チケット価格の引き上げは、クラブの財政難の責任をファンに押し付けるものだ」と非難。抗議活動の実施も検討されているという。

経営の透明性の欠如とラトクリフ経営陣への不信感

ジム・ラトクリフ氏率いる新経営陣は、財務再建のためのコスト削減を進めているが、その意思決定プロセスの不透明さがファンの不信感を招いている。特に、財務改革の方針について具体的な説明がなされておらず、どのようにPSR違反を回避し、クラブを立て直すのかが不明確なままである。

『The Guardian』によると、ラトクリフ氏は「クラブの未来のためには痛みを伴う決断が必要」と述べたが、ファンやOBは「短期的なコストカットに重点を置きすぎており、クラブの長期的な成功のビジョンが欠けている」と批判している。

また、『Sky Sports』によれば、ファンの間では「ラトクリフの経営はグレイザー家の二の舞ではないか?」との懸念も広がっている。これに対し、クラブ側は「改革は長期的な成功のために必要不可欠」と反論しているが、現時点ではファンの不信感を払拭できていない。

マンUの未来:再建への道筋

マンUの未来は、今後の財務改善とチーム強化が鍵を握る。短期的には厳しい状況が続くが、クラブのブランド力を活かし、適切な戦略を取ることができれば再建の可能性は十分にある。

というのも、2024年にスポーツビジネス専門メディア『Sportico』が発表した「世界で最も価値のあるサッカークラブランキング」では、マンUは世界的なブランド価値を誇るクラブであり、約62億ドル(約9600億円)の評価を受け、世界のトップクラブの中で首位の座に輝いている。この評価は、放映権収入、スポンサー契約、チケット売上、グローバル市場でのブランド力を基に算出されているものだ。このブランド力は今後の経営に大きな影響をもたらすだろう。しかし、財務状況の悪化が続けば、このブランド価値にも陰りが生じる可能性もある。

いずれにせよ、ファンの信頼を取り戻すことができなければ、現在の経営危機はさらに深刻化し、長期的なブランド価値の低下を招くリスクをはらんでいることは間違いない。今後の経営判断が、マンUの未来を大きく左右することだろう。

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