中国の人工知能(AI)企業「DeepSeek」が米国アプリストアで旋風を巻き起こしている。同社が開発した生成AIアプリは、先日米Appleのアプリストアで無料ダウンロード数ランキング首位に立ち、米国AI業界を震撼させた。皮肉にも、この成功の背景には米国の経済制裁が影響していると考えられている。
制裁が促したイノベーション
DeepSeekは2023年に杭州で創業した新興企業だが、今回の成功は米国による先端半導体の輸出制限が間接的に寄与した可能性がある。制約の中で、DeepSeekは高価なGPUではなく、低コストのチップを使用して大規模言語モデルを構築。その結果、従来信じられていた「計算資源やデータ量が性能を決定づける」という業界の常識を覆す成果を上げた。
米CNBCの報道によれば、DeepSeekのモデルは従来のシリコンバレー製AIモデルに匹敵する性能を、わずか560万ドル、開発期間2カ月で達成。これにより、AI開発の巨額投資の前提が揺らぐとの懸念が広がっている。
「自由貿易しか勝たん」の教訓
この現象は、過去のHuaweiの例とも通じる。米国がGoogleのAndroidを禁止した結果、Huaweiは独自のHarmony OSを開発し、中国市場での自立を果たした。これにより、iPhoneの売上は中国市場で低迷する事態となった。経済制裁が相手国の技術的独立を促し、逆に強化してしまうケースが再び注目されている。
論文「DeepSeek-R1: Incentivizing Reasoning Capability in LLMs via Reinforcement Learning」の概要
DeepSeekの研究チームが発表した論文「DeepSeek-R1: Incentivizing Reasoning Capability in LLMs via Reinforcement Learning」は、AIモデル開発の新たな道筋を示すものとして注目されている。この論文では、まずDeepSeek-R1が監督学習を用いず、純粋な強化学習(RL)を活用してモデルの推論能力を向上させたことが報告されている。この手法により、モデルは自律的に学習し、複雑なタスクに対応する能力を磨いたという。
また、DeepSeek-R1の技術を小型モデルに適用するため、蒸留技術を駆使した点も特徴的だ。研究チームは、1.5Bから70Bパラメータに及ぶ小型モデルに大規模モデルの性能を引き継ぐことに成功。これにより、効率的なリソース利用が可能となり、小型モデルであってもOpenAIやGoogleの競合モデルに匹敵する性能を示した。
さらに、数学、コーディング、科学など多様な分野で高い成果を挙げた点も見逃せない。特に数学タスク「AIME 2024」では79.8%、「MATH-500」では97.3%という正解率を達成した。このような結果は、従来のAI開発における巨額投資の必要性を再考させるものである。
SNS上の声
SNS上では、DeepSeekの成功に対して賛否両論が寄せられている。
「中国政府の厳しいAI規制にもかかわらず、この成果は驚異的だ。」
「これだけの人気なら、Tiktokに対する米国の対応と同様に、再び過敏な反応が起こるかも。」
「『不好意思,和 DeepSeek 聊天的人有点太多了,请过一会儿再提问吧。(すみません、利用者が多すぎて少し待ってください)』サーバーダウンも成功の証でしょう。」
一方で、警戒感を示す意見も目立つ。
「米国での成功はすごいが、データプライバシーや中国政府との関係が気になる。」
「政治的リスクが背景にある限り、完全に安心して使えるとは思えない。」
アプリの急成長に伴うサーバーの問題や、データ管理に関する懸念がSNS上で頻繁に議論されている。
経済制裁の限界と未来
経済制裁が技術的なイノベーションを生む逆説的な結果を示すこの事例は、グローバルな経済競争において「比較優位」を活かす自由貿易の重要性を再確認させる。DeepSeekの台頭は、中国AI業界が持つ潜在力を世界に示しただけでなく、制裁政策の長期的影響についても再考を促すものとなった。