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飛ばなかった官製ジェットに賭けた人々の怨嗟を拾え!

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イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!

 今から7年前、ワタシは少年のようなテレビっ子だった。いやテレビおっさんだった。チャンネルを6に合わせ、佃製作所が提供したバルブシステムを搭載した純国産ロケットの打ち上げを、その他大勢のおっさんたちと一緒に、いまかいまかと固唾を呑んで見守っていた。そしてロケットの打ち上げは無事成功し、そこまでの道程を見守ってきたワタシは、社長の佃航平氏以上に涙腺を緩ませた…。

えっ? 佃製作所、ご存じない? と言うかもうお忘れか? あの「下町ロケット」の名シーンを。
だが、常に冷静を保つビジネスライターの私は、感動の鼓動を刻むハートとは別に、妙な胸騒ぎを覚え、ある雑誌※のコラムにしたためたのだった。

タイトルは「純国産ジェット機を持ち上げるなら三菱よりホンダだろ!」である。

当時三菱重工は、H2ロケットの打ち上げを成功させ、その子会社である三菱航空機がMRJ(Mitsubishi Regional Jet)、後にSJ(Space Jet)が初フライトを成功させ(2015年11月11日)、湧きに湧いていた頃だった。

したためたコラムは以下のような内容だった。
「ご承知のように、下町ロケットのモデルは三菱重工が開発した日本の先端技術の結晶である。そしてMRJは、戦後航空機製造業の消滅を余儀なくされた日本にとっては悲願であっただけに、マスコミの扱いは大きかった。

MRJは従来機より燃費が2割いいのが最大のウリだ。三菱は、今後中型ジェット機市場の5000機の半数近く、2000機を狙うと強気だ。現在採算ラインの400機の注文があるという。ただ決して安閑とはできない。

 先行する2強、ブラジル・エンブラエルとカナダのボンバルディアに加え、中国とロシアが中型機「ARJ」と「スーパージェット100」を開発している。中国が先行開発したARJには信頼性に疑問符がつくとして、引き合いはないようだが、ロケット打ち上げの実績では日本を1桁上回っている中国の空の実力は侮れない。
ロシアも同様だ。ボンバルディアもエンブラエルも当然必死に新型を出してくる。型式証明に手間取れば、キャンセルの憂き目もありうる。

何よりワタシが気にしているのは、「戦後初国産ジェット旅客機」という見出しの扱いだ。聞けばMRJの部材の7割は海外という。航空機という世界を相手にするビジネスであれば、その調達先に海外を入れる必要があることは分かるし、イマドキはクルマにしてもグローバルサプライチェーンのなかで完成させるものだ。

ただウリのエンジンは航空エンジンメーカー「プラット・アンド・ホイットニー(PW)」製だ。「そのあたり、どうよ?」という気もする。

とすれば、もっと褒めてしかるべきなのが、今年米国から日本に飛来した純国産ジェット機「ホンダジェット(HJ)」ではないか。HJは、四輪メーカーのホンダが開発してきた7人乗り(機長含む)のビジネスジェット機だ。

すでに米国の事前型式証明は取得、あとは本証明を待つだけだ。米国での生産認可も降りている。MRJとは規模と技術の位相こそ違え、何せ四輪メーカーが航空機メーカーになった例は稀有で、しかもエンジンと機体を総合開発したのは世界初。

聞けばまだ二輪メーカーだった1960年代に創業者の本田宗一郎が構想を描き、歴代社長がその思いを紡ぎ、独自技術開発を重ねて実現したのだ。

肝心のエンジンは表向きGEとの合弁になっているが、基本設計・開発はホンダオリジナル。GEはF1とエコカーでホンダが培ったその性能に魅了され、GE側から提携を申し込んだのだ。HJはその高性能エコエンジンと、主翼にエンジンを載せる独自形状のボディでクラストップの燃費を誇る。

歴史を端折れば、田舎の自動車修理会社がジェット機を独自開発し、事業を軌道に乗せようとしているのだ。歴史的快挙と言っていい。だがホンダの歴史を紐解けばある程度得心がいく。

ホンダが四輪メーカーとして国内市場に参入しようとした1960年代、当時の通産省が「アメリカのビッグ3が進出したら、日本の自動車メーカーは生き残れない」と、臨時法案まで用意し、クラス別に2、3社に整理する予定だった。

ホンダもその合併対象になっていた。航空機どころか四輪メーカーの夢を潰されかねないと判断した宗一郎は猛反発し、通産省に怒鳴り込んだ。以来ホンダは国への反発を強め、独自路線を鮮明にした。その反骨精神が、世界初のエコエンジンCVCCやアシモ、ホンダジェットを生み出したと言ってもいい。

そして通産省が進めたホンダの合併先こそが、三菱自動車だった。

MRJ報道が、どうも“官”受けがいいのは三菱だからというのは、穿ちすぎなのかもしれないが、いずれにしても官の判断というものは用心して聞くべきだろう」

2023年7月15日現在、SJもその製造メーカーの三菱航空機すら解体されてしまった。穿ち過ぎてはいなかった。正鵠を射ていたと言ってもいい。

そしていまだに国も三菱航空機の親会社の三菱重工も、500億円と言われた投入した経済産業省の予算の中身と、なぜ失敗したかを説明はしていない。ようやく経済産業省が検証を始める、という報道がこの6月に出たばかりだ。

少なくとも検証なら当事者ではなく、第3者が進めるべきである。お手盛りの検証は要らない。

ワタシはこのプロジェクトに声をかけられ参加し、世界で数台しかないという億単位の機械を導入し、社屋もリニューアルした社員数10数名の企業をはじめ、東海地区の複数の企業を取材したことがある。三菱側は違約金を払うとしているが、詳細は明らかにしていない。
SJにつぎ込んだ中小企業の投資と時間は報われるのだろうか。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

※「BigLife21」の掲載コラムはこちらから読むことができます!

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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