ジャニーズタレントの広告起用見送りについて、広告の社会的機能と人権の観点から解説する。
大手企業によるジャニーズタレントの広告起用見送り
故ジャニー喜多川氏による性加害問題を受けて、ジャニーズ事務所所属タレントの広告起用を見送る動きが加速している。
”キムタク”をCMに起用していた日本マクドナルドや、人気ジャニーズタレントを多数起用していた森永乳業、森永製菓、カゴメなどは契約の満了後は更新しない方針を明らかにした。また、アサヒグループホールディングスは「今後、ジャニーズを起用した広告や新たな販促は展開しない」と発表。
その他、花王は可及的速やかに広告を中止、伊藤ハムは契約更新の見送り、モスフードサービスは被害者救済と再発防止の明確な取り組みが認められなければ契約を継続しない方針を明らかにしている。
ジャニーズタレントを起用してきた大手企業が続々と広告起用を見送る中、世間からは賛否両論の声が挙がっている。確かに、問題を起こしたのはあくまでも”ジャニーズ事務所”であり、タレント個人ではない。責任を追及すべきは事務所に対してである。ではなぜこれだけ多数の企業が続々と起用を見送っているのだろうか。
広告が持つ社会的機能と影響力
今一度、広告の社会的機能をおさらいしておきたい。アメリカ・マーケティング協会(AMA)によれば、広告とは「広告主の名前を明らかにして、アイデア、製品、そしてサービスを、有料の形で、人を介さずに示し、また勧めるもの」と定義されている。
この定義の中にある「アイデア」とは広告の範囲を示しており、広告されるものは商品やその機能などだけではなく、意見や価値観、主張なども含まれ、広範囲にわたっていることを意味する。
そして、広告はさまざまな社会的機能を持っている。広告は情報の伝達や購買行動の促進等経済的な領域は言わずもがな、社会的、文化的な領域にもおいての機能もある。
例えば、社会風潮の規範を明示する機能だ。分かりやすい例として公益社団法人ACジャパンの広告があるが、そこまで主張の強いものでなくとも、近年は企業のCSR広告が増加する傾向にある。また、人や社会、地域、環境に配慮した消費行動であるエシカル消費の台頭から、広告を通じて社会にあるべき姿を訴えかける広告も増加している。こうした広告により、企業の社会的責任を果たしたり、社会的な変化や倫理観を推進する機能がある。
また、広告表現によって新たな流行や話題、生活様式の変容をもたらすといった文化的な機能もある。CMで用いられた言葉が流行語になることや、CMのワンシーンがSNSで話題になること、新しい製品やサービスがCMによって社会に浸透してきたこともあった。
このように広告の機能は多岐にわたり、消費行動だけでなく社会の風潮や倫理観、流行や生活様式を変えてしまうほど、その影響力は大きいものなのである。
ジャニーズ事務所と人権問題
ここで人権についてもおさらいしておきたい。人権はESGにおける最重要課題の一つだ。故ジャニー喜多川氏による性加害問題が人権の観点からも問題になっているが、具体的にどういった点において問題なのか。
そもそも人権とは簡単に言えば「人が人らしく生きる権利」であり、その中には「安心して生きる権利」が含まれる。その権利は大人でも子供でも、そしてどんな性別においても保証されるべきものだ。
また、「子供の人権」として子供たちが育ち、安全に生きていくための権利もある。その中には「守られる権利」がある。
この性加害問題において、性被害や児童虐待、そして守られなかった子供たちの存在があり、前述した「安心して生きる権利」と「守られる権利」が侵害されているといえるだろう。その他、児童労働やハラスメントなどの観点で問題視されるものもある可能性がある。
また、ジャニーズ事務所の対応も問題視されている。2023年5月14日に公開されたジュリー社長の動画と文書が十分な説明責任を果たしているのかどうか、故ジャニー喜多川氏の名前が入った「ジャニーズ」の名称が変わらないこと、性加害に対する事実は認めたものの、具体的な被害者救済への施策は決まっていないことなどは、一企業の態度としても、人権デューデリジェンスの観点からも問題があると言えるだろう。
人権デューデリジェンスを定めたUNGPsの原則17には、「他者が犯した侵害から利益を得ているとみられる場合など、企業はその当事者の行為に『加担している』と受け取られる可能性がある」とある。
起用しているのはタレント個人であるが、契約をするのはジャニーズ事務所だ。人権に配慮していない会社の財やサービスの提供を受けることや、広告費という多額の契約によってその企業を儲けさせることは、”侵害を犯してきたジャニーズ事務所”というくくりで見れば、タレントを起用し続けること自体が人権侵害を容認しているという見方をされてしまいかねない。
なぜ大手企業はジャニーズ起用を見送るか
ここまで見てきたように、広告における広告における経済的、社会的な役割と影響力は大きく、また故ジャニー喜多川氏による性加害問題やジャニーズ事務所の対応は人権の観点から問題があるといえる。それを理解しているからこそ大手企業は相次いで起用を見送っているのである。
世間は、ジャニーズ事務所に所属しているグループや個人に問題があるわけではないことも、応援しているファンたちが大勢いることも分かっている。企業としても、広告起用見送りは本意ではないだろう。しかし、この判断は社会的責任を担う一企業として、その責任を果たす理性的な判断なのではないだろうか。
ジャニーズ個人との契約など、別の形での対応の可能性も浮上している。問題をなかったことにせず、責任を追及し変化や対応を求めると同時に、望ましい形でジャニーズ事務所に所属するグループや個人の姿がファンの元へ届けられてほしい。
[参考]
ジャニーズ広告、終了続々 人権配慮―マクドナルド、花王も:時事ドットコム
ジャニーズ性加害問題 各企業が広告見直し Snow ManをCM起用・アサヒHD「人権方針に反する」(スポニチアネックス) – Yahoo!ニュース
富山大学 テレビコマーシャルが映し出す「外国人」と日本の国際化 第二章:現代社会のシステムにおける広告の定義と社会・経済的機能 陳國忠
立命館産業社会論集大58巻第1豪 「広告の社会的機能~経済・社会・文化・経営からの考察~ 小泉秀昭
ジャニーズ性被害と「人権指導原則」のはざまで最適解を探る – オルタナ
子どもの権利(けんり)ってなんだろう? | 東京都小平市公式ホームページ
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