2024年、米国の資産運用会社にとってESG(環境・社会・企業統治)投資戦略の環境が一変し、業績に暗い影を落とした。米モーニングスターのデータによれば、昨年の米国サステナブルファンドの資金流出額は約200億ドル(約3兆1000億円)に達し、2023年と比較して130億ドルの増加となったようだ。
厳しさを増すESG投資
Bloombergの報道によると、米国ではESG投資を取り巻く環境が厳しさを増していることがはっきりとしてきたようだ。実際に、昨年暮れより、JPモルガン・チェースやブラックロックといったウォール街の大手金融機関は、気候変動対策を目的とした金融機関グループから次々と脱退。ESGへの支持基盤が揺らいでいることがうかがえる。
モーニングスター・サステナリティクスのサステナブル投資調査責任者ホーテンス・ビオイ氏は、ESG戦略に取り組む運用会社が直面する課題として「ESGの政治問題化、高金利環境の継続、グリーンウオッシュに関する懸念、そして強気相場での従来型投資戦略への選好」を挙げた。また、第2次トランプ政権の発足により、ESG投資の未来は「非常に不透明」な状況に陥っているとも述べた。
グリーンウオッシュとは、環境配慮を装うことで投資家の関心を引こうとする行為を指す。こうした批判が高まる中、ESGファンドのパフォーマンスは従来型ファンドに比べて劣勢に立たされている。実際、モーニングスターによると、2024年に従来型ファンドは約7400億ドルの純流入を記録。ビオイ氏は、ESGファンド全体の運用成績の低調さがこの流出の主要因だと分析している。
日本におけるESG投資の現況
日本でもESG投資に逆風が吹いて久しい。同じく、モーニングスターのデータによれば、2023年の時点でETFを除いた日本のESG投資信託からの資金流出額は2022年比で4倍に拡大し、約6600億円の純流出を記録したと言われている。
直近のデータはどうだろう。NTTデータエービックによる2024年12月のESG投信概況によると、月間の資金流出額は741億円となったようだ。
結局、ESG投信は、AIとかと一緒で話題性のある銘柄に投資するテーマ型ファンドの枠を超え、持続可能な投資として浸透することはできなかった。流行の終焉とともに資金が流出する傾向が指摘されている。
実際に多くの識者がいうに、2020年から2021年にかけてのESG投信への資金流入は、「ESGが一つのテーマとして扱われ、プロモーションが行われた可能性が高い」と分析している。また、2022年以降、金利上昇局面や成長株の調整がESG投信の運用成績に影響を与え、ブームが下火になった。2023年、2024年には資金流出がさらに拡大し、投資家が他のテーマ型ファンドに資金を乗り換えるパターンが見られる。
ESG投資の過去と未来の展望
ESG投資はかつて、環境保護や社会貢献を重視する新たな投資戦略として脚光を浴び、多くの投資家に支持されてきた。特に2010年代後半から2020年代初頭にかけては、気候変動問題や社会的平等への関心が高まり、ESG関連のファンドは大幅な成長を遂げた。
しかし、2025年の状況はこれまでとは一変し、成長が鈍化しただけでなく、資金流出が目立つ結果となった。政治的対立や金利上昇といった外部要因があるが、一部では投資戦略そのものの見直しを求める声も上がっている。
願いとしては、投資家が短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点で持続可能な成長を支える投資先を選ぶ姿勢を求めたい。ただ、これには、企業が透明性を向上させるだけでなく、政府や規制当局がESG基準の強化を進めることも含まれる。国際的な規制や市場動向がどのように変化していくかが、ESG投資の未来を大きく左右するだろう。
ブーム終焉の先 教育と地域密着型アプローチの可能性
日本でESG投資が再びトレンド化することはあるのだろうか。手垢のついた名前は数年のうちに変わり、またブームとなるのか。MDGs、SDGsと来て、その次が来たらまたトレンドになるのだろうか。
個人的には、以下の取り組みに期待している。現在の学校教育の現場では、環境問題や社会的責任について次世代に意識を浸透させることが既に実施されている。小中高校や大学での教育プログラムを通じて、ESGの本質を理解した未来の投資家を育てることができると期待している。実際に小学生などに話を聞くと、SDGsについて非常に詳しい。遠足などで日本科学未来館などに実際に行き、海洋プラゴミや環境破壊の現況を知ることなどが、教育として大きいのかもしれない。
その他、地域の課題解決にフォーカスしたESG投資は、日本社会への適応度を高めると期待されている。たとえば、地方創生やエネルギー効率改善、地域の雇用創出に向けたプロジェクトに投資することで、ESG投資の具体的な成果を地域住民と共有することが可能だ。さらに、地方自治体と連携したESGファンドの設立は、地方経済の活性化に寄与すると同時に、持続可能な社会の構築にもつながる。
2024年を通じて見られたESG投信の不振。持続可能性への投資が一時的なトレンドに終わるのか、それとも、再び復活できるのか、注視していきたい。